報告
News letter No.189(2023年4月)

「光エレクトロニクス研専(OPE研究会)の活動紹介」

(光エレクトロニクス研究専門委員会 委員長) / 橋本 俊和(NTT先端集積デバイス研究所)

橋本 俊和(NTT先端集積デバイス研究所)

OPE研究会は、エレクトロニクスソサイエティの中にあって、電子情報通信の発展を牽引すべく光エレクトロニクス技術全般を対象分野とする研究会です。主要な研究分野として:

光集積回路/光・電子集積回路、ハイブリッド集積、導波路デバイス(各種材料)、光導波路・伝搬解析、光ファイバ(マルチコア・マルチモードファイバ・特殊ファイバ・接続技術を含む)、光モジュール、光インターコネクション、光センサ、光計測、光メモリ、光情報処理、光スイッチ・光変調器(誘電体)、空間光学デバイス(MEMS含む)、フォトニック結晶(パッシブ)、光・光制御

を対象にしています。光ファイバ通信を牽引する形で爆発的な発展を遂げてきた光エレクトロニクス技術ですが、光は通信波長である1.55μm付近で200THzの周波数を有しており、私達はまだほんの一部を活用しているに過ぎません。この膨大な周波数あるいは時間領域のリソースを制御する物質科学や光デバイス技術、さまざまな応用とのインタラクションを可能にするエレクトロニクスを駆使して、通信や情報科学ひいては社会課題の解決に向けて活発な研究開発が進められている分野となっています。

2022年度のOPE研究会は専門委員38名(内訳 大学・研究開発法人等26、企業12)で構成されており、産学から光エレクトロニクスに関係する多くの研究者や関係者が集まり、研究会や大会のセッションの企画や運営、研究会での議論等を行っています。表1はOPE研究会が関連する2022年度の研究会および大会セッションをまとめたものです。年6回の第1種研究会と年2回の第2種研究会、総合大会・ソサイエティ大会のC-3/4セッション、企画セッション等を企画しています。5月と11月には通ソのOCS研究会やエレソのLQE研究会と連携して国際会議報告会という形で、全国どこからでも参加できるようにオンラインでの研究会を開催し、光通信分野の主要な国際会議であるOFCとECOCの最新動向の共有や議論を行っています。6月研究会は、11年前から始まった合宿形式の若手・学生向けのOPE研究会単独の第2種研究会です。著名な研究者による招待講演はもとより、ポスター発表の場を設けて、コンペ形式で相互評価して表彰する仕組にして、若手研究者や学生同士が活発な議論ができるような取り組みを行っています。本年度はコロナ禍の影響で合宿の形をとることができませんでしたが、ホテルのホールを借りて、3年ぶりの対面で研究会を開催することができました。初めて対面で研究会に参加するという学生も多く、活き活きと自分の発表を行う学生の姿を見て、私達自身も原点に立ち返って研究会の意義を考え、研究会をより良いものにしていく決意をあらたにする機会となりました。来年度以降、合宿の形に近づけていき、ベテランの研究者との議論や、若手研究者や学生同士の相互の交流を深めて“あのときの研究会があったから”といってもらえるような出会いが生まれる場を提供できればと考えています。7月研・8月研・10月研・2月研(ほぼ月毎に開催されているためこのように呼ばれています)は共催する研専が持ち回りで主幹となって各地で開催されます。今年度は7月研が旭川市、8月研がコロナ禍第7波の影響で仙台市から首都圏に変更となり習志野市、10月研が松山市、2月研が糸満市で開催されました。いずれもコロナ禍の影響を考慮してハイブリッド開催でしたが、現地参加者も多く、久しぶりの再会を喜び合う研究者の姿が多く見られました。12月のPhotonic Device WorkshopはLQE研究会、PICS研究会と共催している第2種研究会で、今年度は面発光型のデバイスと導波路型デバイス等の異なるアプローチごとに著名な研究者に依頼して講演いただくなどの興味深い招待講演のセッションや、関連する研究会の若手・学生によるポスター発表・表彰等を実施しました。さらに軽食を取りながらの技術討論会が開催され、光デバイス関連の研究者の多くが集まって活気が感じられる研究会となりました。ソサイエティ大会と総合大会ではLQE研究会と連携してC-3/4セッションのプログラム編成や依頼講演の企画を実施しています。また、他の研究会と共同で企画セッションの提案も行っています。ソサイエティ大会では“CI-2. 将来の光デバイスに向けた成長及びプロセス要素技術の最新動向”、“BCI-1. カーボンニュートラルの実現に向けたグリーン光通信システム”、“BCI-2. 音響・電磁波・光エレクトロニクス技術の水に関わる無線技術への展開”、総合大会では“BCT-1. 基礎から学ぶ光通信”、“CI-3. 機械学習と光・ICT技術”を企画しています。また、総合大会では“CI-2. 光エレクトロニクス研究会(OPE)学生優秀研究賞表彰式”を開催しました。学生優秀研究賞は通年で研究会での学生の発表を採点して優秀者を表彰するもので、本年度は、学生2名を表彰しました。6月研のポスター発表の表彰と合わせて、若手研究者の発表を促すとともに、授賞によりこの分野で活躍するきっかけの一つとなることを期待して長年続けている取り組みになっています。受賞した当時の学生が各界で活躍していることはOPE研究会にとっての一つの大きな成果であると考えております。

