研究室めぐり

東京大学 先端科学科学技術研究センター 東京工業大学 工学部電気電子工学科 南谷 崇 研究室

この研究室では、高度情報化社会が安心して依存できる高品質計算システムの実現を目指し、論理レベルから物理レベルまで多様なシステム階層を統合するフォールトトレランス技術の開発、非同期事象駆動原理による並列分散計算システムの建設、ならびにソフトウェア/ハードウェア設計を総合するVLSI システム設計方法論に関する研究などを行なっています。研究室の所属組織としては、一昨年11月から異動に伴ういくつかの過渡状態を経て、現在、標記のように東大・先端研と東工大・工学部という二つの異なる組織に属しています。同じ国立大学でも内部のしきたりはかなり異なりますので事務の面では時々混乱もありますが、研究面では実質的な単一研究室として”シナジー”効果が発揮できるよう、ネットワーク環境を活用したり、物理的にも場所を交互にして研究室セミナーを合同で行うなど、両者は密接に連携して研究を進めています。所在地は東京都目黒区のちょうど最北端(駒場)と最南端(大岡山)に位置しており、精神的には非常に近い距離なのですが、実際には、東京の交通事情の劣悪さも手伝って、日常の移動に要する時間と交通費がばかにならず、目下の悩みの種です。

東大研究室の構成
正式には東大・先端研・情報物理システム分野と呼ばれますが、昨年4月にスタートしたばかりでまだ所帯は小さく、現在の研究室メンバー(写真1)は、南谷のほかに、中村宏助教授(現在、UClrvineで在外研究中)、柳田康幸助手、桜井弥壽雄技官、秘書の森田光子さん、博士課程学生(工学系研究科先端学際工学専攻)2名、卒論学生(工学部計数工学科)4名だけです。4月からは工学系研究科計数工学専攻と情報工学専攻の修士課程学生、および先端学際工学専攻の博士課程学生が新たなメンバーとして加わる予定です。

東工大研究室の構成
組織上は工学部電気電子工学科に所属しますが、東工大・電気情報系学科の一体運営という歴史的経緯もあり、メンバーの多くは情報理工学研究科計算工学専攻の所属です。現在の研究室メンバー(写真2)は、南谷のほかに、上野洋一郎助手、木下幸江事務官、博士課程学生(計算工学専攻)5名、修士課程学生(計算工学専攻)5名、卒論学生(電気電子工学科)4名、客員研究員(フランス外務省派遣)1名です。このほか、計算工学専攻の米田友洋助教授の研究室と密接に協力し合い、メンバー居室、研究設備なども共同運営しています。

最近の研究内容
研究分野は、大きく「非同期システム」と「フォールトトレランス」に分けられますが、いずれも計算システム、VLSIシステムが対象です。この数年は、特に「非同期システム」に力を入れていますが、これは、最終的に「フォールトトレランス」、あるいは”Depend- able and High-Perfomance Computing”の目標を達成する一つの過程と捉えています。 1)非同期計算システムに関する研究: 素子が高速化しシステムが大規模化するに伴って配線遅延が支配的になるため、クロック分配を要する同期式システムには性能及び信頼性に明らかな限界が存在します。そこで、クロックを用いず事象生起の因果関係のみを駆動原理とする非同期並行計算システムの設計論を確立するため、

非同期事象駆動型超高速計算アーキテクチャ
非同期プロセス・コンパイラ
自動論理合成アルゴリズム
平均遅延最小化レイアウト方式
非同期式テスト・セルフチェッキング方式
タイミング・パフォーマビリティ評価モデル
単一磁束量子パルス論理

などの研究を進めています。またその一方で、設計論の有効性を実証するため、実用規模の非同期式汎用マイクロプロセッサの開発に力を入れており、1992,93年度の科学研究費一般研究(B)「非同期式プロセッサのアーキテクチャと設計方法に関する研究」において、遅延変動に対する耐性を重視した8ビット非同期式マイクロプロセッサTITAC-1を CMOSゲートアレイで試作し、1994年2月には正しく動作することを確認しました(写真 3)。また、1995年度から科学研究費試験研究(B)「超高速非同期式マイクロプロセッサの実現と評価に関する試験的研究」および NEDO受託研究「非同期事象駆動原理による超高速コンピュータの研究開発」の一環として、非同期事象駆動原理に基づいた超高速プロセッサが実用レベルで実現できることを実証するため、MIPS社のRISCプロセッサ R2000と互換アーキテクチャを持っ32ビット非同期式マイクロプロセッサTITAC-IIをスタンダードセル方式で設計・試作しています(図4)。

2)フォールトトレランスに関する研究:
計算・情報システム/ネットワークを構成する要素(ソフトウェア、ハードウェア)にいつかフォールト(故障原因)が生じることは避けられません。そこで、たとえフォールトが存在したとしてもシステム全体としては障害を引き起こさず、正常な、あるいは縮退したサービス性能を提供し続ける「フォールトトレランス」を実現するシステム設計論を得るため、各システム階層におけるフォールトモデルの検証、フォールト検出/診断/隠蔽の手法、システム再構成/回復アルゴリズムの開発、設計分散の方法論、超並列分散アーキテクチャなどを研究しています。最近の成果としては、並列処理モデルBSPM(Bulk Synchronous Parallel Model)を用いたフォールトトレランス手法の提案とそれを超並列計算機上に実現した評価実験、計算機ネットワークの信頼性を向上させるための新しい適応分散診断手法の提案とそのネットワーク上での実現・評価実験、非同期式システムの動作中に生じる過渡性フォールトに対するセルフチェッキング機能実現のための論理/物理レベル併用方式の提案と評価実験などがあります。