|
私はロンドンのイーストフィンチェリーという所で生まれました.サッチャー元首相の選挙区だったということで知られている場所です.育ったのもロンドン北部の郊外です.
イングランド中西部にあるマンチェスター大学で,物理とコンピュータサイエンスを専攻しました.卒業後2年間イギリス電機大手ゼネラルエレクトリック(GEC)のチャムスフォード研究所で働きました.その頃の私は,1週間たった2ポンド(約400円)の賃貸のキャラバンに住んでいました.一方,研究所では自律走行車のためのナビゲーションシステム等,コンピュータシステムの開発部門に所属していました.
チャムスフォードで2年間過ごした後,イングランドからスコットランドに移り住み,エジンバラ大学で博士論文の研究を始めました.人工知能学部に所属したのですが,研究分野は認知科学でした.博士論文は,ある種の推論実験において被験者がどのような行動をとるか,という行動パターンに関するものでした.
Prologで書かれたプログラムを使い,推論実験の被験者の行動が私の推論モデルから予想される行動と良く一致することを実証しました.
博士論文を仕上げる傍ら,エジンバラ大学人工知能応用研究所(AIAI)に勤務しはじめました.つくばセンターにはaiaiモールと呼ばれるショッピングモールがありますが,そこに行くといつもあの頃のことが思い出されます.AIAIでは,Prologによる自然言語処理や知識表現に重きをおいたエキスパートシステムを研究しました.その後,同大学内のヒューマンコミュニケーションリサーチセンター(HCRC)に移り,認知科学の観点からのグラフィックや情報表示の特性の研究や,ハイパーテキストナビゲーションをサポートする方法の研究を行いました.この間,1995年に3ヶ月程,沼津にある富士通の研究所で研究する機会を得ました.
NEDOのフェーロシップを得て1997年の7月から,電総研のヒューマンメディアグループに加わりました.グループのプロジェクトはホームショッピングということで,私は“買物をする人のための補助”となるようなソフトウェアの研究を,特に書籍購入の場合を想定して始めました.まず,いろいろな書店からデータを収集して,それを組み合わせてデータを適切に呈示することができるコンピュータプログラムの可能性の検討から始めました.当初のプロトタイプシステムは私の意図したように作動しませんでしたが,そのようなシステムが可能なことがわかり,そのために必要な機構もわかってきました.別々のソースから情報を収集し知的に組み合わせるためには,システムは収集したデータを分析して情報を引き出すことができなくてはなりません.さらに,収集したデータだけでなく,実際に収集する方法についても決定を行うことが必要です.そこで私はこのような分析と推論に適したプログラミングシステムを開発し,これを使って書籍購買エージェントの改良バージョンの開発を行っています.
研究のための補助金を捜し求める以前の生活から一時はなれて,電総研では穏やかな環境で良い仕事ができました.しかしながら私が驚いたのは,この研究所の設備がすばらしいにもかかわらず,効率よく研究が行われるようにコンピュータの管理を行うサポートスタッフがいないということでした.電総研の内外の研究員との交流も楽しいものでした.ただ,工技院の門で守衛さんに敬礼されるのは,今だに慣れませんが.
仕事以外に家族のことを申し上げますと,妻と子どもがいます.妻,れい子は日本人です.息子はやはり日本名を持つケン太郎です.今住んでいる家はきれいな小さなアパートです.この家はエジンバラの私の家よりずっと小さいですが,建物の新しさの点ではエジンバラの家より150年は新しいでしょう!
松代にあるこの家は目の前に公園が見え,ケン太郎の幼稚園まで2分とかからず,電総研へも自転車で通える距離にあるという好条件の場所です.つくばでは日々大変楽しく過ごしてきました.特に低温殺菌牛乳がいつも買える所を見つけてからはなおさらです.イギリスのスーパーマーケットチェーンの品物が置いてあるプルシェが歩いて5分という所にあるのです.今一番恋しいのはイギリスのビールです.日本のビールも良いのですが,どの銘柄もあまり味が変わらないような気がします.
日本語は思ったほど上達しませんでした.ひとつには私が一日中英語を使って仕事をしているということがありますが...
また,息子と過ごす時間も楽しんでいます.息子とのふれあいの中で,時折今まで自分が考えてもみなかったようなことがいかに多いか,またずっと昔のことでいかに多くのことを忘れてしまっているかに改めて驚かされてしまいます.上手ではありませんが,時間があれば囲碁をやるのが好きですし,卓球も好きです.そして,認めたくはないのですが,やはり私はコンピュータを使って仕事をするのが本当に好きなのです!
(編集注:日本語訳は奥様にお願いしました)
|