集積回路研究専門委員会 委員長
藤島 実(広島大学)
集積回路研究会は設立後四半世紀が過ぎました.この間,1990年代はメモリを中心に微細化技術を武器に世界を席巻していた時代.そして次の2000年代はシステムLSIを中心にすべてを微細化技術に乗っかって集積した時代でした.微細化を突き進んでいた時代には,微細化に伴う様々な問題を解決することが回路設計の主なテーマでした.たとえば,ホットキャリアに対する信頼性を維持するための低電源電圧技術.次は,熱問題を解決するための低消費電力技術.そして,微細化に伴うばらつきを解決するためのデジタルアシスト技術などです.そして,今私たちがここにいる2010年代の日本はメモリなど一部の製品を除きポスト微細化時代に突入しています.微細化競争から離れた日本では,私たちが築いてきた知的財産である集積回路をどのように使いこなすか,そして社会貢献に結びつけるのかが問われる時代になっています.集積回路というジャンルの中で世界が初めて手にする部品を産み出すことは依然として研究テーマであり続けるものの,これまで積み上げてきた財産の結晶として入手できる集積回路を上手に活用する,カスタム化を要する場合もFPGAを使うなど集積回路を作り出す労力を最小限にとどめるといった,これまでの集積回路研究者がよりどころにしてきた立ち位置を脅かすような視野が求められてきています.
集積回路は,入手可能な汎用品でも多くのことが実現できるようになってきました.もはや日常のアプリケーションの信号処理でカスタム化しないと実現できない集積回路を探すのは難しいでしょう.しかし,実世界からの入力であるセンサと実社会への出力であるアクチュエータからなる物理インタフェースを集積回路に取り組むことはまだまだ発展途上です.物理インタフェースを考えるときには,物理層を含む作りこみを本業とする異分野との連携は重要です.この視点で考えるとき,私たちは,同業の専門家で競い合うだけでなく,実社会とリンクしているユーザから見た価値を問われることになります.ここで私たちはこれまでの集積回路を研究する者としてジレンマを感じます.研究成果を国際会議あるいは論文で発表するとき,同業の専門家から見た技術的価値が評価の基準となるピアレビューが行われます.しかし,時代が必要とするのはユーザから見た価値です.両者の価値観は必ずしも同一ではなかったという経緯を自覚しつつ,研究スタイルを発展させることは我々に課せられた課題と思います.一方,微細化に伴う未知のプロセスの対応に悩む必要がなければ,集積回路を使いこなす参入障壁は低くなります.仲間を広げることも容易になるはずです.役に立つアイディアがあれば,そして少し頑張れば,集積回路を使いこなし,汎用品だけでは達成できない性能も実現できる可能性があります.ブレッドボードで作っていたものをスマートにダウンサイジングすることもできます.集積回路という自分たちのピラミッドの頂点ばかりを眺めていた時代とは違い,異分野のさまざまなピラミッドの底辺を如何に広げるか,そしてユーザサイドのピラミッドの構築に如何に貢献するか,それが問われる時代だと思います.
集積回路の研究を通じて社会に如何に貢献できる研究会へと変貌を遂げられるかが今いちばん求められる課題です.そして真に社会に求められる研究会としての組織が実現できた時には,開発する人も使う人もみんなが満足できる世界が広がっていると思います.日本を取り巻く集積回路の状況が大きく変化しても,存在価値を認めてもらえる研究会になれるよう,これからも努力したいと思いますので,ご協力のほどどうぞよろしくお願いいたします.