論文作成・発表アクセシビリティガイドラインについて
近年の電子情報技術の進展は目覚しく,今日の我々の生活にとって必要不可欠であるだけでなく,障害のある人にとっても大きな福音となり,ADL(Activities of Daily Living:日常生活活動),QOL(Quality Of Life:生活の質)の向上に大いに役立っています.それに伴い,福祉情報機器関連の研究開発が盛んになり,電子情報通信学会,ヒューマンインタフェース学会ほか多くの学会,研究会はその研究開発,発表,普及の場として活発な活動を続けております.ここで,真に役に立つ機器,システムの研究開発には,当事者ユーザーである障害のある人の研究開発への参加が不可欠です.しかし障害のある人の学会や研究会への参加は非常に少ないのが現状です.その要因のひとつに,学会や研究会での情報保障が充分でないことがあると思われます.参加したくても,手話通訳がない,発表のスライド等の文字が小さすぎて見えない,資料が点字化されていない,などのバリアがあります.
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)は上記の課題を認識し,HCGに所属する福祉情報工学研究会(Welfare Information Technology: WIT)を中心として各種の情報保障の試行を行なうこととしました.試行に当たってはHCG所属の4研究会からのメンバーによる「情報保障WG(英文名称Academic Meeting Accessibility Initiative: AMAI)」を設立いたしました.
情報保障WGでは,WITの研究会,WITが参加するHCGシンポジウム,情報科学技術フォーラム(FIT)等で,「従来の情報保障方式の洗い出し,それらを導入した場合の経費の試算,および期待される効果の検証」および「新しい情報補償システム開発の可能性の調査」を行ない,併せて,論文作成,プレゼンテーション資料作成,および発表時の情報保障に関するアクセシビリティガイドライン作成も行ないました.
本書は,そのガイドラインのWIT研究会等での試行結果を踏まえ,第1版として公開するものです.本書は,まず,“守りやすい”ガイドラインであることを目的とし,基本的な,必要最小限のガイドラインを示すにとどめています.また,内容は主として聴覚障害,視覚障害のある方への情報保障が中心となっており,手話通訳,点字化,音声化などを行なうことを前提としています.
今後,多くの研究会でお使いいただき,忌憚ないご意見,コメント,改善案などをお寄せいただき,改良を重ねていくこととしたいと考えております.
なお,情報保障WGは2005年3月をもって終了となりますが,本ガイドラインの改良・維持については,WITで担当してまいります
2005年3月24日
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ情報保障WG
リーダー 岡本 明
電子情報通信学会福祉情報工学研究会(WIT)委員長
Ver.2.0について
Ver.2.0は,前バージョンの公開後いくつかの研究会で試行を続けていただき,アンケート,手話通訳の方のコメントや障害のある方のご意見等をもとに,いくつかの改訂を行ない,改めて公開するものです.また,このガイドラインに沿った論文作成・発表になっているかどうかを自己チェックするための,簡単なチェックリストも別紙として用意しました.
本ガイドラインは今後多くの学会・研究会でご利用いただき,さらに改訂を続けていく必要があります.ぜひご意見,コメント等を下記までお寄せください.
2006年3月1日
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ情報保障WG
リーダー 岡本 明
電子情報通信学会福祉情報工学研究会(WIT)委員長 長嶋 祐二
Ver.3.0について
Ver.2.0にはなかった項目ですが,学会・研究会等の会場へのアクセスに対して配慮することも主催者側としては大切なことです.例えば,会場に行くまでの間に階段が存在して,車いす利用者が会議や研究会に参加できないといったケースは避けなければなりません.Ver.3.0では学会・研究会等会場へのアクセスを自己チェックするための,簡単なチェックリスト「学会・研究会等の会場へのアクセスチェックリスト Ver.1.0」を用意しました。
本チェックリストを今後多くの学会・研究会でご利用いただき,さらに改訂を続けていく必要があります.ぜひご意見,コメント等を下記までお寄せください.
