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研究成果の国際的な発信力強化に向けての提言

日本工学会加盟団体が中心になり平成16年2月27日に特別シンポジウム「グローバルな情報発信機能の強化に向けて−日本発科学論文誌の強化」を開催し、国内の欧文誌のあり方及び電子ジャーナルの育成と支援の必要性について政界、官界、産業界等の関係者と広く議論を交わしました。
 最後に、参加者一同の賛意を得て「研究成果の国際的な発信力強化に向けての提言」を取りまとめました。提言、その詳細説明、賛同者一覧を以下に記します。

 


平成16年2月27日

研究成果の国際的な発信力強化に向けての提言

特別シンポジウム実行委員会
シンポジウム参加者一同

 わが国の科学技術は、科学技術基本法に基づく基本計画に沿って着実な発展を遂げ、生み出される研究成果は、その質と量とにおいて世界の中でも主要な地位を占めるに至っている。ことに第2期科学技術基本計画では、「国際的な情報発信力の強化」が重要施策の一つとして取り上げられ、「学協会とも連携しつつ、国際的水準の英文論文誌の刊行等、情報の組織的な発信を行うための環境を整備する」と具体的に述べられている。

研究成果の生産と発信は、車の両輪のようにバランスが取れていなければならない。生産力に見合った発信力を整備することは、科学技術インフラの不可欠の一部であり、また国際社会において果たすべき責任の一つである。

しかるにわが国の現状は、上記施策の実現が困難な情況に陥っている。論文の公表が、従来の紙版中心から速報性を重視する電子(オンライン)版に大きく移行する潮流のなか、優れた研究業績を世界に発信してきた学協会は、紙版の発行を維持しながら、創刊号以来のバックナンバーを含めて論文の電子化を進めるという困難な課題に取り組み、厳しい財政的条件のもとで懸命の努力を重ねている。情報発信の基盤を担う学協会は、世界と競いながら発信を続けるための財政基盤強化にむけて新しいビジネスモデルを模索している。

これらのかってない困難な情況を乗り切り、わが国が科学技術力に見合った情報発信力を保持するためには、学協会を始めとする関係機関が、国の政策的支援を受けながら、一層の努力と連携を重ねなければならない。本日「グローバルな情報発信機能の強化に向けて」と題する特別シンポジウムを開催し、学協会等が直面している問題を分野を越えて討議して、発信力の強化に向けて取り組むべき緊急の課題を下記の三つに取りまとめた。

今後、学協会等の国際的な情報発信を担うものが、これらの課題解決に向けて協力して取り組むことを宣言し、あわせて関係府省にその支援を提言する。

1. 日本発の英文論文誌の発展・育成を通じて国際的な研究発信力を高めるには、学協会の取り組み態勢を抜本的に強化することが必要であり、またそれに対する国の効果的な支援が求められる。
2. 電子ジャーナル、電子アーカイブ、電子リンク等、情報流通基盤の早急な整備を
図る。
3. わが国の論文誌の発展に不可欠な前提として、個別論文の価値を正しく評価する気風を確立する。
研究成果の国際的な発信力強化に向けての提言(詳細)



研究成果の国際的な発信力強化に向けての提言(詳細)

1. 日本発の英文論文誌の発展・育成を通じて国際的な研究発信力を高めるには、学協会の取り組み態勢を抜本的に強化することが必要であり、またそれに対する国の効果的な支援が求められる。

 科学技術研究の成果を評価・精選し、それを論文として発信することは、研究自体に匹敵する重みと公共性を持っている。しかしその重要な役割は、基本的に民間組織である学協会の自助努力に委ねられてきた。学協会は、いまや論文発表の電子化に対応しつつ対外発信力を向上するという、かってない困難な事態に直面しており、これを打開するには、国の効果的な支援のもとで、互いに連携・協力しながら英文論文誌の刊行態勢を抜本的に強化する必要がある。

