寄稿
News letter No.192(2024年1月)
学生奨励賞受賞記

「電極/Nb-doped SrTiO3界面の光誘起電流を利用したリザバーコンピュティング」

(東京理科大学) / 山﨑 悠太郎

山﨑 悠太郎

 この度は名誉あるエレクトロニクスソサエティ学生奨励賞を授与頂き、大変光栄に存じます。ご推薦頂いたエレクトロニクスソサエティ関係者の皆様方に厚く御礼申し上げます。

 今回受賞対象となりました研究は、リザバーコンピュティング(RC)の物理実装に関するものです。RCの中間層「リザバー」は、入力信号の非線形変換を担いますが、この働きをソフトウェアに代えて物理ダイナミクスの非線形応答で置き換えることができます。物理実装したリザバー(物理リザバー、以下「PR」)はRCの更なる高効率化を実現しますが、精度の良い時系列学習を行うには、入力信号とPRの「忘却」の時間スケールが同程度である必要があります。物理系を熱平衡状態からずらした際、元の状態へ復帰するのに要する緩和時定数がPRの忘却の時間スケールに相当します。故に、従来のPRでは、扱うことのできる時系列信号の時間スケールが、選択した物理系に固有の緩和時定数により制限されていました。本研究では、緩和時定数を任意に調整可能なPRの実現を目指し、基板材料として光刺激と電気刺激の両者で電気伝導率が変化するチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に注目しました。SrTiO3ベースの光メモリスタに対して、光照射中に電気刺激を重畳することで、デバイスの緩和時定数を数桁に亘って制御できることを実証しました。これは、光応答と電気応答が相関を持ち、一方のパラメータを通じて他方の制御が可能であることを意味します。この原理を利用することで、広いダイナミックレンジを持つ高性能な機械学習デバイスの実現が期待されます。

 今回の受賞を励みとして、より一層の精進を重ねていく所存です。最後に、指導教員の木下健太郎教授、甲斐洋行助教(現東洋大学准教授)をはじめとする本研究にご助力頂いた共著者、関係者の皆様に深く御礼申し上げます。

著者略歴: 2022年東京理科大学理学部第一部応用物理学科卒業、同年より東京理科大学大学院理学研究科応用物理学専攻修士課程在籍。令和四年度電子デバイス研究会論文発表奨励賞受賞。

目次ページへ