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大学における技術者教育と改革の方向
電子情報通信学会会誌2001年1月号 特集「21世紀を展望する」
Engineering Education and Movement towards Its Innovative Reform, in Japanese Universities
篠田庄司、フェロー
中央大学教授
中央大学電気電子情報通信工学科、東京都112-8551

Shoji Shinoda, Fellow
Department of Electrical, Electronic and Communication Engineering
Chuo University, Tokyo 112-8551, Japan
1.まえがき

日本の工学部や理工学部の工学系学科での専門教育は特定の工学分野の学問体系を教授する教育となっている。ここ2〜3年、国際的整合性の立場から、日本の工学教育について、欧米の工学教育における「工学教育の品質を保証するプログラム」の考えの取り入れを含め、種々検討されていた。そして、その結果として、1999年11月に日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board of Engineering Education、略してJABEE(ジャビー);会長:吉川弘之氏)が設立され、大学等での技術者教育が評価・認定の対象となった。本学会も、日本技術者教育認定機構対応委員会(略して、JABEE対応委員会;委員長:秋山 稔氏)を設立し、JABEEの活動に積極的に協力することとなった。私はその対応委員会の副委員長とJABEE基準・審査委員会の委員として働いている。その関係もあって、今回の特集における「大学における技術者教育と改革の方向」について執筆を頼まれた。

ここでは、JABEE設立までの経緯、JABEEの活動状況、本学会の対応、ならびに大学の対応を記述することによって「大学における技術者教育と改革の方向」を感じ取ってもらいたいと思っている。

なお、JABEEでは、技術者(engineer、エンジニア)とは「技術(technology)を業とする(に携わる)もののうち、知識(工学)をその能力の中核におくものを指し、スキル(技能)を能力の中核とする技能者(technician、テクニシャン)を含まない」と定義し、技術者教育とは「工学、農学、理学についての高等教育の学士レベルに対応する技術者育成のための基礎教育のことである」と定義している。以下では、できるだけJABEE用語を用いて述べさせていただく。

2.JABEE設立までの過程

ここでは、文献1)に収録されている資料ならびに文献2)を参考に、JABEE設立までの過程を概観する。ご存知のごとく、ここ数年、高度情報通信技術の発展とインターネットの普及で情報通信ネットワークの社会基盤化が進みつつあり、世界の経済体制が地球規模で市場経済化、開放経済化に向かって大きく変化し、国境を越えてボーダレス化が進展しつつある。それとともに、専門職業技術者(エンジニア)の国境を越えた移動性の確保が重要となり、商品と技術の国際的規格・標準化とともに、技術者(エンジニア)資格の国際的相互承認の動きが進んでいる。この動きは、世界81の国と地域が参加して設立された世界貿易機構(World Trade Organization、略して WTO)が1995年に締結した「人の供給サービスの貿易に関する一般協定(General Agreement on Trade in Services、略して GATS)」の動きの一つである。ここで、技術者資格とは、例えば米国でのPE(Professional Engineer)、英国のCEng (Chartered Engineering)資格、ヨーロッパで通用する技術者資格(Eur Ing)、日本での技術士を意味し、その資格を与えるときに考慮されるべき項目は国によって異なる。技術者資格を与えることに関しては、米国、シンガポール、マレーシア、香港は「工学部系の学部卒の学歴」、「実務経験」、「試験」をすべて重視しているのに対し、フランス、台湾、フィリピンは「工学部系の学部卒の学歴」を最も重視し、日本と韓国は「実務経験」と「試験」を重視している。

技術者資格の国際的相互承認の前提として、技術者教育の相互承認が、主に英米式認定制度(自己点検結果と教育成果の外部評価による評価・認定制度)を基に、進められている。たとえば、米国、カナダ、メキシコはNAFTA(North Atlantic Free Trade Area)協定と関連して技術者教育の認定制度も共有化する方向にある。また、米国,英国,カナダ,オーストラリア,ニュージランド,アイルランド、南アフリカ,香港が一つの国際相互承認協定としてのワシントンアコード(Washington Accord)を結び,同様の認定制度で技術者教育の相互承認を行っている。それは、加盟各国が米国での技術者教育(工学教育)のアクレディテーション機関であるABET (Accreditation Board for Engineering and Technology:米国工学教育認証会議)の認定方式に準拠(又は一部修正)して認定した「工学教育プログラム」の卒業生を同等の能力と認め合うものである。現在、中国が加わる準備をしており、メキシコ、パプア・ニューギニア、フランス、ロシアが加入を求めており、ジャマイカ、インドネシア、オランダ、エジプトなどが興味を持っているとのことである。ABETは、コロンビア、アイスランド、韓国、クエート、メキシコ、オランダ、サウジアラビア、トルコなどの数十の教育プログラムを評価し、実質的に同等(substantial equivalency)であると評価している(ただし、認定ではないことに注意)。ABETが技術者教育の認定制度の国際会議を毎年開催し、認定制度の普及で国際的イニシアティヴを取ることを戦略としており、上のような動きは加速し、英米的認定制度が今後世界的に広まり、国際的相互承認も進められる方向にあると思われる。日本とFEANI(Federation Europeenne d'Association Nationales d'Ingenieurs; 汎ヨーロッパエンジニア協会連合)はこれまでオブザーバの資格で接触を保ち、動向をフォローしている。