2008年3月1日
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ情報保障WG
リーダー 岡本 明
電子情報通信学会福祉情報工学研究会(WIT)委員長 中山 剛
Ver.4.0について
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)は,福祉情報工学研究会(WIT)を中心に,2005年に障害のある人が学会や研究会などの研究活動に参加できることを目指して,聴覚障害,視覚障害のある方への情報保障を中心とした学会や研究会参加におけるバリア(手話通訳がない,資料が点字化されていないなど)を無くすための論文作成,プレゼンテーション資料作成,および発表時の情報保障に関するアクセシビリティガイドラインを公開しました.2005年の公開以降,社会も技術も大きく変化してきています.この変化に対応するため,今回,大幅な改訂を行いました.
2001年12月の国連総会で「障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約」に関する決議案が採択されました.日本は2007年にこの条約に署名し,2012年に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援する法律」,2013年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」と「障害者の雇用の促進等に関する法律」を改正して法的な整備を整え,2014年に日本国内で条約が発効されました.また,2001年に世界保健機関(WHO)が採択した国際障害分類(ICF)における構成要素間の相互作用を示す図では,障害はある特性を持った人とその人を取り巻く環境との関係から生じることを示しています.障害者差別解消法では,会社やお店,学会や研究会といった事業者に対して障害のある人に「合理的配慮」を提供するように求めています.合理的配慮の提供は環境側にあるバリアを無くすことを意味しています.アクセシビリティガイドラインは,この合理的配慮に関わるものです.そして,環境側にあるバリアを技術の面から無くすことはWITの使命です.
WITや他のHCGの先輩方のアクセシビリティガイドライン作成は,共生社会の実現・多様性への対応を先取りするものでした.この取り組みを継続し,アップデートしていくことは,後に続く者の仕事です.「全ての人が自分の志した道にチャレンジできる」WITは,これからもそのような社会を支える研究活動を続けて行きます.学会や研究会で利用されていたプレゼンテーションの方法は,現在では学会や研究会だけではなく,広く社会で利用されるようになってきています.このガイドラインを多くの学会・研究会や会社,お店などでお使いいただき,ご意見,コメント,改善案などをお寄せいただけないでしょうか.全ての人に情報を届けることができるように,皆様と一緒に改良を続けて行きたいと思います.
2022年7月27日
電子情報通信学会福祉情報工学研究会(WIT)
論文作成・発表アクセシビリティガイドライン改訂WG
井上 正之(筑波技術大学)
苅田 知則(愛媛大学)
今野 順(愛媛大学)
坂本 隆(産業技術総合研究所)
酒向 慎司(名古屋工業大学)
塩野目 剛亮(帝京大学)
布川 清彦(東京国際大学)
南谷 和範(大学入試センター)
宮城 愛美(筑波技術大学)
若月 大輔(筑波技術大学)
論文作成・発表アクセシビリティガイドラインの概要
本ガイドラインは,1.論文作成ガイドライン,2.プレゼンテーション資料作成アクセシビリティガイドライン,3.発表時アクセシビリティガイドラインからなっています.
-
論文作成ガイドラインは,論文が点字化,音声化されたときに生ずる問題点や弱視,色弱者への配慮を中心に,主として次のようなことが書かれています.
- 点字化,音声化されると,すべて「かな表記」と同じになるので,同音異義語の判別が難しくなること,固有名詞は誤った読み上げ・点字になる可能性があることに留意する.
- 記号等で点字になると表記が変わってしまうものがあることに留意する.
- 体裁を整えるために単語内にスペースを入れることは避ける.
- 図は読み上げられないことに留意する.
- 表は,読み上げ,点字とも分かりにくくなることに留意する.
- 背景と文字,図などのコントラストを明瞭にする.
- 情報は色だけに依存して表現しない.
