IEICE ICT PIONEERS WEBINARシリーズ~第26弾~

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主催:(一社)電子情報通信学会サービス委員会

集積回路開発40年の歩み―ADC、アナ・デジ混載SoC、ミリ波CMOS技術を中心として―

松澤 昭(株式会社テックイデア 代表取締役)

【開催日時】2022年6月28日(火)15:00~16:30

講演内容

 今日、半導体(集積回路)は電子機器のみならず自動車を含む全ての機器の最重要部品として国家の安全をも左右するものと認識され始めています。
集積回路は回路自体はボード上の回路とあまり変わりませんが、集積回路になって初めて機器の性能と信頼性を上げるとともにコストと消費電力を下げることができるため、機器の普及と産業の発展には欠かせません。しかしながらデジタル回路はスケーリング則により微細化と高集積化により性能を上げながらコストと消費電力を下げることができますが、私が開発を担当したデジタル映像機器やデジタル無線通信機器に必要なアナログ・デジタル混載集積回路では、A/D変換器(ADC)などでアナログ信号をデジタル信号間に変換するためにアナログ技術が必要ですが、デジタル回路とは異なりデバイスと回路性能の関係や、微細化と性能・消費電力の関係が不明確なため、特別な集積回路設計技術開発を必要としました。幾つものブレークスルーが必要とされたのです。
ところで現在では静止画や動画を普通にやり取りできるようになりました。このためにはビデオ用ADCが必要ですが、私が集積回路開発を始めた1979年には集積化されたビデオ用ADCは存在しなかったため、当時の私の使命はTV・VTRのデジタル化に必要な集積化されたADCを世界に先駆けて開発することであり、いくつもの世界初あるいは世界トップのADCを開発しました。この開発は、HDTV、デジタルポータブル映像機器、DVDなどのデジタル映像機器が誕生と発展に大いに寄与しました。またローパワー技術の開発により機器の小型化や省エネ化が進みポータブル機器、ウエアラブル機器、インプランタブル機器が発展しました。更にミリ波CMOSトランシーバの開発は従来利用できなかったミリ波通信の5Gシステムでの実用化に寄与しました。
今回の講演においては2022年IEEE Donald O. Pederson Award in Solid-State Circuitsの受賞理由である以下の4つの開発テーマについて、電子機器の発展、デバイスの発展、デバイスの課題とそれを克服する回路技術やシステム技術、半導体ビジネスのポイント、人材育成などについて40年以上に及ぶ講演者の開発体験をもとに論じようと思います。

1.デジタルTV・ビデオシステム実現のためのバイポーラADCの開発
2.超低電力CMOS ADCの開発とローパワーエレクトロニクスの振興
3.低電力超高速ADCの開発とアナログ・デジタル混載システムLSIの開発
4.ミリ波CMOSトランシーバの開発

藤島実エレクトロニクスソサイエティ会長からの紹介文

 松澤昭先生は、家電製品がアナログからデジタルに大きくシフトした時代に、松下電器産業(現パナソニック)で低消費電力のアナログ・デジタル変換回路とそれを用いたシステム集積回路を開発し、電器産業の発展に大きく貢献されました。東京工業大学に転職後は、5Gに使われるミリ波帯CMOS集積回路の研究開発に携わり、ミリ波トランシーバ用の集積回路を多数発表されています。東京工業大学退職後は、在職中に設立したテックイデアにて超低消費電力で動作するAIチップの開発に取り組んでいます。IEEEでは国際会議などで要職を歴任されているほか、電子情報通信学会においては集積回路研究委員長や大会運営委員長で貢献されました。今回、2022年IEEE Donald O. Pederson賞の受賞を記念して、松澤先生に集積回路技術の黎明期から現在に至るまで、企業や大学での様々なご経験をお話しいただく予定です。

講師略歴

松澤 昭

松澤 昭

1978年3月 東北大修士修了、同年4月 松下電器入社、2003年4月 東工大理工学研究科教授。2018年3月 東工大名誉教授 (株)テックイデア代表取締役。この間ビデオ用ADC、ローパワー技術、アナ・デジ混載SoC、ミリ波CMOSなどの集積回路開発に従事。著書「はじめてのアナログ電子回路」など8冊。2002年IEEEフェロー、2010年 IEICE フェロー、2017年文部科学大臣表彰科学技術賞、2019年信学会業績賞、2022年IEEE Donald O. Pederson Award in Solid-State Circuitsなどを受賞。博士(工学)。