就任挨拶:通信ソサイエティ会長就任にあたって

中尾 彰宏 会長
中尾 彰宏 会長

 このたび、2024年度の通信ソサイエティ会長を拝命致しました。1年間どうぞよろしくお願い致します。

 情報通信技術は、人類の様々な社会経済活動の根幹を支えており、国の重要インフラの一つとなっています。人間同志のコミュニケーションの手段としてだけではなく、物理世界のあらゆるモノの情報をリアルタイムにサイバー世界に取りこみ計算処理することで、未来予測や判断を導き出すサイバーフィジカルシステム(CPS)が注目されています。また、生成AIの活用が経済社会活動の効率化に寄与することが認識され、情報通信技術により、人々がどこにいてもAIが利用可能となり、また複数のAIが相互接続されようとしています。さらに、情報通信の到達範囲を飛躍的に拡張したり、AIが未然に障害を防ぎ、起こってしまった障害には自動修復や原因を特定したりする、新たな情報通信技術が開発され、人間の生命の維持や経済活動の継続などに影響がないことを保証する、人類の「ライフライン」の構築が期待されています。

 通信ソサイエティは、このように、未来社会を支える重要インフラとして再認識が進む情報通信に関する学問と技術の発展のため、学術界だけではなく、産業界の会員との産学連携による研究専門委員会や編集委員会を通じて、活発な研究活動を展開し、情報通信産業の発展に大きく貢献することを目的としています。

 未来社会のあらゆる場所に溶け込み、グローバルな人類共通の価値であるライフラインとして機能する情報通信技術の発展を追求するためには、多様かつ包摂的な観点から技術革新を進める産学連携と国際連携が必須です。通信ソサイエティは、この観点で、新たに産学連携を強化し、これまで取り組んできた分野横断型研究会やソサイエティ直下の国際会議ICETCを継続的に推進するなど精力的な活動を展開しています。

 通信ソサエティでは、この度、産学が集う研究会の利点を追求するため、産業界の会員の方々と情報通信産業への人財供給の担い手の学術界の方々との交流を促進するため、いわゆる「普段の私を見て」という施策を実施します。産学が集う学会の役割として、学術界からの産業界への人材供給・産業界から見た人財可視化が必要なのです。グローバルのトップカンファレンスでは、企業が学術の卓越人財をリクルートする場にもなっており、人財供給が円滑に進んでいます。我が国の通信ソサエティでも、例えば、普段の研究会における卓越した発表をする学生や若手研究者の姿を企業から可視化、表彰することで繋がりを創る営みを行い、積極的に学術企業間の交流を推進し通信ソサイエティの価値向上につなげます。

 多様性と包摂性を持って学術を推進する取り組みでは、分野横断型の研究会、そして、他のソサエティとの連携も視野にいれた活動を計画しています。現在、通信ソサエティには、革新的無線通信技術に関する横断型研究専門委員会MIKAと超知性ネットワーキングに関する分野横断型研究会RISINGと呼ばれる2つの第三種研究専門委員会が設立されており、多分野の研究者間で、分野横断的な議論・連携を深めるために研究会共催やワークショップなどが精力的に開催されています。最近では、RISINGでもエレクトロニクスソサエティから招待した研究者の方とパネル議論を開催し、会長間でのソサエティ間連携の意見交換をするなど、分野横断的な総合知のアプローチで情報通信の学術推進を図る活動が展開されています。

 国際連携の観点では、学会活動のグローバル化を継続的に推進します。既に、英文論文誌BとComEX誌がIEEE Xploreに移行され、採録論文がオープンアクセス公開されており、通信ソサエティの論文が世界中の研究者に読まれ、引用していただけるようになっています。今後は、両英文論文誌のインパクトファクタの向上と投稿数の増加を目指します。また、今年で5回目となるフラッグシップ国際会議 ICETCも継続開催します。通信ソサエティからの最新の研究成果の発信、未来社会に向かって次世代情報通信の重要技術の合意形成、人類共通の価値を追求するグローバルビジョンの共有を進めていきます。

 情報通信作業の継続的発展には、それを支えるコミュニティの拡大が重要です。単に学会の会員の増員だけを目的とするのではなく、我々会員自身が楽しく研究をしている姿をアウトリーチで情報周知し、自然に人が集まるコミュニティを拡大することが重要です。若手の学生や教員が産業界と交わる通信ソサエティにおいては、分野横断的、国際連携を通じて、新しい技術の研究論文成果を出すことに加えて、産学で社会実装を実現する活動に繋げ、情報通信が未来社会を支えるという高い意識を持って、自らが人類の幸福追求と社会貢献のために研究活動をしている姿を世の中に発信する必要があります。このように、学会の継続的な尽力が、堅牢で安全・安心な情報通信インフラを自らの手で構築する人財の育成と産業界への供給につながり、ゆくゆくは、安全で豊かな未来社会を創るのです。

 通信ソサイエティのこれからますますの発展に全力で貢献する所存ですので、皆様のご理解とご協力を賜れますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

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