-
プレゼンテーション資料作成アクセシビリティガイドラインは,視覚障害のある方が会場でプレゼンテーション画面を理解できるようにすることを中心に,主として次のようなことが書かれています.
- 文字や図面,写真などはできるだけ大きなもの(通常30ポイント以上,最低でも24ポイント以上)をつかう.
- 書体はゴシック系が望ましい.
- 背景と文字,図などのコントラストを明瞭にする.
- 情報は色だけに依存して表現しない.
-
発表時アクセシビリティガイドラインは,参加する視覚障害のある方がプレゼンテーション内容を理解できるようにすること,手話通訳やなどの音声を文字化する通訳(以下,文字通訳)がやりやすいようにすることを中心に,主として次のようなことが書かれています.
- 指示代名詞や「ここに示すように,」などの言葉は避ける
- 図・写真・表は,見えなくても図表の概要が理解できるように説明する.
- 言葉をはっきりと,文を区切って比較的ゆっくりと,明瞭に話す.
- あいまいな表現やぼかした表現は避ける.
また,参加者からの質問の際などに,質問者や座長などに配慮していただきたいことも述べられています.
別紙チェックリストは,このガイドラインに沿った論文作成・発表になっているかどうかを自己チェックするツールとしてご活用ください.
文中,B,LV等は次のことを意味します.重要度の高い項目には,重要と記してあります.
- B:全盲(Blind)の人への配慮
- LV:弱視(Low Vision)の人への配慮
- C:色覚多様性(Color vision variation *1)への配慮
- D:ろう(Deaf)の人への配慮
- HH:難聴(Hard of Hearing)の人への配慮
- LD:読み書き困難(Learning Disability)(主にDyslexia/Dysgraphia *2)のある人への配慮
- ASD:自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorders *3)の人への配慮
- HS:感覚過敏(Hyper Sensitive *4)の人への配慮
- G:一般的に読みやすい論文のための配慮(General)
*1 色覚の特性については,二分することができないスペクトラム(連続的な変化)として捉えるのが学術的な傾向です.従来は色覚に問題が無いと判定された多くの方々にも,色の見分けにくさが多々あることが近年分かってきており,誰に対しても,色使いに注意が必要です.
*2 知的能力や視力/視機能等に問題はないが,文字の読み書きに特異的な困難が生じる状態です.
*3 対人関係や行動面でのこだわりの強さ/偏り等により社会生活に支障をきたしている状態です.
*4 視覚や聴覚,嗅覚等の刺激に特異的に敏感な反応が生じ,それにより生活上の困難が生じる状態です.
1. 論文作成アクセシビリティガイドライン
1.1 点字化に関する注意点
文章は点字化,音声化すると,すべて「かな表記」になってしまい,漢字表記はなくなります(漢字点字も考案されていますが,あまり普及していません)ので,同音異義語の判別が難しくなることがあります.どうしても間違っては困る場合には,別の言葉を使うか,分かるような文章にする,などの工夫をしてください.B
点字は6つの点でかな一文字を表す仕組みになっています.すべての文章はかな文字に直して点字化されます(かな文字への直し方も,助詞の「は」は「わ」,「へ」は「え」としたり,「う」の列で延ばす単語は長音「ー」を使ったりするなど,独特のルールがあります).
(例) 点字へ変える規格は今日打ち合わせます. → てんじえ かえる きかくわ きょー うちあわせます.
これは「展示へ変える企画は今日打ち合わせます.」とも読めてしまいます. 普通は前後の文脈からどちらの文であるかはほぼ分かります.しかし,どうしても間違っては困る場合には, たとえば,「点字へ変えるスタンダードは今日打ち合わせます.」 などに変えるのも対策の一つとなります.
1.2 音訳・点訳に関する注意点
固有名詞などはどのように読み上げられるか,どう点字化されるかは音声化辞書,点訳辞書によって異なることがあります.また,送り仮名を入れないと,予期したように読まれない場合があります.どうしても間違っては困る場合には,読みをつけるなどの工夫をしてください.B
(例) 辞書をカスタマイズしていない音声読み上げソフトや点字化ソフトでは,次のようになってしまうことがあります.
