ここでは2つの建物侵入損失のモデルを紹介する。
1つは移動通信におけるシステム評価に必要なチャネルモデルの中で利用されている屋外から屋内への侵入損失モデル [1][2]。もう1つは、ビル侵入時の損失をサイト固有ではなく、確率論的モデルにより求める建物侵入損失 [3]についてである。
屋外から屋内への侵入損失モデル
モデルの概要
屋外から屋内への伝搬損失[1][2]を求める。屋外での伝搬損失に、ビル侵入時の損失と建物内部の損失を加算することで求める。ここでは、ビル侵入時の損失と建物内部の損失について説明する。ビル侵入時の損失は材質と周波数により変化する。建物内部の損失は建物内部における伝搬距離により変化する。周波数は0.5GHz~100GHzである。文献[1]の0.5GHz~100GHz帯において連続性を重視したモデル(model B)について、記載する。
数式
文献[1]の建物侵入損失を含めた伝搬損失は次の通り。
\(
PL = PL_b + PL_{\it tw} + PL_{\it in} + N (0, \sigma_p^2) \\
\tag{1}
\)
\(PL_b\)は屋外での伝搬損失、\(PL_{tw}\)はビル侵入時の損失、\(PL_{in}\)は建物内部における伝搬距離に対する損失である。
ビル侵入時の損失\(PL_{tw}\)は、以下の式で求められる。
ビル壁面が低損失の場合
\(
PL_{\it tw} = 5 – 10 \log_{10} \left( 0.3 \cdot 10^{-L_{\it grass}/10} + 0.7 \cdot 10^{-L_{\it concrete}/10} \right) \\
\tag{2}
\)
ビル壁面が高損失の場合
\(
PL_{\it tw} = 5 – 10 \log_{10} \left( 0.7 \cdot 10^{-L_{\it IRRgrass}/10} + 0.3 \cdot 10^{-L_{\it concrete}/10} \right) \\
\tag{3}
\)
\(L_{glass}, L_{IRRglass}, L_{concrete}\)はガラス、赤外線反射ガラスとコンクリート材質の透過損失で、 \(f\)は周波数である。
\(
L_{\it glass} = 2 + 0.2 \cdot f \\
\tag{4}
\)
\(
L_{\it IRRgrass} = 23 + 0.3 \cdot f \\
\tag{5}
\)
\(
L_{\it concrete} = 5 + 4 \cdot f \\
\tag{6}
\)
建物内部における伝搬距離に対する損失\(PL_{in}\)は、\(d_{2D-in}\)は建物内部の水平面上の2次元距離である。
\(
PL_{\it in} = 0.5 d_{{\rm 2}{\it D-in}} \\
\tag{7}
\)
\(N(0, \sigma_p^2)\)は、平均0で標準偏差\(\sigma_p\)の正規分布である。
標準偏差\(\sigma_p\)は、以下の通りである。
ビル壁面が低損失の場合
\(
\sigma_p = 4.4 \\
\tag{8}
\)
ビル壁面が高損失の場合
\(
\sigma_p = 6.5 \\
\tag{9}
\)
屋外での伝搬損失\(PL_b\)は文献[1]に詳細が記載されている。
パラメータ
記号 | パラメータ説明[単位] | パラメータ範囲 |
\(PL\) | 伝搬損失 [dB] | - |
\(PL_{b}\) | 屋外での伝搬損失 [dB] | - |
\(PL_{tw}\) | ビル侵入時の損失 [dB] | - |
\(PL_{in}\) | 建物内部における伝搬距離に対する損失 [dB] | - |
\(N\) | 正規分布 | - |
\(\sigma_p\) | 標準偏差 [dB] | ー |
\(L_{glass}\) | ガラス材質の透過損失 [dB] | ー |
\(L_{IRRconcrete}\) | 赤外線反射ガラス材質の透過損失 [dB] | ー |
\(L_{concrete}\) | コンクリート材質の透過損失 [dB] | ー |
\(f\) | 周波数 [GHz] | 0.5~100 GHz |
\(d_{2D-in}\) | 建物内部の水平面上の2次元距離 [m] |
計算例
ビル侵入時の損失と建物内部における伝搬距離に対する損失を加算した計算例は次の通り。
プログラム
建物侵入損失
モデルの概要
ビル侵入時の損失をサイト固有ではなく、確率論的モデルにより求める建物侵入損失 [3]であり、屋外から屋内へ、屋内から屋外への伝搬損失を求める。周波数は80MHzから100GHzまでで、一般的な建物と熱効率の良い2つのタイプについての付加損失が示されている。このモデルはビル侵入時の損失と建物内部の損失を分けて計算しないモデルである。
数式
建物侵入損失は下記の式で与えられる。
\(
L_{\it BEL}^{\it omni} = 10 \log \left( 10^{0.1 A(P)} + 10^{0.1 B(P)} + 10^{0.1 C} \right) \\
\tag{10}
\)
\(P\)は求める損失以上にならない確率である。ここで\(A(P)\)、\(B(P)\)、\(C\)は下記の式で与えられる。
\(
A(P) = F^{-1} (P) \sigma_1 + \mu_1 \\
\tag{11}
\)
\(
B(P) = F^{-1} (P) \sigma_2 + \mu_2 \\
\tag{12}
\)
\(
C = -3.0 \\
\tag{13}
\)
\(\sigma_1\)、\(\sigma_2\)、\(\mu_1\)、\(\mu_2\)はビルの種類で決まる係数(\(u\)、\(v\)、\(y\)、\(z\)、\(w\)、\(x\))と周波数(\(f\))で求められる。\(F^{-1}(P)\)は正規分布の累積分布関数の逆関数である。
\(
\sigma_1 = u + v \log (f) \\
\tag{14}
\)
\(
\sigma_2 = y + z \log (f) \\
\tag{15}
\)
\(
\mu_1 = L_h + L_e \\
\tag{16}
\)
\(
\mu_2 = w + x \log (f) \\
\tag{17}
\)
\(L_h\)は水平パスに対する中央損失で、式(18)から与えられる。 \(L_e\) はビル正面でのパスの仰角に対する係数である。
\(r\)、\(s\)、\(t\)はビルの種類で決まる係数である。
\(
L_h = r + s \log (f) + t \left( \log (f) \right)^2 \\
\tag{18}
\)
\(
L_e = 0.212 |\theta| \\
\tag{19}
\)
\(\theta\)はビル正面でのパスの仰角である。
パラメータ
ビルの種類で決まる係数(\(u\)、\(v\)、\(y\)、\(z\)、\(w\)、\(x\)、\(r\)、\(s\)、\(t\))は下記の表に記載されている。
記号 | 一般的な建物 | 熱効率の良い建物 |
\(u\) | 9.6 | 13.5 |
\(v\) | 2.0 | 3.8 |
\(y\) | 4.5 | 9.4 |
\(z\) | -2.0 | -2.1 |
\(w\) | 9.1 | 27.8 |
\(x\) | -3.0 | -2.9 |
\(r\) | 12.64 | 28.19 |
\(s\) | 3.72 | -3.00 |
\(t\) | 0.96 | 8.48 |
計算に用いる変数
記号 | パラメータ説明[単位] | パラメータ範囲 |
\(L^{omni}_{BEL}\) | 建物侵入損失 [dB] | - |
\(f\) | 周波数 [GHz] | 0.08~100 GHz |
\(P\) | 求める損失以上にならない確率 | 0.0~1.0 |
\(\theta\) | ビル正面でのパスの仰角 [度] | - |