寄稿
News letter No.190(2023年7月)

「自己組織化単分子膜処理によるNiOX層の正孔注入改善と高分子EL素子への応用」

山田 真聖(大阪大学)

山田 真聖(大阪大学)

この度は名誉あるエレクトロニクスソサイエティ学生奨励賞を授与いただき、大変光栄に存じます。ご推薦頂いたエレクトロニクスソサイエティ関係者の皆様方に厚く御礼申し上げます。

 今回受賞対象となりました研究は、自己組織化単分子膜処理を用いて塗布型NiOX層の正孔注入特性の改善を行い、高分子EL素子への応用を検討したものです。

 近年有機ELディスプレイが台頭してきている中で、有機材料には耐熱性の不安があるため無機材料で代替する研究に注目しました。

 そこで本研究では、溶液プロセスにより成膜可能な無機半導体であるNiOXを正孔注入層に使用することで高分子EL素子の特性改善を目指しました。NiOXはワイドバンドギャップであるため電子ブロック層としても機能し発光層へのキャリアの閉じこめが期待できます。また、大面積化や低コスト化に有利である溶液プロセスによる成膜が可能という利点もあります。しかし、塗布型NiOXは構造の不均一性から生じる欠陥によって正孔注入特性が悪いという問題があるため本研究では自己組織化単分子膜(SAM)による表面処理を用いて問題解決にあたりました。ここで使用したSAMはホスホン酸系の材料であり、NiOX表面の均質化と同時に仕事関数の低減という効果があります。SAM処理によりNiOXの正孔注入特性が従来の材料に匹敵するまで改善したことが確認できました。実際にSAM処理を施したNiOXを高分子EL素子に使用すると、従来の材料を使用した場合と比較して閾値電圧の低下や漏れ電流の抑制といった素子特性の改善が確認されました。また、発光層に量子ドットを用いた量子ドット発光素子への応用も期待できる結果となっています。

 最後に、指導教員の近藤正彦教授、梶井博武准教授をはじめとする本研究にご助力いただいた関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

著者略歴:

 2022年大阪大学工学部電子情報工学科卒業。現在、同大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻博士前期課程在学。

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