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大学における技術者教育と改革の方向
電子情報通信学会会誌2001年1月号 特集「21世紀を展望する」
Engineering Education and Movement towards Its Innovative Reform, in Japanese Universities

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3.JABEEの役目と活動

JABEEの全体像の把握には、JABEEのホームページ( http://www.jabee.org/ )にあるJABEEの定款を始めとする各種資料、JABEE副会長の大橋秀雄氏の公開資料「技術者教育認定制度の目指すもの」、ならびにJABEE運営委員会で承認された「JABEE共通OHP(JABEE基準・審査委員会委員長の大中逸雄氏作成)」が大いに参考になる。ここでは、それらを参考に、JABEEの役目と活動を概観する。

JABEEは、「日本の社会と産業の発展に寄与する存在の一つ」として、技術者教育を「技術者の標準的な基礎教育」として位置付け、「統一的基準に基づいて技術者教育のプログラムの認定を通じて技術者教育の質の向上を実現し、その技術者教育の国際的な同等性を確保する」ことを目指している。JABEEが担当する技術者教育認定制度の基本方針は

1) 大学等の独自性・多様性・改革の障害にならないこと
2) 強制ではなく、当該学科・選考・コース等の希望により実施すること
3) 認定基準やプロセスが公表されること(透明性の確保)
4) 権威ある中立的第3者評価であること
5) 認定されたプログラムを公表すること
6) 公正な一貫性のある評価であること
7) 我が国に適したシステムであること
8) 無用な仕事を作らず、なるべく費用をかけないこと
9) 本システム自体も周期的に評価し、見直すこと

としている。JABEEは、学協会の協力を得ながら全体の統一と調和を図り、学協会の代表として認定の最終責任を負うことになる。

 JABEEは、大学設置・学校法人審議会、大学基準協会と同様、認定機関の一つである。大学設置・学校法人審議会は、教育組織ごとに、それが提供する教育の質と、その質を維持・向上する組織的メカニズムを審査し、基準を満たしている機関(大学、学部、学科等)の設置を認定し、工学部や理工学部に限れば平均的に7,8年に一度の割合で「工学視学」している(すなわち、文部事務官を伴った二人の視察委員によって設置基準が維持されているかどうかをチェックし、問題点があればその点を指摘し、認定維持のための改善を大学側に求めている)。大学基準協会は同様な審査を行い、基準に適合した大学、工学部等の機関を協会維持会員とする認定を行い、協会加盟であることが「ある基準以上の機関」であることの保証とし、加盟後は定期的に同業の他大学教員によって質の維持のために相互評価を行っているが、認定取り消しや工学部での教育プログラムの認定は行っていない。これらはいずれも「機関認定」を行っている機関であるのに対し、JABEEは専門教育プログラムごとに、その教育が要求基準を満たしているか成果に焦点を当てつつ審査し、プログラム自体を「専門認定」する機関である。JABEEで認定されたプログラムを修了した学生はそれぞれのプログラムごとに設定された基準のレベルに達したことが間接的に保証されることになる。また、大学設置・学校法人審議会は国の機関であるのに対し、JABEEと大学基準協会は国の機関でない、すなわち民間団体である。ABETを含め、ワシントンアコードに加盟している団体はすべて民間の認定団体であることが、JABEEを国の機関としなかった理由のようである。

JABEEの組織図は図2である。現在、運営委員会とその下部委員会(総務委員会、基準・審査委員会、事務局長連絡会)で、2002年4月から本格的認定作業に移るべく実質的運営・検討がなされている。「日本技術者教育認定制度の認定および審査方法」(JABEEのホームページからダウンロード可能)が2000年5月16日の基準・審査委員会で承認され、現在、国立大学の10のプログラム、私立大学の9のプログラムならびに高専の1つのプログラム、計20のプログラムが選定され、認定作業の試行が開始された。本学会としては、国立大学1プログラム、高専1プログラム、計2プログラムを年度内に試行することになった。教育プログラムは、分野を問わず適用される共通基準と、専門分野ごとに設定される分野別基準を満たすことが必要である。分野別基準は、対応する学協会が主体となって設定し、JABEEによる調整を経て決定される。その際、分野は


図2 JABEEの組織図

1) 細分化せず、なるべく大きな分野
2) 学生の将来における活動の場を重視
3) 国際的整合性を考慮(現時点より将来動向を重視)
4) 技術者資格の技術分野を考慮
5) 分野担当は、必要に応じて複数の学協会
6) 分野の内容および新しい分野の追加は必要に応じて見直す

