設立の背景

音楽や動画などの大容量コンテンツの流通や、タブレットやスマートフォンなどの高性能な携帯端末、更にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)に代表されるユーザー主体の情報発信サービスの普及が、インターネットでの通信量増加に拍車をかけています。このような背景において、従来のIPアドレスベースの通信ではなく、「情報(コンテンツ)」を識別子として通信を行う新しいネットワーク技術、「情報指向(あるいは情報中心型)ネットワーク技術:Information-Centric Networking(ICN)」の研究活動が世界的にも活発になっております。

情報指向ネットワーク(以下、ICN)では、コンテンツの取得に際し、サーバーのIPアドレスではなくコンテンツ名を指定することで、より近くのルーターなどからもコンテンツの取得を可能とします。これにより、多くのユーザーに対して迅速で効率的な情報提供が可能となります。また通信量の削減も期待されております。

しかしながら、ICNの実現、そして展開には多くの技術的な課題があります。特に「ネットワーク内キャッシュ」と呼ばれる情報共有の仕組みにおいて、転送されるコンテンツ/データを通信経路途中のルーターや通信ノードが自律分散的にキャッシュし、当該コンテンツを要求するノードに対し転送する機能でありますが、どのようなコンテンツをどのルーターがキャッシュすべきか、あるいはどれくらいの期間キャッシュすべきか、更に、要求ノードはどのようにキャッシュしているルーターを発見すべきか等を決定する仕組みが必要になりますが、それは従来のIPアドレスベースの経路制御プロトコルを拡張して行うべきなのか、あるいはそれに特化した新しい経路制御アルゴリズムを開発すべきなのかを決める必要があります。コンテンツ転送を担う「トランスポート技術」に関しても、従来のエンド・ツー・エンドの1対1のチャネルではなく、複数のキャッシュロケーションからの転送を想定した通信形態を想定する必要があり、この場合、輻輳制御や転送レート制御アルゴリズムも新しい技術が要求されると考えられます。そして技術展開を見据えた「オペレーション」や、コンテンツ共有に対する「セキュリティ」、またICNのユースケース(実現シナリオ)として期待される移動体通信やセンサネットワーク、Internet of Things(IoT)やM2M、ソーシャルネットワークなどへの適用に対しても十分な研究成果と議論が必要になってきます。更に、社会的要求である通信の省エネルギー化においても十分な考察が必要になります。

世界レベルの研究動向を鑑みると、現在欧米を中心としてICN研究が強く推進されており、わが国においても同分野の国際競争力の強化が求められています。ここでは、個別の研究推進のみならずICN研究開発拠点としてのわが国の地位確立が強く求められています。本特別研究専門委員会を通じ、わが国における幅広いコミュニティーの叡智を結集することにより、ICN研究開発の強化・活性化を通じ、ICNの研究開発における国際競争力を高め、欧米に並ぶICN研究開発拠点としてのわが国の地位確立を目指していく必要があります。

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