モデルの概要

図1左図に示すように、アンテナ周辺に伝搬路を妨げるものが無い場合でも、送信アンテナから見て,受信アンテナが地平線の先に設置された場合、地球の大地による遮蔽が発生するため、主要な伝搬路は地球表面を周り込む回折パスとなる。ここでは地球表面を廻り込む回折によって発生する回折損失について記載する。

図1 球面大地による回折と等価地球半径

<等価地球半径>

地球大気中の長距離伝搬を考える場合、電波の伝搬経路が大気屈折率の影響を受けることに気を付けなければならない。大気は地球表面に沿って分布しており、高度が高くなるにつれて大気屈折率は小さくなっていく。この結果、図1の左図に示すようにTxから出射された電波は下方に曲がりながら伝搬していく[3]。
この現象を容易に扱うために、電波の経路が大気によって下方に曲げられる曲率を地球の半径を等価的に大きくすることによって吸収し、標準大気中の自由空間伝搬経路を直線として扱うことが行われている(図1の右図を参照)。このとき等価的に設定される地球の半径を「等価地球半径」と呼び、等価地球半径を実際の地球の半径で除したものを「等価地球半径係数」と言う。等価地球半径係数の値は標準大気において4/3になることが知られている[3]。本モデルについても等価地球半径の考え方を用いている。

数式

球面大地による回折損失\(L_{d}\)は(1)式の通りとなる。

\(L_d = F(X) + G(Y_1) + G(Y_2) \\
\tag{1}\)

ただし、

\(F(X) = \left\{
\begin{array}{ll}
11 + 10 \log_{10} (X) – 17.6 X & X \geq 1.6 \\
-20 \log_{10} (X) – 5.6488 X^{1.425} & X < 1.6
\end{array}\right. \\
\tag{2}\)

\(G(Y) = \left\{
\begin{array}{ll}
17.6 (B – 1.1)^{1/2} – 5 \log_{10} (B – 1.1) – 8 & B > 2\\
20 \log_{10} (B + 0.1 B^3) & B \leq 2
\end{array}
\right. \\
\tag{3}\)

なお,\( G(Y) < 2 + 20 \log_{10} K\) のときは \(G(Y) = 2 + 20 \log_{10} K \)とする。

ここで、

\(B = \beta Y \\
\tag{4}\)

\(\beta = \frac{1 + 1.6 K^2 + 0.67 K^4}{1 + 4.5 K^2 + 1.53 K^4} \\
\tag{5}\)

\(K^2 \approx 6.89 \frac{\sigma}{k^{2/3} f^{5/3}} \\
\tag{6}\)

ただし、水平偏波、もしくは20MHz以上の陸上伝搬路で垂直偏波、300MHz以上の海上伝搬路で垂直偏波のときは\(\beta=1\)とする。

また、

\(X = d \beta \times \sqrt[\uproot{10}3]{\frac{\pi}{\lambda a_e^2}} \\
\tag{7}\)
\(Y_1 = 2 h_1 \beta \times \sqrt[\uproot{10}3]{\frac{\pi^2}{\lambda^2 a_e}} \\
\tag{8}\)

\(Y_2 = 2 h_2 \beta \times \sqrt[\uproot{10}3]{\frac{\pi^2}{\lambda^2 a_e}} \\
\tag{9}\)
\(a_e = kR \\
\tag{10}\)

パラメータ

記号パラメータ説明[単位]パラメータ範囲
\(L_d\)球面大地による回折損失 [dB]
\(\lambda\)波長 [m]
\(f\)周波数 [Hz]
\(a_e\)等価地球半径 [m]
\(h_1\)送信アンテナ高 [m]
\(h_2\)受信アンテナ高 [m]
\(K\)地球表面アドミタンス補正係数
\(k\)等価地球半径係数=4/3
\(\sigma\)大地表面の実効導電率 [S/m] ※ITU-R Rec. P.832参照
\(R\)地球の半径 [m]
\(d\)送受信アンテナ間距離 [m]