という基本方針で決定される。これまでに採用された分野は、化学系、機械系、材料系、情報系、電気・電子・情報通信系、土木系、資源系、建築系、農業工学系、経営工学系、一般工学系である。ただし、一般工学系の名称については検討中である。本学会は情報系と電気・電子・情報通信系の分野別基準の内容に携わっている。また、共通基準は共通基準1(教育目標)、共通基準2(教育成果)、共通基準3(教育手段:入学者選抜方法、カリキュラム、教育方法、教員組織、学生への支援)、共通基準4(教育環境:施設・設備、財源、学費・住居などの支援体制)、共通基準5(教育成果の現状分析)、共通基準6(教育改善:自己点検システム、改善)の六つの基準からなっている。そのうちの共通基準2は

a) 人類の幸福・福祉とはなにかについて考える能力と素養(教養教育を含む)

b) 技術的解決法の社会および自然に及ぼす効果、価値に関する理解力や責任など、技術として社会に対する責任を自覚する能力(技術者倫理)

c)
日本語による理論的な記述、口頭発表力、討論力などのコミュニケーション能力、および国際的に通用するコミュニケーション基礎能力

d)
数学、自然科学および技術(情報技術(IT)を含む)の学理に関する基礎知識とそれを応用できる能力

e)
変化に対応して継続的、自律的に学習できる生涯自己学習能力

f)
種々の科学・技術・情報を利用して社会のニーズを解決できるデザイン能力

g)
与えられた条件下で計画的に仕事を進め、まとめる管理能力

が満たされることを求めている。

今後2年間、試行を通して、審査基準(共通基準と分野別基準)、自己点検報告書のフォーマット、審査方法などについて問題点の洗い直しを行い、2002年4月以後に本格的に導入される認定システムの作成に向け、改善に努めることになる。また、その際、フォーマット等については、大学評価・学位授与機構の大学評価機関(税金を使用している大学等が、責任を果たしているかどうかを社会に代わって評価し、社会に公表する役割を持つ)に提出すべき大学側(評価は国立大学が対象)の書類作成との共通化も、無用な仕事を作らず、なるべく費用をかけないという観点から、不可欠となろう。

認定を受けるには、少なくともプログラム修了者のすべてが教育成果の基準(共通基準2と分野別基準)を満たしていることが必要で、共通基準と分野別基準の審査は同一の審査チーム(審査長、審査員2〜4人、必要に応じオブザーバ数人;審査長ならびに審査員の資格は後ほど述べる)で実施される。審査の要点は「教育プログラムの内容とその実施システムが基準を満たしている」ことの教育プログラム提供側による証明の妥当性をチェックするところにある。その際、特に、

共通基準2および分野別基準を満たす最低のレベルが、社会(産業界、卒業生、その他)のニーズと学生の資質等を考慮して、プログラムで設定・明示され、プログラム修了者がすべてそのレベルを超えていることがプログラム提供側によって証明されなければならない。審査員はその最低レベルの設定の根拠と証明が妥当であるかを(国際的水準で)判断する。(プログラム提供側でその妥当性を説明できるか、各教員が最低レベルを十分に認識し、そのレベル以上の学生を合格させているか、最低レベル合格者の試験問題解答用紙やレポート等の証拠提示や教員・学生との面接などによってチェック)

共通基準2のa)とb)などについては、これらの専門家が教育することがのぞましいものの、専門家によるものでなくてはならないことはない。幸福・福祉学や倫理の専門家を養成するのではない。講義では、それらについての単なる知識を与えるのではなく、学生自身にそれらについて考えさせる機会や、応用させる機会を与え、それらについて常識的な能力と素養を身につかせることを要求している。

編入学などにおいては、制度的に可能であるからというのではなく、編入生が他の学生と実質的に同等であることがプログラム提供側によって証明されなければならない。(国際的に通用する具体的証明が必要)

他大学の講義や遠隔教育で得た科目等の単位認定に際しては、その合格レベルがプログラム提供側の基準レベル以上かどうかをプログラム提供側で判断し、その妥当性を審査員に説明できなければならない。

基準で要求されている能力・知識を卒業生が身に付けていることがプログラム提供側によって証明されなければならない。

継続的教育改善を実施する組織メカニズムが教育プログラム提供側に設定されていることが必要である。

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