寄稿
News letter No.191(2023年10月)

「電磁波基盤技術領域委員会の紹介と活動状況について」

(電磁波基盤技術領域委員会 委員長) / 大久保 賢祐(岡山県立大学)

大久保 賢祐(岡山県立大学)

 2022年4月から電磁波基盤技術領域委員会は3つの研究専門委員会と4つの国際会議国内委員会による新たな構成となりました。ここでは、それぞれの委員会の紹介とその活動状況について概説致します。

1)研究専門委員会

・エレクトロニクスシミュレーション研究会(EST):EST研は設立13年目を迎えました。エレクトロニクスシミュレーションの方法全般、高速化、高精度化、複合シミュレーションなどを研究していますが、シミュレーションの対象はEMC、マイクロ波、光など電磁波の広い周波数範囲に及び、電磁波のまさに基盤技術が不可欠な技術領域です。

2022年度は5月、7月(光・電波ワークショップ)、10月、2023年1月の研究会はいずれもハイブリッド開催されました。また、2023年総合大会の企画セッション「次のパンデミック被害を抑えるには?-新型コロナウィルス感染症に関する技術開発から-」においては信学会の枠を超えた広範囲の講演者が集い、今後シミュレーション技術を社会に実装する際の有益な指針となり得る、現代が直面する社会性の高いテーマについての議論がなされました。

・マイクロ波研究会(MW):MW研は1966年発足以来、本年で57周年の長い歴史をもつ研究会で、マイクロ波の基礎理論から受動・能動デバイス、回路・システム、イメージング技術等の研究が行われています。2022年度は4月、5月、6月、7月(光・電波ワークショップ)、9月、10月、11月、12月、2023年1月、3月の研究会はいずれもハイブリッド開催されました。MW研は2種研究会としてTJMW (Thailand-Japan MicroWave)をタイで開催しています。2009年に始まり、研究発表の他、チュートリアル講演、ワークショップ、フィルタや分配回路などの学生設計試作コンテストを通して、両国の教員、研究者、技術者、学生の「草の根」的な交流でアジア地区におけるIEICEのプレゼンスに微力ながら貢献していると考えます。コロナ禍の中でも交流を絶やさず、形態を縮小したオンラインイベント TJMW-SW (TJMW Student Workshop) として継続してきました。本年は4年振りの現地開催となる TJMW 2023を12月に予定しています。

・電磁界理論研究会(EMT):EMT研は、電磁界に関する基礎的な現象の解明、解釈、あるいは解析手法の開発など電磁波動現象を伴う幅広い研究分野を対象としています。2022年度は6月は現地開催、7月(光・電波ワークショップ)、11月、1月はハイブリッドで開催されました。2023年11月には下関で第52回電磁界理論シンポジウムが開催されます。また、国内外で開催される関連分野の国際会議にも協力しています。最近では、国際電波科学連合(URSI)の各会議(GASS、 EMTS、 AP-RASC、 AT-RASC、 AT-RASC、 JRSM)、フォトニクス・電磁波工学研究に関する国際会議 (PIERS)、IEEE International Conference on Computational Electromagnetics (ICCEM)、Asia-Pacific Conference on Synthetic Aperture Radar (APSAR)、International Conference on Communications and Electronics (ICCE)などの開催に協力をしました。

2)国際会議国内委員会

・URSI日本国内委員会:日本学術会議電気電子工学委員会URSI分科会と連携し、URSI総会などの開催支援を行なっています。2022年度は第4回目となる2022年URSI日本電波科学会議(URSI-JRSM 2022)が9月に中央大学後楽園キャンパス(東京)で開催されました。URSI日本の設立101周年に当たる2023年の8月には札幌で第35回URSI総会(XXXVth URSI General Assembly and Scientific Symposium : URSI GASS 2023)が開催されました。国内では1963年の東京、1993年の京都に続く30年振り3回目の開催となりました。投稿論文数が1682件、参加登録者数が1444名であり、8日間の会期の間に電波科学の幅広い10の学問分野の研究者・技術者が国内外から一堂に会し、大変活発な議論が行われました。

・APMC国内委員会:APMC (Asia-Pacific Microwave Conference) はアジア・太平洋地区で毎年開催されている国際会議です。北米開催のIEEE IMS、欧州開催のEuMA EuMWと並ぶマイクロ波分野の3大国際会議のうちの一つです。第1回が1986年にインドで始まり、国内開催は4年に一度、直近では、2022年にパシフィコ横浜でハイブリッド開催されました。次回は2026年に福岡で予定されています。APMC国内委員会は、MWE (Microwave Workshops & Exhibition) も主催しています。MWEはAPMCの支援とともに、マイクロ波技術の基盤となるハードウェアやシステム技術などに関する基礎講座や最新動向を紹介するワークショップ、企業や団体による展示会を設け、国内のマイクロ波技術の普及とレベルの向上、そしてコミュニティの発展に大きく貢献しています。学会および産業界から最大5千人を超える参加者が一堂に会し、両者の橋渡しとなる大きな役割も担っています。

・PIERS国内委員会:第1回が1989年にアメリカのボストンで始まり、2023年は7月3日~6日に第43回がチェコ共和国のプラハで現地開催されました。2019年には「フォトニクス・電磁波工学研究に関する国際会議(Photonics and Electromagnetics Research Symposium)」に名称変更され、分野が拡大されています(略称PIERSは変更なし)。国内での開催は2001年の大阪、2006年の東京、2018年の富山、に続き2025年に千葉で4回目が予定されています。

・APSAR国内委員会:APSAR(Asia-Pacific Conference on Synthetic Aperture Radar)は、アジア太平洋の合成開口レーダに関する研究成果を発表する場であり、まだ開始から10年余りの新しい会議です。2021年はオンラインの開催となりましたが、2023年はインドネシア・バリで開催予定です。また2025年の日本開催に向けて、関係者に実行委員就任を依頼してきました。本原稿執筆時点で20名を超える委員が集まり、今後も逐次増やしていく予定です。2023年10月下旬に開催されるAPSAR 2023の閉会式で、2025年に開催する都市と期間を公表する必要があります。そのため候補地の視察を経て、10月上旬に委員会を開催し、開催地と期間を決定する予定で進めています。  電磁波基盤技術領域委員会は、電磁波を基盤とするこれらの幅広い研究分野の活動を横断的に連携する役割を担っています。

著者略歴:  1987年京都工繊・工芸・電子卒。1992年同大学院博士後期課程了、博士(工学)。1993年岡山県立大・情報工・講師。1997年同助教授。2014年同教授。フェライトおよび電磁メタマテリアルを含むマイクロ波回路の研究に従事。2019~2020年IEEE Hiroshima Section Chair、電子情報通信学会、IEEE各会員。

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