1. 資料の点訳方法
学会,研究会等の資料は墨字(印刷された,あるいは画面表示された文字)で提供されるため,視覚障害のある人が論文集,技報から情報を得るのは大変困難である.そこで,視覚障害のある人も障害のない人と同じように情報を入手できるよう,提供資料の点字化などが必要となる.
本来,すべての資料を印刷物とまったく同一に点字化したものを提供すべきであるが,点訳時の同音異義語や固有名詞の誤訳の可能性や図・表の点訳の困難さなど,多くの課題があり,現時点では妥協策をとらざるを得ない.現在提供できる点字資料は次のようなものである.
(1) アブストラクト版
発表内容を理解するための最低限の情報である,論文のアブストラクト部分等の完全点訳(校正済み)
(2) 全文点字粗訳版
技報と同じ原稿全部を粗訳点字化したもの(校正なしの機械点訳であり,同音異義語などの誤りが含まれている可能性が高い.また図・写真は点訳できず,表は乱れることが多い)
全文点字粗訳版には問題が多いものの,点字資料がまったくない状態と比べれば格段に多くの情報を提供することができるが,作成のためのシステムが必要である.情報保障WGではシステムを試作したが,まだ完全実稼動には至っていない.
2.1 作業手順
1) 点字資料の希望者の募集
メーリングリストやホームページで,開催する研究会の技報情報(アブストラクト版)の点字資料を提供できる旨をアナウンスする(全文点字粗訳版を提供する場合は,校正なしの点字粗訳であることを断った上でアナウンスする).
(例) ○○○研究会では、視覚障害のある方への情報保障のために,発表資料のアブストラクト部分を点訳いたします(アブストラクト版).当日,点字印刷したものを用意致しますので,お気軽にご参加ください.なお,ご連絡を頂ければ,点字データ(BSEフォーマット)を事前にお送りすることもできます.
2) データの入手
現在,電子情報通信学会の研究会での資料はオフセット印刷の墨字のみで,研究技報発行は開催の1週間前となっている.印刷物からの点訳には非常に時間がかかり,1週間内での作業は不可能である.また,ユーザーには当日渡すよりも事前に提供して読んでおいていただく方が望ましく,この点からも原稿締め切り時(開催日の3週間前)ごろには入手する必要がある.そのため,学会とは別に研究会の情報保障担当者から各発表者に連絡をとり,電子データを提供してもらうことが必要である.その際には,“情報保障用にしか使わず,著作権も問題がない(著作権法で規定されている)”ことを説明しておく.
* 著作権法の一部抜粋(点字による複製等)
第37条第1項 公表された著作物は,点字により複製することができる.
第37条第2項 公表された著作物については,電子計算機を用いて点字を処理する方式により,記録媒体に記録し,又は公衆送信(放送又は有線放送を除き,自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む)を行なうことができる.
(1) アブストラクト版
1ページ目に相当するタイトル,発表者名,所属,連絡先,アブストラクト,キーワード.
*点字は、「読み」ベースなので,同音異義語や固有名詞の表現に誤訳が生ずる可能性がある.したがって,著者から最低限,名前の読み仮名を教えてもらうことが必要である(本来,著者には読み方をすべて記載してもらわないと誤訳は防げないが,これは著者に大変負担をかけるので,当面は著者名のみとする).
(2) 全文点字粗訳版
学会に提出するデータと同じものを提供してもらう.TeXで作成の場合は,研究会の情報保障担当者側でコンパイルできるよう,全てのデータの提供を依頼する.また,レイアウト確認のため,最終提出原稿のpdfファイルの提供も依頼する.
3) 目次の作成、フォーマットの統一
研究技報の目次に相当するものを作成する.資料番号などは学会事務局に別途問い合わせる必要がある. アブストラクト版に関しては,点や丸など記載方法を統一し,1ページに1発表の割り付けで作成する.
(1) アブストラクト版点訳(専門点訳業者に依頼)
アブストラクト版点訳は,完全を期するために専門の点訳業者に校正ありの点訳を発注する(業者については,3. 手配先リスト参照).
提出するデータは,整形したものと読みがな情報で,業者にもよるが,概ねWord形式のテキストで作成し,メール添付で送付する.点訳者の都合もあるので,あらかじめ予約が必要である.送付する量にもよるが,通常の研究会(10~25件)であれば,点訳業者に2週間前までにデータを送る必要がある.
研究会前日までに,送付先を指定して宅配便などで点字資料プリントアウトを納品してもらう.また,作業終了後に点字データをBSEファイル(点字データ保存形式の一つ)で受取り,事前に申し込みのあった希望者に配布する.
(2) 全文点字粗訳(自動点訳システムを利用)
現在仮稼動している論文自動点訳システムなどを使用して_字データに変換する.機械点訳であるため,漢字かな変換,固有名詞,点字表記変換などで誤変換が生じる可能性がある.全文を校正するのは難しいが,最低限名前などは修正する必要がある.
作成された全文データはアブストラクト版と同様に希望者にメールなどで送付する.点字プリントアウトすると莫大な量になる(通常,墨字印刷の3~4倍のページ数になるので,電子データでの提供がよいと思われる).