わが国から産み出される研究成果の英語による公表は、その8割が海外の論文誌に託されている。中でも世界的に話題となるような先端的発見・発明の多くが、欧米の論文誌から逆輸入される状態が続いている。生み出す研究成果においては世界の一角を占めるわが国としては、最先端分野の情報発信においても独自の相応の貢献をする必要がある。わが国からの発信力を総体として強化するという目標のもと、学協会は国の支援を受けて、世界に通用する英文論文誌の大胆な育成・強化を図らなければならない。

さらに必要があれば、論文誌の自発的な再編・統合や、欠けている機能を補う特色ある英文雑誌の創刊なども検討する。



2. 電子ジャーナル、電子アーカイブ、電子リンク等、情報流通基盤の早急な整備を図る。

 研究の成果を早期に公表しオリジナリティーを主張するには、電子版論文誌(電子ジャーナル)がもっとも有効な発信手段である。電子化されたバックナンバー(電子アーカイブ)は、容易に全世界にその利用の便宜を与えるものであり、また、わが国の論文誌の引用を盛んにする最も重要な資産のひとつである。欧米の主要な論文誌は100年以上の過去分の電子化を完了している。国は、優先度の高い論文誌から始めて、電子アーカイブの早急な完成を支援する必要がある。また天災、突発事故等にそなえた電子データ保存体制(「ミラーサーバー」等)の整備も急がれる。

これら、最新情報の発信機能、アーカイブ整備・利用、全世界のデータベースとの連結(電子リンク)などは、利用者の利便性、開発の迅速性、効率性、一貫性、持続性を重視せねばならない。各論文誌へのカストマイズが容易な電子投稿・電子閲読系ソフト、電子公開系ソフトの開発は引き続き重要である。わが国の多くの論文誌の電子化を支援するとともに、それが世界に開かれ、世界の情報網と結合されるようプラットフォーム構築を支援する必要がある。これらの一連の作業では、利用者が開発・運営に参画すること、意思決定が迅速に行なえることが重要である。

各論文誌は国内外の主要機関で広く購読される必要がある。特に電子版については電子版特有の流通基盤整備について、官・民が協力して新たなビジネスモデルの構築を図る。


3. わが国の論文誌の発展に不可欠な前提として、個別論文の価値を正しく評価する気風を確立する。

 わが国で生産される科学技術論文の海外流出を加速させている重要な要因に、論文誌の「インパクトファクター」を競争的資金配分や人事採用等の業績評価に使う最近の傾向がある。これは、わが国の論文誌が負う大きなハンディキャップとなっている。論文誌の平均引用度をあらわす「インパクトファクター」を個別論文評価に安直に流用する誤りは、つとに指摘されている。各種業績評価は、どの論文誌に掲載されたかによってではなく、成果の内容・質そのものを、評価の目的に即して、個別に正当に問うことにより行なうという当然の気風を浸透する必要がある。正しい評価のためには、安易な数値化や非本質的な形式的評価を廃し、人、時間、資金を投入して行なうことが必要である。

これらの気風の醸成が、わが国からの情報発信を強化するための一見迂遠ながらもっとも着実な基盤整備となる。

以上

シンポジウム参加者

シンポジウム講師(発表順)
黒川  清 (日本学術会議会長)
野依 良治 (国際学術情報流通基盤整備事業評議会会長、理化学研究所理事長)
村橋 俊一 (岡山理科大学客員教授、日本学術会議学術情報発信研連委員)
西村 吉雄 (大阪大学フロンティア研究機構特任教授)
福井 次矢 (京都大学大学院医学研究科教授)
郷  通子 (長浜バイオ大学教授)
末松 安晴 (国立情報学研究所所長)
佐藤 文隆 (甲南大学理工学部教授)
北澤 宏一 (科学技術振興機構理事)
佐々木 元 (日本電気株式会社代表取締役会長)


