研究室めぐり

Fujitsu Laboratories of America, Inc.

川戸 信明(Vice President & General Manager)

1.はじめに
Fujitsu Laboratories of America, Inc.(米国富士通研究所)は、(株)富士通研究所のグローバルな研究開発体制へのシフトの一環として、シリコンバレーの中心に、1993年4月に設立されました。当初、San Jose市に位置していましたが、規模の拡大にともない、Santa Clara市を経て、現在は、Sunnyvale市にオフィスを構えております。設立以来、情報通信に関する最先端技術研究のメッカであるこの地で、米国の大学や研究機関と連携を深めつつ、業界標準の先取り、グローバル製品の創出、研究開発力の強化などを目的として、研究開発を進めてきました。
本研究所における活動は、VLSI設計に必須の最先端CAD技術の研究を中心に、開始しましたが、約2年半前から、インターネット関係の研究も強化してきました。現在、研究員約40名の規模となっており、上記研究テーマを2本柱として、現地採用研究員と日本からの出向研究員が、言語、文化の違いを乗り越えるべく努力しながら、日本側研究員とも協調しつつ、研究開発に取り組んでいます。以下、各テーマの研究内容を紹介します。
2.研究開発状況
2.1 VLSI-CADの研究開発
半導体の高集積化が進展し、システム全体を集積するチップが設計されるようになってきています。一方、設計時間の短縮の要求はますます高まっています。従って、短時間に、正しい設計を可能にする技術が、設計プロジェクトの成否を決める重要な要素の一つとなっています。このような観点から、以下の3つのテーマについて基本技術の研究を進めるとともに、実用ツールの開発も行っています。
(1) 形式的検証
数百万ゲート規模の回路でも、検証可能な技術を開発するとともに、設計に誤りが発見された場合のデバッグ支援技術についても研究しています。
(2) 論理設計プロセスと実装設計プロセスの融合
回路を変換して遅延や消費電力を最適化する処理と、チップ内にレイアウトする処理を融合することにより、レイアウト後の回路の性能を向上させることを目指した研究です。
(3) 高位レベル設計支援
設計の初期段階におけるシステムの仕様から、最終的な回路を得る迄の全過程で、検証、合成、テスト設計を一貫して支援する技術について研究を行っています。
2.2 インターネット関係の研究
インターネットのプラットフォーム技術と、その上で高度なサービスを実現するための研究を推進しています。技術開発と並行して、標準化活動も積極的に展開しています。
(1)IP(Internet Protocol)ネットワーキング
企業網・公衆網・企業網から構成される図3のようなモデルにおいて、End to Endで、IPによるQoS(Quality of Service)保証を目指し、データ・音声・マルチメディアなど、トラフィック種類に応じたルーティング制御、ネットワ―クの輻輳状態に応じたルーティング制御の方法を研究しています。これら技術の応用として、人気サーバへのアクセス集中を回避して快適なウェブアクセスを提供するため、トラフィック計測に基づき負荷分散を行う技術を開発しました。また、柔軟なネットワーク運用管理を目指し、ネットワークのポリシー管理(policy-based networking)の研究にも取り組んでいます。
(2) サービスの基盤技術
ネットワーク・アイデンティティ(利用者の属性情報)を機軸とした情報通信サービス・アーキテクチャーの研究を行っています、様々な利用者属性を利用して高度なコミュニケーション・サービスを提供するためのインフラストラクチャー構築を目指して、アーキテクチャーの設計と標準化活動を進めています。また、インターネット上にマルチエージェントシステムを構築するための技術として、エージェント間の通信機構や管理手法等を開発し、これらの技術の標準化に注力しています。