電子情報通信学会 東海支部

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依佐美送信所の保存活動等

依佐美送信所の概要

依佐美送信所は1929年3月に、世界最大級の長波通信設備として、愛知県碧海郡依佐美村(現刈谷市高須町)に完成した。送信周波数17.442kHz、出力500kWであった。このレベルの高周波・大出力の真空管は当時まだ無く、依佐美送信所の設備は電動機と発電機の組み合わせで実現された。具体的には三相誘導電動機-直流発電機-直流電動機-誘導子型高周波発電機の4段構成が採用され、高周波発電機の周波数安定化にはワード・レオナード制御方式が採用された。高周波発電機で得られた周波数は5.814kHzであったので、出力側に3逓倍回路が接続された。当時の最高技術の結晶である。
送信所は250mの8基の無線鉄塔を有し、モールス信号によりヨーロッパに送信することができた。1929年にワルシャワを皮切りに欧州の主要都市への送信業務が開始され、当時の外交や通商を飛躍的に向上させることができた。その後、短波通信設備も強化され、長・短波ともに日本の国際通信施設としての重要な役割を果たした。
長波の性質として海面下深くまで到達できることから、送信所は太平洋戦争が始まった1941年から日本海軍により潜水艦との交信に使用された。1950年になり米海軍が対潜水艦通信用に再使用することとなり、電気興業が設備の保守をし、米海軍が運用を行うこととなった。1993年8月に業務を終えた送信所は、翌年8月に日本に返還された。依佐美のシンボルでもあった8基の鉄塔は、その一部分を残して1997年3月に解体された。社宅跡は「フローラルガーデンよさみ」として公園整備がなされている。その一角に依佐美送信所記念館が2007年4月に開館、主な送信設備と鉄塔1基が25mに短縮されて残されている。

依佐美送信所の外観

東海支部の活動

この送信所は歴史的な施設で世界的にみても貴重な産業技術文化遺産であり、中でも特殊高周波発電機はこの種の発電機としては現存する唯一の大型機となるため、関係者よりその保存が望まれていた。主要な設備は記念館に収められることになったが、1台の高周波発電機は保存先が決まらなかったため、中部産業遺産研究会等と協力して国内外の博物館・大学などに保存展示を依頼したが、受け入れ先を見出すことができなかった。そこで発電機の保存はあきらめ、装置を分解して構造調査をすることが提案され、その具現化のために「特殊高周波発電機保存検討委員会を設置し分解調査・図面作成・ビデオ撮影を実施した。この分解工事調査記録は調査報告書とDVDに纏められ、貴重な産業遺産の技術を保存することができた。またマイルストーンへの申請にあたり、英語版DVDも作成し認定への協力を行ってきた。
なお、東海支部では平成元年に創立50周年事業のひとつとして、1989年に送信所の敷地の一角に「対欧無線通信発祥地」の記念碑を建立している。

  • 対欧無線通信発祥地記念碑

    記念碑

  • 対欧無線通信発祥地記念碑の碑文

    碑文

IEEEマイルストーン認定

IEEE (The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)は米国に本部を置く世界最大の電気電子技術者の組織である。世界160以上の国に37万5千人の会員を擁し、コンピュータ、電子、通信、電力、自動車、バイオなどの分野で指導的な役割を担っている。IEEEマイルストーンは、関連分野で社会に大きく貢献した発明や技術開発を讃えるために1983年に制定された顕彰制度で、現在世界で80件以上が登録されている。IEEEマイルストーンは歴史的、社会的な価値に重点をおいたもので、受賞の対象は発明・開発から25年以上経過し世の中の評価に十分耐えてきたものから選ばれている。
そして、平成20年11月16日、依佐美送信所が国内9番目に認定された。世界最大の出力でヨーロッパへ国内で初めて送信したことや記念館に設備が保存されている点が評価された。

マイルストーン銘版

マイルストーン銘版

IEEEマイルストーン贈呈式

IEEEマイルストーンの贈呈式が下記の日程で行われた。

日時:平成21年5月19日(火)11:00~
場所:依佐美送信所記念館
主催:IEEE名古屋支部
共催:刈谷市、電子情報通信学会東海支部、中部産業遺産研究会
協力:地元ボランティアの会

マイルストーン

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