シンポジウム参加者(207名、五十音順)
青柳  仁 安達  淳 阿部  義人 新井  彰 飯島  修一
飯田  智子 石正  茂 石黒  武彦 石丸  將敏 磯野  紳一
板山  和彦 市川  惇信 市川  昌和 一岡  芳樹 市野瀬英喜
伊藤  香代子 伊藤  久代 井上  和久 今村  勉 臼井  勲
岩崎  健一 岩瀬  正 上村  正氣 植松  利晃 植田  憲一
牛島  敏明 宇田川信生 内田  隆子 内田  信裕 内村  直之
内田  盛也 江川  賢一 海老原実 海老坂尚 遠藤  穂積
大森  克己 大橋  宏 大場  高志 大島  弘義 岡    隆弘
岡田  哲男 興地  斐男 奥村  小百合 尾鍋研太郎 小野  元之
尾身  朝子 角田  陽子 鹿児島誠一 樫本  稔 加藤  多恵子
加藤  久 加藤  重治 亀田  幸成 川田  昭朗 河合  由季恵
生川  洋 黄木  精治 菊池  文彦 岸    好一 岸野  克巳
岸   宣仁 北本  勝ひこ 北原  和夫 公野  昇 清田  勇毅
久保田壮一 倉西  美由紀 倉持  隆雄 倉田  勝正 覧具  博義
黒田  和男 桑井  正樹 桑原  真人 古賀  崇 児島  高和
小西  和信 小梅枝正和 小松  理 小宮山純平 小宮山直美
小山  斉 斉藤  毅彦 堺    久美子 坂内  正夫 酒出  康子
作井  正人 佐久間啓 佐々木秀樹 佐々木亨 佐藤  洋俊
佐藤  博 佐宗  哲郎 塩冶  震太郎 重川  直輝 志田  憲一
品川  日出夫 嶋田  章 下平  武 菅沼  純一 菅野  茂
杉本  雄之介 鈴木  徹 鈴木  至 瀬倉  通利 曽根  由紀子
高橋  健 高橋  直行 高橋  憲之 竹内  基樹 竹川  道也
多田  邦雄 棚橋  佳子 谷藤  幹子 谷越  安男 田巻  浩
田村  晃児 垂石  嘉昭 辻   伸二 鶴木  亮一 デニス・ノーマイル
冨樫  紀子 時実  象一 戸田  量紗 戸塚  隆之 殿普@ 正明
豊増  浩一郎 中村  伸朗 中井  和寛 仲    和子 中西  敦男
中嶋  博 中村  俊司 永井  裕子 永井  智哉 永野  博
永沼  章 長野  康幸 並木  孝憲 二階堂紀子 西田  篤弘
西森  秀稔 西脇  信彦 丹羽  雅子 根岸  正光 野坂  京子
野崎  忠敏 野田   のり子 橋本  誠司 長谷川修司 羽原  正
林   俊一 樋口  世喜夫 檜山  爲二郎 平出  和夫 平原  奎治郎
平口  愛子 廣野  昭 福澤  清和 福島  三喜子 藤本  瞭一
古川  雅子 保立  和夫 堀越  正美 増満  浩志 松永  稔
松下  元秀 松村  正清 松丸  徹 松田  成史 松尾  全士
三浦  登 三木  哲也 三木  義郎 三国  良彦 三島  隆
水橋  慶 水木  新平 溝口  庄三 光岡  知足 宮川  謹至
宮川  光彦 宮下  純夫 宮本  明雄 宮入  暢子 村川  健作
村田  惠三 本蔵  義守 矢澤  修 矢野倉実 山崎  匠
山名  康裕 山口  哲男 山口  祐子 山川  民夫 山田島誠
山崎  俊嗣 山田  昭男 山田  政弘 吉武  静雄 吉田  隆男
吉野  淳二 若林  邦雄 渡辺  るみ子 渡辺  恵子 和田  光俊
和智  良裕 鰐渕  威雄      


特別シンポジウム実行委員会
   大橋 秀雄(工学院大学 理事長)
副委員長 佐原   卓(科学技術振興機構 理事)
池田冨士太(科学新聞社 社長)
益田 隆司(電気通信大学 教授)
委    員 家田 信明(電子情報通信学会 事務局長) 太田 暉人(日本化学学会 常務理事)
梶原 義雅(日本金属学会 事務局長)  北村 昌良(物理系学術誌刊行協会事務局長)
高橋 征生(日本機械学会 常勤理事) 柳川 隆之(日本工学会 事務局長)


 
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