見通し率の説明

 高周波数帯における無線ゾーン設計では,送受信点間の見通し有無の評価(見通しエリアの推定)が重要な検討項目となる.見通し有無の評価は,ある環境において送受信点を設定した場合に,その送受信点間に見通しが取れる確率を推定することが一般的である.ここでは,基地局(BS)-端末局(UT)間に見通しがとれる確率を見通し率と呼ぶ.

 見通し率の具体的な使われ方は,ある条件下において見通しが確保できる場所率の推定評価を行うことのみならず,他無線局との見通しがとれることによる予被干渉の発生確率の評価に用いられるなどしている.また,移動通信等のポイント-エリアシステムにおける通信容量の評価においては,見通し率を用いて個々の端末毎に見通しの有無を設定し,それによって評価に用いる伝搬損失推定式を変更する等,見通しの有無の場合分けに用いられる.

 電波伝搬において“見通し”と言った場合,大きく二つの定義が存在する.一つは送受信点間を結ぶ見通し線が遮られない場合,もう一つは見通し線の周囲に地物や什器が存在せず,それらからの回折の影響がない場合である.後者の場合は,第1フレネルゾーンが障害物にかからないことが目安になる.ここで述べる“見通し”は,前者の定義に沿ったものであり,送受信点間を結ぶ見通し線が遮られない場合を指す.

 見通し率の推定法には様々なものがあるが,BS-UT間距離のみをパラメータとした見通し率の推定式と,BS-UT間距離に加えて,基地局高,端末局高,評価する領域の建物高さ分布,建物密度等もパラメータとして用いる推定法とに大別できる.前者をSite-generalモデル,後者をSite-specificモデルと呼ぶことにする.主なSite-generalモデルとして「ITU-R報告M.2412の見通し率推定式」, 主なSite-specificモデルとして「ITU-R勧告P.1410の見通し率モデル」,「都市内アクセス無線通信のための見通し率モデル」等が上げられるが,ここでは「ITU-R報告M.2412の見通し率推定式」について紹介する.

モデルの説明 

 ITU-R 報告 M.2412は,IMT-2020に対するシステム評価用に定められたものである.InH(Indoor Hotspot),UMa(Urban Macro),UMi(Urban Micro),RMa(Rural Macro)の各シナリオに対して見通し率の推定式が与えられている[1].表1に一覧を示す.また,推定式に用いられている変数について図1に示す.

   表1 ITU-R報告 M.2412における見通し率の推定式

シナリオ    見通し率
InH\(
P_{LOS} = \left\{
\begin{array}{lll}
1               ,d_{2D} \leq {\rm 5 m} \\
{\displaystyle \exp \left(- \frac{d_{2D}-5}{70.8} \right)}       ,{\rm 5m<} d_{2D} \leq \rm 49m \\
{\displaystyle \exp \left(- \frac{d_{2D}-49}{211.7}\right) \cdot 0.54}   ,{\rm 49m<} d_{2D} \\
\end{array}
\right. \
\)
UMa屋外:
\(
P_{LOS} = \left\{
\begin{array}{ll}
1             ,d_{2D} \leq {\rm 18 m} \\
{\displaystyle \left[ \frac{18}{d_{2D}} +\exp \left(- \frac{d_{2D}}{63} \right) \left(1- \frac{18}{d_{2D}} \right) \right] \cdot \left[ 1+C'(h_{UT}) \frac{5}{4} \left( \frac{d_{2D}}{100} \right)^{3} \exp \left(- \frac{d_{2D}}{150} \right) \right]   ,{\rm 18m<} d_{2D} } \\
\end{array}
\right. \
\)

ここで、
\(
C’(h_{UT}) = \left\{
\begin{array}{ll}
0           ,h_{UT} \leq {\rm 13 m} \\
{\displaystyle \left( \frac{h_{UT}-13}{10} \right) ^{1.5}    ,{\rm 13m<} h_{UT} } \leq {\rm 23 m} \\
\end{array}
\right. \
\)
屋内:
\(d_{2D}\)を\(d_{2D-OUT}\)に置き換える.
UMi屋外:

\(
P_{LOS} = \left\{
\begin{array}{ll}
1                     ,d_{2D} \leq {\rm 18 m} \\
{\displaystyle \frac{18}{d_{2D}}+\exp \left(- \frac{d_{2D}}{36} \right) \left(1- \frac {18}{d_{2D}} \right)    ,{\rm 18m<} d_{2D} } \\
\end{array}
\right. \
\)

屋内:
\(d_{2D}\)を\(d_{2D-OUT}\)に置き換える.
RMa屋外:

\(
P_{LOS} = \left\{
\begin{array}{ll}
1             ,d_{2D} \leq {\rm 10 m} \\
{\displaystyle \exp \left(- \frac{d_{2D}-10}{1000} \right)    ,{\rm 10m<} d_{2D} } \\
\end{array}
\right. \
\)

屋内:
\(d_{2D}\)を\(d_{2D-OUT}\)に置き換える.

以下に各シナリオの説明を示す.

【Indoor Hotspot(InH)環境】 
 ビルの1フロアを想定.フロアの高さが3 m,縦が50 m,横が120 mのフロアが想定されており, 図2に示すように,20メートル間隔で配置された基地局/サイトが12個存在する環境である.図中には間仕切り等の遮蔽体が明記されていないが,見通しの有無については,表1のLOS確率により与えられるとされている.1サイト当たりのセクタ数についての定義はなく,1または3として検討を行うが,どちらを想定するのかについてはモデルの使用者に委ねられている.

【Urban Macro (UMa)環境】
 基地局アンテナ高を25 mとしており,一般に基地局アンテナ高が周囲建物よりも高く,大きなセルを構成する環境である.端末高は1.5 m~22.5 mとされており,端末高が基地局高よりも低い環境である.図3に示すように六角形セルレイアウトが想定されており,1つの基地局当たりのセクタ数を3セクタとしている.

【Urban Micro (UMi)環境】 
 基地局アンテナ高を10 mとしており,図4に示すようにマクロセルの中に存在する,より小さなマイクロセルの想定である.端末高は1.5 m~22.5 mとしておりUMaの場合と同様である.UMaにおける1セクタの中に3つのマイクロセルが存在するモデルとなっている.1セルを構成するためのセクタ数についての定義はなく,1または3として検討を行うが,どちらを想定するのかについてはモデルの使用者に委ねられている.

【Rural Macro (RMa)環境】
 建物密度が高くなく,広い範囲を1つの基地局がカバーするような環境が想定されている.セルレイアウトは図3に示す六角形セルが想定されている.基地局アンテナ高が10 m~150 m,端末高が1.5 m~10 mとされている.基地局のセクタ数は3セクタとされている.端末が高速移動(120 km/h,または,500 km/h)する環境における評価を主たる目的としている.

計算例

参照

[1] ITU-R Rep. M.2412-0, “Guidelines for evaluation of radio interface technologies for IMT-2020,” ITU-R Report, M Series, ITU, Geneva, 2017.