計算例

プログラム

参考情報

本データベース記載の式は電波伝搬ハンドブック[3]のpp.26-27に記載のある式と複数異なることに注意が必要である。これは本データベースの参照式がITU-R Rec. P.526-15[1]であることに対して、電波伝搬ハンドブックの参照式がITU-R Rec. P.526-5[4]であることが原因である。例えば、\(\beta\)を導出する式の係数[式(7)と(18)]が異なることと、\(F(X)\)と\(G(Y)\)の式の場合分けの違い、などである。以下に電波伝搬ハンドブックのpp.26-27記載式を掲載する。

\(L_d = F(X) + G(Y_1) + G(Y_2) \\
\tag{11}\)
ただし、

\(\begin{array}{ll}
F(X) = 11 + 10 \log_{10} (X) – 17.6 X & X \geq 1.6 \\
\end{array}
\tag{12}\)

\(G(Y) = \left\{
\begin{array}{ll}
17.6 (Y – 1.1)^{1/2} – 5 \log_{10} (Y – 1.1) – 8 & Y > 2\\
20 \log_{10} (Y + 0.1 Y^3) & 10K < Y < 2 \\
\begin{array}{l}
2 + 20 \log_{10} (K) + \\
\quad 9 \log_{10} (Y/K) [\log_{10} (Y/K) + 1]
\end{array}
& K/10 < Y < 10K \\
2 + 20 \log_{10} (K) & Y < K/10
\end{array}
\right. \\
\tag{13}\)

ここで、

\(\beta=\frac{1 + 1.6 K^2 + 0.75 K^4}{1 + 4.5 K^2 + 1.35 K^4}\tag{14}\)

また、

\(
X = d \beta \times \sqrt[\uproot{10}3]{\frac{\pi}{\lambda a_e^2}} \\
\tag{15}
\)

\(
Y_1 = 2 h_1 \beta \times \sqrt[\uproot{10}3]{\frac{\pi^2}{\lambda^2 a_e}} \\
\tag{16}
\)

\(
Y_2 = 2 h_2 \beta \times \sqrt[\uproot{10}3]{\frac{\pi^2}{\lambda^2 a_e}} \\
\tag{17}
\)

\(
a_e = kR \\
\tag{18}
\)

\(K\)は大地表面アドミタンス補正係数であり、大地表面の実効比誘電率\(\epsilon_{r}\)、実行導電率\(\sigma\)[S/m]とすると水平偏波\(K_{H}\)および垂直偏波\(K_V\)は以下となる。

\(
K_H = \left( \frac{2 \pi a_e}{\lambda} \right) \left( \frac{2 \pi a_e}{\lambda} \right)^{-1/3} \left[ (\varepsilon_r – 1)^2 + (60 \lambda \sigma)^2 \right]^{-1/4} \\
\tag{19}
\)

\(
K_V = K_H \sqrt{\varepsilon_r^2 + (60 \lambda \sigma)^2} \\
\tag{20}
\)

ただし、水平偏波、もしくは20MHz以上の陸上伝搬路で垂直偏波、 300MHz以上の海上伝搬路で垂直偏波のときは\(\beta=1\)とする。

20MHz以下の陸上伝搬路および 300MHz以下の海上伝搬路の垂直偏波のときは以下の近似式が用いられる。

\(
K_V^2 \approx 6.89 \frac{\sigma}{k^{2/3} f^{5/3}} \\
\tag{21}
\)

参照

[1] ITU-R Rec. P.526-15, “Propagation by diffraction,” Oct. 2019.

[2] ITU-R Rec. P.832-4, “World Atlas of Ground Conductivities,”July 2015.

[3] 細谷良雄監修, 電波伝搬ハンドブック, リアライズ社, 1999.

[4] ITU-R Rec. P.526-5, “Propagation by diffraction,”Aug. 1997.