- 春日局 → 音声「カスガノツボネ」,点字「シュンジツキョク」
- 春日一郎 → 音声「ハルヒイチロウ」,点字「シュンジツ イチロー」
(例) 「行った」は,「おこなった」と「いった」という二通りの読みが考えられますが,「おこなった」と読ませたいときには,送り仮名を入れて「行なった」としないと,「いった」になってしまうことがあります.
- 「試合を行った」 →音声「しあいをいった」,点字「シアイヲ イッタ」
1.3 特殊文字・機種依存文字の使用に関する注意点
特殊文字や機種依存文字は点字化すると表記が変わってしまう場合がありますので,できるだけ一般的な文字を使うようにする必要があります.B
ここにすべてのケースを挙げることは難しいのですが,とくに次のものは注意が必要です.
(例) ●,◎,☆,★などは,音声読み上げソフトでは種類によって読み方が異なりますが,ある程度正しく読みます.しかし,点字にはこれらの記号がありませんので,次のように単なる○と×だけの表記になってしまうことがあります.
- ○ → 点字「○」
- ● → 点字「○」
- ◎ → 点字「○」
- ☆ → 点字「×」
- ★ → 点字「×」
したがって,できるだけ上記のような記号ではなく,アルファベットやイロハなどの文字を使っていただくほうが分かりやすくなります.
(例) ①,②,③などは点字にはありませんので,括弧つきの表記に変わってしまいます.
- ① → 点字「(1)」
- ② → 点字「(2)」
- ③ → 点字「(3)」
- ④ → 点字「(4)」
したがって,
(1)実験の概要 ①被験者のプロフィール
のように使われていると,この二つの区別がつかなくなることがあります.
(例) 特殊文字や機種依存文字ではありませんが,:-),(^^)などの組み合わせ絵文字は,文字通りに読まれ,点字化されてしまいますので,組み合わせた場合の意味が伝わりません.
1.4 スペース(空白文字)の使用について
体裁を整えるために単語内にスペースを入れると,それはひとつの単語とはみなされないため,読みや点字が変わってしまうことがありますので,できるだけ避けてください.B
(例) スペースが入ると,次のようになってしまうことがあります.
- 実 験 → 音声「ミ ケン」,点字「ジツ ケン」
- 東 京 → 音声「ヒガシ ケイ」,点字「ヒガシ キョー」
1.5 図の挿入について
図は読み上げられませんので,できるだけ図を見なくても理解できるように,タイトル名を分かりやすくつけ,本文中にも説明を入れるなどの工夫をしてください.B重要
読み上げ,点字化できるのはテキストのみですので,図の部分には何も表されません.図の適切なタイトルをテキストで書き,そこにどんな図があるかが分かるようにしてください(図のタイトルを図の中に画像として入れ込んでしまうと読み上げ,点字化ができません).
1.6 表の挿入について
表は,読み上げ,点字とも分かりにくくなります.とくに重要な部分は本文中に説明を入れるなどの工夫をしてください.B重要
(例) 表を合成音声で読み上げるときには,通常は左から右へ,上から下へと読んでいきます.次のような表だと,「トクジョウ ショウチクバイ ニギリ サンゼンゴヒャクエン サンゼンエン ニセンゴヒャクエン ニセンエン チラシ サンゼンエン ・・・・」というように読んでしまい,どこがどこだか良く分かりません.このように小さな表ならそれでも若干は分かりますが,縦横10や20もある表だとまったく混乱してしまいます.
正しく読み上げられない表の事例
特上 | 松 | 竹 | 梅 | |
---|---|---|---|---|
にぎり | 3,500円 | 3,000円 | 2,500円 | 2,000円 |
ちらし | 3,000円 | 2,500円 | 2,000円 | 1,500円 |
これは現状では解決が難しい問題ですので,必要な部分は本文中に表から引用して「表から読むと,にぎりの竹は2,500円で,梅は2,000円ですので,差は500円あります.」のように説明するのも一つの工夫です.