4) 当日作業
当日は,点訳業者から送られて来た点字資料プリントアウトを受付に置き,発表・聴講に訪れた視覚障害のある人や希望者に渡す.また,作成した点字データをUSBメモリなどにコピーしておき,会場で希望される方に渡せるようにしておくとよい.
2.2 点訳費用(2005年12月現在の資料に基づく概算)
業者により変動するが,一般的に,点訳基本料金(取らないところもある),ページごとの料金,印刷料がかかる.
項目 | 金額 |
---|---|
点訳基本料金 | 5,000円 |
点訳料 | 1~10ページ 1,000円/ページ 11~50ページ 800円/ページ 51ページ~ 500円/ページ |
印刷料 | 両面印刷 20円/ページ |
たとえば,70ページ,両面印刷,ひも綴じ,10部作成で値引きなしの場合(税込み, 送料込み)では次のようになる.
5,000+1,000×10+800×(50ー10)+500×(70ー50)+20×(70/2×10)=64,000円
*ページとは,点字プリントアウト時のページ数であり,大雑把に言えば,墨字の1ページが点字3~4ページ程度になる.
2.3 手配先リスト
点訳ボランティアの会などを含めて,点訳を受託する団体・業者はいくつかあるが,学会論文等の専門的な原稿の点訳をできるところはあまり多くない.電子情報通信学会の研究会の発表内容は情報処理関連であるが,この分野の点訳ができるところは非常に数が少ない.また,点訳の精度も大きなばらつきがあるといわれている.
すべてを網羅しているものではないが,現時点で受注可能という返答を得ている点訳依頼手配先を資料3にまとめた(点訳精度を確認したものではない).点訳料金ほかの条件も異なるので,個々に連絡して相談する必要がある.点訳依頼手配先リストとして添付資2を参照して頂きたい.
2.4 問題点,留意事項等
- 各発表者に連絡,同意を得て,期日までにデータをすべて集めるのはかなり時間がかかるため,時間に余裕を持って行なうことが必要である.
- 発表者にはすべてのデータを提供して頂きたいが,現時点では提供は強制でなく,任意とする.
- フォーマットを指定しても合わせてもらえない場合も多い.そのため,研究会の情報保障担当者側ではフォーマットの統一にそれなりの作業量が発生することを考慮しておく.
- 著作権に関しては点字データの配布は規定で許されているが,一部企業は社内規定等によって発表前のデータ提出ができないところがある.その場合はその原稿の点訳は断念せざるを得ない.
- 自動点訳システムでは,図・表の扱いはまだできていない.
- テキスト化することで,レイアウト情報,フォント情報などが失われてしまう問題がある.
- pdfで提出する人には,テキスト部分が抽出できるように,保護をかけないで作成するよう依頼する.
2.5 テキストデータの配布について
アンケート結果では,コンピュータを使った読み上げソフトを使用している方が多く,点字データよりテキストデータの方が望ましいという結果が出た.これを受けてWITでは学会事務局と話し合いの上,2005年1月の研究会から限定的ではあるが,オリジナルテキストの提供を開始した.研究会は技術報告書の売り上げで成り立っていることから,配布は,
- 著者が承諾
- 使用者が印刷物では情報を得にくい
- 使用者が技報を購入
- データの2次利用はしない旨を宣言
の4つすべての条件を満たした時にのみ配布している.
データの収集は,事前作業において各著者に全文データ提供の承諾を得る場合と同じで,点訳化せずそのままの状態で視覚障害のある人に渡す旨を説明し,承諾を得る.事前配布や当日の対応は点字データと同様にして提供する.
*テキストデータの提供については研究会,学会によって対応が異なると思われるので,個別に問い合わせる必要がある.
2. 点訳手配先リスト(2022年7月26日現在)
本リストへの掲載を希望される方はWIT幹事団宛にお知らせ下さい。
名称 | 郵便番号 | 住所 | TEL | e-mail,URL | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
(社福)日本ライトハウス 点字情報技術センター |
〒577-0061 | 大阪府東大阪市森河内西2-14-34 | 06-6784-4414 | http://www.lighthouse.or.jp/tecti/ | 橋口勇男様 |
(社福)京都ライトハウス 情報製作センター |
〒603-8302 | 京都府京都市北区紫野花ノ坊町11 | 075-462-4446 | https://www.kyoto-lighthouse.or.jp/service/center/ | |
(社福)名古屋ライトハウス 光和寮 点字印刷課 |
〒466-0856 | 愛知県名古屋市昭和区川名町1-5 | 052-751-1268 | https://nagoya-lighthouse.jp/base/kowaryou/ | 榊原様 |
(有)丸信テック | 〒222-0022 | 神奈川県横浜市港北区篠原東1-3-17-105 | 045-439-3855 | http://www.marushintech.co.jp/ | WITで利用実績あり |
(社福)日本点字図書館 | 〒169-8586 | 東京都新宿区高田馬場1-23-4 | 03-3209-0671 | https://www.nittento.or.jp/ | |
(社福)ぶどうの木ロゴス 点字図書館 |
〒135-8585 | 東京都江東区潮見2-10-10 | 03-5632-4428 | https://logos-lib.or.jp/ | |
(社福)視覚障害者支援総合センター | 〒167-0034 | 東京都杉並区桃井4丁目4番3号 スカイコート西荻窪2 | 03-5310-5051 | http://www.siencenter.or.jp/ |