モデルの概要

 都市内のセルラー環境で測定に基づいて伝搬損失と伝搬遅延の周波数特性を研究した報告は幾つかあるが、文献[1]はUHF帯から15GHzまでの周波数特性を初めて示した先駆的な研究結果である。図1に都市内のセルラー環境のイメージを示す。文献[1]では、伝搬損失の周波数特性は450MHz~15GHzの範囲で\(20 \log f\)であることを示している。また、電力遅延プロファイルとRMS遅延スプレッドは3~15GHzの範囲でほぼ同じであることを示している。送受信間距離と基地局アンテナ高を変えた測定が行われて、条件の範囲が示されている。
 セルラー環境での周波数特性に関する初期の報告を文献[2-9]に示す。文献[2-6]が伝搬損失で、文献[7-9]が伝搬遅延である。測定に基づいた15GHzまでの周波数特性については文献[1]の報告が最初であった。

図1 都市内のセルラー環境

<伝搬損失>
 日本の都市環境でのマクロセルとマイクロセルで伝搬損失の測定が行われた。測定周波数は、457.2MHz、813MHz、2.2GHz、4.7GHz、8.45GHz、15.45GHzである。測定に用いた基地局は7つで送信アンテナ高は、高層ビル街で30m、30m、40m、100m、低層ビル街で20m、25m、30mである。これらの測定から次の結果が得られた。
・各周波数ごとの10m短区間変動を比べると全て同じような変動をしている。また、短区間変動の標準偏差も周波数によらず近い値である。
・伝搬損失の周波数特性をみると、\(20 \log f\)に近い特性になる。
以上をまとめると、表1に示す条件の範囲において伝搬損失や短区間変動の周波数特性は\(20 \log f\)に近い。これは、自由空間損失の周波数特性は\(20 \log f\)であるため、周波数ごとの超過損失が同じであることを示している。また、周波数特性をもつ回折波は支配的ではないと考えられる。

表1  伝搬損失のパラメータと範囲

記号 パラメータ説明 [単位]   範囲
\(f\)周波数 [GHz] 0.457~15.45 GHz
\(h_b\) 基地局アンテナ高 [m]20~100 m
\(d\)送受信間距離 [km]3 km以内

<伝搬遅延> 
 電力遅延プロファイルの測定が高層ビル街の3つの基地局で3GHz、8GHz、15GHzの周波数で行われた。基地局高は30m、30m、40mである。これらの測定から次の結果が得られた。
・周波数ごとの遅延プロファイルの形状はお互いに近い。
・ RMS遅延スプレッドの累積分布を求めると、周波数によらずお互いに近いカーブが得られる。累積50%や累積95%で比較しても周波数によらず近い値になる。
以上をまとめると、表2に示す条件の範囲において遅延プロファイルや遅延スプレッドは周波数によらずお互いに近いことがわかった。

表2 伝搬遅延のパラメータと範囲

記号パラメータ説明 [単位]     範囲
\(f\)周波数 [GHz]       3~15 GHz
\(h_b\) 基地局アンテナ高 [m]30~40 m
\(d\)送受信間距離 [km]1 km以内

文献[1]にはモデルの推定精度は示されていない。モデルの妥当性は測定結果のグラフで示されている。直接、文献を参照して頂きたい。

参照

[1] Y. Oda, R. Tsuchihashi, K. Tsunekawa, M. Hata, “Measured path loss and multipath propagation characteristics in UHF and microwave frequency bands for urban mobile communications,’’ Proc. IEEE VTC 2001 Spring, pp.337-341, Rhodes, Greece, May. 2001.
[2] M. Hata, “Empirical formula for propagation loss in land mobile radio services, ”IEEE Trans. Veh. Technol., vol.VT-29, no.3, pp.317-325, Aug. 1980.
[3] F. Ikegami, S. Yoshida, T. Takeuchi, and M. Umehira, “Propagation factors controlling mean field strength on urban streets, ”IEEE Trans. Antennas Propagat., AP-32, no.8, pp.822-829, Aug. 1984.
[4] J. Walfisch and H. L. Bertoni, “A theoretical model of UHF propagation in urban environment, ”IEEE Trans. Antennas Propagat., AP-36, no.12, pp.1788-1796, Dec. 1988.
[5] 藤井輝也,“陸上移動通信における伝搬損推定式-”坂上式“ の拡張-,” 信学論(B),vol. J86-B,no.10,pp.2264-2267,Oct. 2003.
[6] 太田喜元,表英毅,三上学,藤井輝也, “マイクロ波帯における伝搬損失推定式の検討-“拡張坂上式”との比較-,”信学技報,AP2003-319,pp.51-56, March. 2004.
[7] 関澤信也,守山栄松,“都市内における1.5GHz帯多重路伝搬特性,”信学論(B-Ⅱ),vol.J72-B-Ⅱ,no.9, pp.499-501,Sep. 1989.
[8] Y. Ohta and T. Fujii, “Delay profile prediction in microwave-band for wideband radio propagation,” Proc. ISAP2005, vol.3, pp.1105-1108, Seoul, Korea, Aug. 2005.
[9] 藤井輝也,表英毅,太田喜元,“広帯域移動体通信における時空間電波伝搬モデル,”信学論(B),vol.J91-B,no.9,pp.901-915,Sep. 2008.