1.7 文字のコントラストについて
背景と文字,図などのコントラストを明瞭にしてください.LVCLDASDHSG重要
(例) 明度の高い白と黄の組み合わせは文字が判別しにくく,ほとんど読めない場合があります.次の図は白と黄色の組み合わせの例です.普通の視力のある人でもよく分かりませんし,白黒印刷になった場合は判別が困難です.
背景と文字、図などのコントラストを明瞭にすること.
(例) 明度の高い白と明度の低い茶との組み合わせにより,明度の差(コントラスト)を確保することができます.次の図は白と茶色の組み合わせの例です.これはよく分かります.
背景と文字、図などのコントラストを明瞭にすること.
(例) 黒背景に白文字や黄文字は,コントラストが確保できていますが,黒背景に赤文字を組み合わせると色覚特性によっては,まったく読めなくなってしまいます.
背景と文字、図などのコントラストを明瞭にすること.
1.8 グラフ等での色の使用について
情報は色だけに依存して表現しないようにしてください.LVCLDASDHSG重要
色弱者,弱視の人の場合,色の区別がつかないことがあります.色弱者は,赤と緑,赤(茶)と黒,空色とピンク,黄と黄緑,青緑と灰色などの区別が難しいことがあります.弱視の人には,互いに似通った色は区別が難しいことがあります.また,高齢の方の場合,白と黄色,青と黒などの組み合わせは判別が難しいことがあります.
(例) グラフなどで,領域を色だけで区別していると一般の参加者にも判別しにくいし,色弱者には判別できない場合があります.次の図は円グラフの中を色だけで示し,右の方に別にその色に対応するデータ項目が表示されていますが,これだと色がわからないと対応が分かりません.
これに対しては,円グラフの内容を理解できるよう引き出し線をつけ領域の違いを表すようにするのも良いでしょう.次の図では円グラフの各領域から引き出し線がついていてそれぞれのデータ項目が示されていますので,色が区別できなくても対応がわかります.
また,モノクロ印刷になる場合や,色弱者のことを配慮して,分かりやすいハッチングをつけることが望まれます.次の図では斜線,網目,ドットなど何種類かのハッチングで領域を区別し,引き出し線でその対応データ項目を表示しています.
1.9 専門用語の略語表示について
専門語などで略語表示する場合は,初出のときにできるだけフルテキストをつけてください.G
たとえば,HMD,CSSのような3文字英略語などは,HMD(Head Mounted Display),CSS(Cascading Style Sheet)のように書いていただくことが望まれます.
1.10 アクセシブルな原稿作成のために
アクセシブルな原稿(PDF形式)を作成するための予備知識やヒントのほか、原稿作成時に用いる代表的なソフトウエア(WordやTeX)でもアクセシブル対応が進んでいます。具体的な機能や使い方はここでは説明しませんが、例として下記のリンクなどを参考にしてください。
- Accessible PDF Author Guide (SIGACCESS)
https://www.sigaccess.org/welcome-to-sigaccess/resources/accessible-pdf-author-guide/ - Make your Word documents accessible to people with disabilities (Microsoft)
https://support.microsoft.com/en-us/office/make-your-word-documents-accessible-to-people-with-disabilities-d9bf3683-87ac-47ea-b91a-78dcacb3c66d - PDF accessibility and PDF standards (TeX Users Group)
https://tug.org/twg/accessibility/
2. プレゼンテーション資料 作成アクセシビリティガイドライン
2.1 文字の大きさについて
文字や図面,写真などはできるだけ大きなものを使用してください.文字サイズは通常30ポイント以上,最低でも24ポイント以上を用いることが望まれます.LVG重要
会場の広さやプロジェクタの投影サイズにもよりますが,おおむね上記を目安とすれば弱視の方のみならず,一般の参加者にも見やすい画面となると思われます.