日本における様々な技術者の資格は科技庁、建設省、通産省、郵政省など職種によって窓口が異なり、またその基礎となる工学教育は、文部省と関係省庁に、多岐にわたっている。1995年の大阪で開催されたAPEC(Asia Pacific Economic Cooperation)以来、技術者資格のAPEC域内での相互承認の問題が浮上し、日本では関係省庁の話し合いの場が持たれるようになり、日本の国際社会での地位向上、日本の企業活動の国際化、若い労働者の移動性向上、日本の大学の国際的認知度向上といった観点から、技術者教育が重要課題として取り上げられ、1997年7月に大学、学協会、文部省、科技庁、通産省、経団連などの代表が参加するなか「国際的に通用するエンジニア教育検討委員会」(委員長:吉川弘之氏;幹事:(社)日本工学会と(社)日本工学教育協会)が発足された。それは日本版ABETをどのように立ち上げるかを検討する組織であった。また、大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革の方策について―競争的環境の中で個性が輝く大学―」(1999年10月26日)(抄)には

「例えば、工学分野においては、工学教育の国際的通用性を担保する目的で、大学の工学教育の内容を評価し質の維持向上を図るとともに、その評価システムを国際的な共通標準に準拠させようとする仕組みが我が国においても検討されているところであり、今後、このような取り組みなども視野に入れ、改革をすすめることが重要となってくる。」 という文言が盛り込まれた。

その後、吉川委員会での検討・準備が進み、世界水準による技術者教育の質の保証と向上を目指し、日本における技術者の概念、教育、資格、責任等のパラダイム変革を促すものとして、技術者教育のための透明性の高い審査認定を行うことを目的とした技術者教育認定制度(案)が作案され、1999年2月に工学系の学部、大学および学協会宛に配布され、検討の依頼がなされた。また、同時に、その制度運営を担当する認定機構の設立趣旨(案)の説明も行われた。両案には種々の意見が出され、それらの意見が参考にされ、両案に修正が加えられ、1999年9月に第1回設立発起人会が開かれ、1999年11月19日に、日本技術者教育認定機構(JABEE)が設立された。その設立までの急テンポさに、学協会の会員、大学の関連教職員には驚く向きも多い船出であった。また、大学審議会「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について(審議の概要)」(2000年6月30日)(抄)には

「現在、我が国においては、技術者教育プログラムのうち一定水準を確保しているものについて認定を行うことを通じて教育の質を高めるとともに、当該認定システムを国際的な共通基準に準拠させる仕組みを導入する動きがあり、このような取り組みは我が国の大学教育の国際的な通用性・共通性の向上や国際競争力の強化を図る上で重要な役割を果たすものとなると考えられる。

今後、我が国において、このような技術者教育をはじめとする様々な専門職業教育の分野でのアクレディテーション(適格認定)・システムが導入されることは、教育の質を向上させる観点から望ましいものであり、その普及、支援を図る必要がある」 というJABEEの活動への支援と期待を示す文言が盛り込まれた。また、1999年日本の技術士審議会では、国際的に整合性のある新しい技術者資格制度が審議され、そこで作られた答申に基づいた技術士法の改正案が2000年4月に国会で可決公布され、2001年4月から施行されることになった。その改定では、JABEE認定の技術者教育プログラム修了者に対し、技術士第一次試験が免除され、修習技術者として直接実務修習に入ることができるように規定された。また、同時に、技術士には、持続的な能力開発を維持す継続専門教育(CPD;Continuing Professional Development)を受けることによって、国際的な技術者資格の取得への道も開かれることになった。(なお、CPDは資格のためか、あるいは質向上のためか、技術士会、学協会、各企業内のCPDの好ましい関係はなにか、CPDについての大学との連携をどうするかなどはこれから位置付けられる。)


図1 JABEE認定の教育プログラム修了者の修習技術者への道

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