表 OPE研究会の年間イベント

今後の展望についてふれるために、少し過去をふりかってみたいと思います。光・量子エレクトロニクス研究会(OQE)を発展させてOPE研究会とLQE研究会に分かれたのが1994年、その一年前の1993年にOPEの設立趣意書が提案されています。その設立趣意書に記載されている設立の目的は、以下のようなものです:“光を用いたたエレクトロニクスの諸方法は電子輸送現象にもとづくエレクトロニクスと並んで現代電子情報通信分野の基幹領域となっている。本分野の特色は新しい光デバイスの出現、特性の飛躍的改良や、その集積化に触発されて新たな応用分野が開拓され、電子情報通信システムのフロンティアが次々に形成されてきたことである。したがって応用との接点を強く意識しつつ光デバイスの研究開発をおこなうことは格別に重要であり、これを推進することは電子情報通信学会の発展のために極めて有益と考えられるので従来の光・量子エレクトロニクス研究専門委員会を拡充改組する形で本研究専門委員会を設立することを提案する”。極めて個人的な話ですが、1993年は私がNTTに入社して光エレクトロニクス研究所に配属された年でもあります。振り返ってみるとインターネットがいよいよ普及して光ファイバ通信も波長多重伝送や光加入者網の構築などが構想され光エレクトロニクスにとって熱気に満ちた時代でした。趣意書からもその熱気や時代を先取りしようとする気迫が感じられます。その後30年、本当に実現されるとは思っても見なかった技術が次々と実現されました。それを支える光通信技術も驚くほど発展を遂げ、OPE研究会も大きな役割を果たしてきました。一方、変調復調は電子/電気回路任せだったものが、近年は光エレクトロニクスを駆使して光波自体、さらには光量子を使いこなし信号処理・情報処理を実現する時代がいよいよ近づいてきているように思います。このことは、光デバイスの単体の特性だけでなくシステムとして機能をもった光デバイスを評価していくことの重要性が増していることを示しており、今後、光エレクトロニクス研究会の中だけに留まらず、基礎から応用、ハードからソフトまで幅広い技術領域との関係性を深めていくことが重要になってくることを示唆しているように思います。

今年2023年5月から新型コロナウイルスが新たに5類に分類されることで、自由度の大きな研究会活動が可能になると期待されます。新型コロナウイルスは私達の社会に大きな負の影響をもたらしましたが、生物学的に集団免疫を獲得したのと同様に、研究会においてもオンライン開催などをきっかけに研究会のあるべき姿や新たな形に向けた進化のあり方を考える機会となりました。和文論文誌との同時投稿や機械翻訳技術やAIによる論文校正等、技術面以外のさまざまな環境変化を含めて、これまでと同様に変化を先取りしてOPE研究会の活動を進化し続けていければと思います。

著者略歴:

1993年北海道大学大学院理学研究科修士課程終了、同年、NTT入社。博士(工学)。光エレクトロニクス研究所(現 先端集積デバイス研究所)に配属以来、石英系平面光波回路(PLC)によるハイブリッド光集積回路や光回路設計手法(波面整合法)の研究開発に従事し、現在、それらの技術を発展させ、可視光用集積光カプラや光メタサーフェス、光リザーバコンピューティング、および、光量子情報処理に向けて研究開発をすすめている。

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