フォントを大きくすると図や表が1枚の画面に入らなくなってしまうことがありますが,その場合,全体を見渡せるもの(フォントは小さくてもやむを得ません)を1枚はじめに用意し,別の画面で,説明が必要な部分や重要な部分だけ拡大したものを出す,などの工夫をしてください.少なくとも重要部分は口頭で読み上げて説明することが必要です.
2.2 フォントについて
書体はゴシック系が望ましいですが,明朝系の場合は太字とすることが望まれます.LVLD
明朝系では漢字の横線が細くなりますので,見えにくくなってしまいます.UDデジタル教科書体などのユニバーサルデザイン化されたフォントが好ましいです.
2.3 コントラストについて
背景と文字,図などのコントラストを明瞭にしてください.LVCG重要
たとえば明度の高い白と黄の組み合わせは文字が判別しにくく,ほとんど読めない場合があります.次の図は白と黄色の組み合わせの例です.普通の視力のある人でもよく分かりません.
背景と文字、図などのコントラストを明瞭にすること.
明度の高い白と明度の低い茶との組み合わせにより,明度の差(コントラスト)を確保することができます.次の図は白と茶色の組み合わせの例です.これはよく分かります.
背景と文字、図などのコントラストを明瞭にすること.
2.4 色の区別に関する注意
情報は色だけに依存して表現しないようにしてください.LVCLDASDHSG重要
色弱者,弱視の人の場合,色の区別がつかないことがあります.色弱者は,赤と緑,赤(茶)と黒,空色とピンク,黄と黄緑,青緑と灰色などの区別が難しいことがあります.弱視の人には,互いに似通った色は区別が難しいことがあります.また,高齢の方の場合,白と黄色,青と黒などの組み合わせは判別が難しいことがあります.
たとえばグラフなどで,領域を色だけで区別していると一般の参加者にも判別しにくいし,色弱者には判別できない場合があります.次の図は円グラフの中を色だけで示し,右の方に別にその色に対応するデータ項目が表示されていますが,これだと色がわからないと対応が分かりません.
強調したい文字は,色を変えるだけではなく,書体も変えると分かりやすくなります.次の図は「書体も変えると良い」という部分が赤色になっていると同時にイタリック体になっています.「書体も変えると良い」という部分を赤文字にするだけでは,色弱者には,黒文字との区別がほとんどつきません.色を変えるだけではなく, 書体も変えると,色弱者にも「書体も変えると良い」の部分が強調してあることが分かります.
2.5 専門用語・固有名詞の記載について
専門用語,固有名詞等で読みがむずかしい漢字にはふりがなをつけてください.DLD
聞こえる人の場合は,知らない用語でも発表者の読み上げ音声を聞けば読みは分かりますが,ろうの人の場合,音の情報がないため,読み方が分からないままになることがあります.また,手話通訳や文字通訳の人が専門語やむずかしい用語を理解してうまく伝えるための助けにもなります.
2.6 動画の挿入について
プレゼンテーション資料に説明音声が入っている動画を挿入する場合は,動画に字幕を付与してください.また,過度なアニメーションが添付されないようにしてください.DHHLDASDHS重要
ろう,難聴,聞こえにくい方にとって,音声から情報を獲得するのは非常に困難なので,動画を提示する場合には,字幕の付与が必要です.動画中の音声は音質が劣化することがあり,正確な手文字通訳をリアルタイムでおこなうことができない可能性があります.
3. 発表時アクセシビリティガイドライン
3.1 具体的な言葉による説明
指示代名詞や「ここに示すように,」などの言葉は避け,具体的に内容を言葉で説明するようにしてください.BLDASD重要
視覚障害のある方は「ここに」と言われてもどこだか分かりません.たとえば次のように具体的に分かるように工夫が必要です.
