報告
News letter No.193(2024年4月)

「テラヘルツと光の境界」

(マイクロ波テラヘルツ光電子技術研究専門委員会 委員長) / 菅野 敦史(名古屋工業大学)

菅野 敦史(名古屋工業大学)

令和5年12月20日~21日に、東北大学電気通信研究所ナノスピン総合研究棟で開催された「テラヘルツ科学の最先端X」シンポジウムは、大盛況のうちに閉会することができました。このシンポジウムでは、テラヘルツに関するサイエンスからデバイス、システム化技術まで幅広いトピックが活発に議論され、非常に有意義な場となりました。参加いただいた皆様に心より感謝申し上げます。

テラヘルツ波と盛んに叫ばれるようになり10年以上が経ちました。遠赤外線領域として古くから研究開発がなされていましたが、高強度な信号発生や高速な信号検出が難しい「未開拓周波数帯」でもあります。マイクロ波などの電波技術と近赤外光技術の「狭間」に位置しており、その技術的限界によりデバイス・応用が「未開拓」の状態が続いていました。近年の電気電子技術の発展により、半導体集積回路技術を用いて100GHzを超える超高周波・広帯域信号の発生や受信が可能になりつつあります。また、光ヘテロダインなどを用いた実用的な強度でのテラヘルツ波発生も現実的になってきました。テラヘルツ帯は従来のマイクロ波~ミリ波帯電波と比べてさらに広い帯域を利用できる可能性があるため、次世代の超大容量無線通信技術、Beyond 5G/6Gのコア技術の候補としても注目されています。2023年12月にドバイで開催された無線規則の見直しを議論する世界無線会議WRC-23でもテラヘルツ周波数帯の議論がなされました。2019年開催のWRC-19では周波数275~450GHzにおける移動通信業務や固定通信業務の周波数特定が、WRC-27では周波数275~700GHzにおけるボディスキャナなどの無線標定業務などが議論される予定です。このように無線通信だけでなく非破壊検査やセンシング領域でもテラヘルツ帯の実用化にむけた取り組みが進んでいます。

光技術の通信応用は、光ファイバ通信を代表とする長距離・大容量通信技術として広く利用されています。大陸間、海底や都市間、家庭への通信だけでなく、データセンタ内部でのサーバ・ラック間接続にも用いられ、近年では車載ネットワークへの採用も検討されています。光通信の無線利用として、空間光通信や可視光通信の研究開発も続けられており、LED照明を利用したLi-Fiなどのコンシューマ向け応用としても実用化が期待されています。また、高速衛星通信向けにも空間光通信技術の検討と研究開発が進められており、光ファイバに限定されない高速通信が将来的に可能になると考えられています。こうした空間光通信技術の進展に伴い、大容量無線通信応用としての光とテラヘルツの境界が曖昧になってきました。しかし、物理的な特性、特に波長に起因する物質の透過性は大きく異なります。そのため、利用するデバイスの様態に応じて使い分けが必要です。例えば、テレビや家電のような一度設置するとあまり移動させないデバイスでは、光受光部の位置を固定できる光無線技術が適しているかもしれません。一方、頻繁に移動するデバイスでは、テラヘルツのような波長の比較的長い電波技術のほうが接続性を向上させることができるかもしれません。このような使い分けは、アンテナ・受光面のような送受信フロントエンド部の選択と構成を考える上で重要になります。ただし、100Gbpsを超える通信では、ベースバンド信号処理部は消費電力の観点から光・テラヘルツで共通化・融合が必要になるかもしれません。この分離と融合の「狭間」こそが、MWPTHz研専がターゲットとする領域です。 MWPTHz研専は、光と電波、電子技術の融合を掲げて活動しており、本年度で合併3年目を迎えます。今後ますます注目される研究分野であり、皆様のお力添えが必要な研専です。是非とも皆様のご参加をお待ちしております。

著者略歴:

2005年筑波大学大学院数理物質科学研究科修了、同年筑波大学理工学研究科ベンチャービジネスラボラトリ特別研究員。2006年情報通信研究機構 研究員、光アクセス研究室長等を経て、2022年より名古屋工業大学電気・機械工学類電気電子分野 教授。情報通信研究機構 光アクセス研究室上席研究員兼務。光ファイバ通信、マイクロ波フォトニクス、テラヘルツシステム、車載ネットワークの研究に従事。博士(理学)。

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