研究室めぐり

北海道大学工学研究科田中研究室

田中譲(北海道大学)
http://ca.meme.hokudai.ac.jp/

当研究室は計算機アーキテクチャの研究開発を専門としています。計算機アーキテクチャというとハードウェア・アーキテクチャのことかと思われがちですが、当研究室は、ハードウェアのみならず、ソフトウェアに対してもアーキテクトの立場に立った研究開発アプローチが必要と考えています。70年代後半から80年代前半にはデータベース・マシンのようなハードウェア・アーキテクチャの研究開発を行った一方、ソフトウェア・アーキテクチャに関しては、70年代初頭よりデータベース・アーキテクチャの研究を行ってきました。87年以降は特に知識メディアのアーキテクチャの研究開発に重点を置いています。
コンピュータの進歩は、多様なマルチメディア情報をエンドユーザが自在に編集することを可能にし、インターネットの進歩はこれらの情報を世界中の人々の間で自在に流通させることを可能にしました。しかし、知識にはマルチメディア情報の他にも、手続きで定義される道具、ルールと推論規則で定義される知識やノウハウ、膨大な実験データなど、さらに多様な知識が存在します。そこで、これらもマルチメディア情報と同様に自在に編集し、流通させ、管理することを可能にする新しい知識メディア技術が必要となります。知識メディアは、人類のあらゆる種類の知識を表現でき、世界中の人々の間で自在に流通させることができ、流通知識を人々が自在に再編集し、その結果を自在に再流通することを可能にするメディアです。
このようなメディアは知識に対して遺伝子のように働き、複製、組み替えを可能にし、流通を介して人々の評価による自然淘汰をも可能にします。社会が共有する知識の遺伝子的進化を加速するメディアとなりますので、当研究室ではこれをミーム・メディア(文化遺伝子メディア) と名付け、そのアーキテクチャを研究しています。以下に列挙しているIntelligent Padと Intelligent Boxはそれぞれ2次元と3次元の表現を持つミーム・メディア・アーキテクチャです。このような、ミーム・メディアの発達により、社会が膨大な共有知識を蓄積するようになりますと、その中から、関連する知識の創生に関するメタ知識を抽出し、新しい知識の創生に利用することが次の大きな課題となります。当研究分野では、論理プログラミングに基づく計算論的学習理論の基礎研究を行い、将来の重要課題の解決にも取り組んでいます。
ミーム・メディアに関する当研究室の研究は、平成3年より5年間、科学技術庁振興調整費の補助を受け、平成7年には3年間の計画で文部省科学研究費特別推進研究に採択されています。また、同年、ミーム・メディア技術の研究開発とその社会への波及の促進、ミーム・メディア技術に基づくベンチャー・シーヅの育成を目的として、北海道大学知識メディア・ラボラトリーが文部省によって設置され、平成8年7月には延べ面積2000平米4階建ての研究棟が竣工しました。当研究室は、工学研究科、理学研究科、経済研究科、電子科学研究所に跨る5人の教授の協力をいただき、このラボラトリーでの研究開発を推進しています。
3月現在、研究室には、ダームシュタット大学 Bibel教授のもとに長期出張中の山本章博助教授と岡田義広助手、赤石美奈助手、石川栄一技官、秘書の春日智子の他、学生諸君は、博士後期課程に7人、前期課程に8人、学部に13人在籍しています。
現在の研究テーマは次の通りです。

1.Intelligend Pad Project
当研究室で1987年より研究開発しているインテリジェントパッドシステムは、コンピュータの上で扱うことのできるあらゆるもの(データやプログラム)を、紙のイメージで表現します。マルチメディアデータはもとより、ユーザの定義したプログラムやデータベースなどのサービス等が、すべて、パッドと呼ばれるメディア・オブジェクトとして実現されます。これらのパッドは、画面を通じて直接操作することにより、複製や機能合成が容易に行えます、多様な合成パッドをインターネットを介して流通させ、世界中の人々がそれらを再利用し、組み替えによって機能や表現を再編集することも可能です。まるで、遺伝子のように、組換え、突然変異、自己複製、自然淘汰などが行われます。このようなミームメディアの流通、管理、再編集に関する基盤技術の研究開発を行っています。

2.Intelligent Box Project
コンピュータ・アニメーション、インフォメーション・ビジュアライゼーション、サイエンティフィック・ビジュアライゼーションなどの3次元ソフトウェアの構築が、プログラミング経験のない人にも簡便に行えるシステムの提案が本研究の目的です。3次元の形状と回転や伸縮といった機能をもつ可視部品を各種提供し、計算機の画面上での直接操作によってそれらの形状と機能を組み合せることにより、3次元応用システムの開発が行えるシステムを目指しています。

3.Transmedia Project
トランスメディアシステムは文書画像の管理システムです。スキャナーにより画像として入力された文書に対して、文字認識によりコード列に変換することなく画像のまま保存し、通常のワープロを用いるが如くに編集やキーワード・サーチを行うことができるシステムです。世の中に膨大に存在する印刷文書や手書き文書を直接入力によってデータベース化することを目指しています。

4.計算論的学習理論
計算僕の急速な発達により、インターネット上のWebのように様々な形態で知識を計算機上で表現できるようになってきました。ところが、その知識を計算機が人間の様に知的に処理したり、その中から新な規則性や法則性を学習するような機構はまだまだ研究段階にあります。このような機構の実現を目指し、具体的な学習機械の提案、その能力と限界に関する評価、学習の解明と応用に関して研究を進めています。