就任挨拶:通信ソサイエティ会長就任にあたって

辻 ゆかり 会長
辻 ゆかり 会長

 2022年度の通信ソサイエティ会長を務めさせていただくこととなりました。これまで通信ソサイエティという研究コミュニティを築き上げてこられた先達に敬意を表しつつ、取り巻く環境変化をふまえた更なる通信ソサイエティの価値向上に努めてまいる所存です。これから1年間、どうぞよろしくお願いいたします。
 まずは、皆様方におかれましては、日頃より電子情報通信学会、および、通信ソサイエティへのご理解とご協力をいただいておりますことに、心より感謝申し上げます。学会活動は全ての会員とスタッフの皆様方の支えなしでは成り立ちません。研究会・国際会議・論文投稿により、新たなアイディアや研究成果を発信したり、関連する研究者と交流いただいている会員の皆さん、また、それらの活動を支えていただいている皆さん、本当にありがとうございます。
 あらためてこの数十年を振り返りますと、世の中全体がイノベーションによる経済成長をひたすら追い求めてきた結果、情報通信技術の進歩はプラスとマイナスの両側面を生み出してきました。インターネット、SNS、スマホの普及により、いつでもだれでも情報の受発信ができる環境が整い、図らずも、コロナ禍でもリモートが当たり前のニューノーマルで社会活動を止めることなく対応することができています。その一方で、インフォデミック(事実かどうか確認されないまま拡散)といった負の側面を生み出し、異なる立場の人々を包み込めていない現状があります。また、残念ながら、旧来の社会システムは持続性を考慮したものにはなっていないため、右肩あがりの経済成長は、結果として環境問題をも引き起こしました。ちなみに、そのような変化をふまえ、世界経済フォーラム(ダボス会議)の2021年テーマは、The Great Reset(世界の社会経済システムの見直し)でした。本会議では、人々の幸福を中心とした経済に考え直し、イノベーションにより社会課題の解決をはかり、文化的価値を創出しよう、という議論がなされました。
 こうした中、電子情報通信学会、および、通信ソサイエティは、現在、どのような状況に置かれているでしょうか。何と言ってもCOVID-19の影響は大きく、通信ソサイエティが2年前に立ち上げた国際会議ICETC含め、各種イベントはおしなべてリモート開催となっており、オンラインで発表の機会、研究者間の議論の場をなんとか提供し続けています。一方、電子情報通信学会、通信ソサイエティともに、会員数の減少が続いています。特に、企業会員と海外会員の減少が著しく、多様性の観点から、大きな課題であると感じているところです。
 社会全体がいろいろな意味で見直しを求められているように、電子情報通信学会や通信ソサイエティも持続的な成長のためには柔軟な変化・進化を遂げていく必要があるのではないでしょうか。

①社会課題を解決しようとしたら、技術はもちろん重要ですが、技術だけでなくシステム観点やデザイン思考で俯瞰することも必要かもしれません。そのような視点で物事をみるためには、国や文化、業種を超えて、研究コミュニティに属するメンバの多様性が求められると考えます。多様性をもった世界中の仲間が楽しいと思える研究会や国際会議とするために、通信ソサイエティが関わるイベントのテーマ設定や開催形態等、工夫していきたいと思います。

②コロナ禍で、学会活動におけるリモート開催の利便性に気づかされると同時に、直接対話によるセレンディピティの重要性についても再認識しました。今後は、直接対話とリモートのハイブリッド開催が増えるものと想定されますが、その際には、参加会員の利便性に加え、学会運営上、必要経費やスタッフ稼働の増加とのバランスについても考えていきたいと思います。

 今後、技術者集団である我々は、最新技術の研究開発に邁進する一方で、技術一辺倒ではなく、どうしたら人々の幸福につながるかについても思いを馳せ、経済や社会や倫理に紐付いた形で技術の進歩を図っていく必要があると考えます。情報通信技術により、豊かな社会を創り、支え続けていけることを願ってやみません。通信ソサイエティがその一端を担っていけるよう、皆で協力し、一歩ずつ歩んでまいりましょう。