「発表はここに書いてあるように進めます.」→「発表は1. 概要,2. 背景,・・・の順に進めます.」
「結果はここに示すようなものです.」→「結果は,1. 試作した装置は80%の実験参加者から受け入れられた. 2. 問題点としては・・・となりました.」
「ここがこのようになっていますから,・・・」→「装置の上の部分が出っ張ってしまっていますから・・・」
通常はあまりこのような発表の仕方はしないことが多いので,つい忘れてしまう,と言うことが起こると思います.少しずつ慣れていくようにすることが必要です.発表練習などで事前に他の人にチェックしてもらうのも有効です.あいまいな表現は理解できないことがあるので,具体的な表現が望まれます.
3.2 図表についての説明
投影画面の中の図・写真や表を説明するときは,図表の概要が理解できるように説明してください.動画を再生する場合は,再生の前に動画の概要が理解できるように説明してください.BLDASD重要
図・写真や表を口で説明するのは難しく,また時間がかかってしまいますので,あまり細かくする必要はありません.たとえば次のような簡単な説明をするように配慮してください.
- 「数値が右肩上がりになっているグラフが書いてあります.」
- 「試作した装置の外観の写真があります.」
- 「これは実験参加者Aの状況の写真で,実験参加者が上を向いてしまっています.」
3.3 レーザポインタ使用時の注意
レーザポインタを使用する場合,できるだけ緑色光のレーザポインタを使用してください.LVCG
赤色光のレーザポインタは,弱視や色弱者に見えないだけでなく,一般の参加者の目にも暗く見えてしまい,赤い光点を見つけにくいことがあります.緑色光のレーザポインタは,人の眼の感度が最大となる波長を使用しているため,一般の参加者にも明るく,かつ色弱者にも見やすく設計されています.
3.4 手話通訳・文字通訳利用の心がけ
手話通訳や文字通訳の存在をことさらに意識する必要はありませんが,言葉をはっきりと,文を区切って比較的ゆっくりと,発音を明瞭に話してください.またあいまいな表現やぼかした表現は避け,意味明瞭な表現をするように心がけてください.BLVDHHASDG重要
声だけを頼りに発表を聞いている視覚障害のある人,手話通訳や文字通訳の人が理解しやすいようにする配慮です.発表内容を良く吟味して,ゆっくりと明瞭に話せるように準備をしてください.また,自分がどのような話し方をしているのか,どのような癖があるのか,を事前に他の人に聞いてもらったり,録音して自分で聴いたりして確認していただくと,よりよい配慮ができます.
自分の声がマイクにちゃんと入っているかどうか,自分の声が会場にどう響いているかなどよく確認してください.
語尾や接頭語が不明瞭だと,肯定なのか否定なのかが分かり難いことがありますので,とくにはっきりと発音してください(たとえば,「ありません」,「あります」,「不安定」,「非定常的」など).
日本語は主語が省略されたり,「・・・ですけれども.」「・・・とか.」など文章が完結しないで終わってしまうことがあります.内容を理解しながら行なう必要がある手話通訳や文字通訳は困難になってしまいます. 少しずつ慣れていくようにすることが必要です.発表練習などで事前に他の人にチェックしてもらうのも有効です.
このガイドラインは,言語障害,発話障害のある方に無理を強いるものではありません.ご自分のペース,やり方でお話しいただいて結構です.また,合成音声機器を利用しての発表も望ましいものです.
3.5 質疑応答時の注意 (発表者)
質問者とのやり取りなどでは,回答は質問者の発話が完全に終わってから始めるようにしてください.DHHLDASDHSG
情報保障(手話通訳や文字通訳)では,一般的に話者が誰なのかといった情報も併せて表出されます.このため, 質問の途中で言葉を引き取って回答を始めたりすると情報保障が困難になってしまいます.議論が過熱すると複数人で話してしまうことがありますが,落ち着いたやりとりが望ましいです.ベル等の刺激の強い音,ハウリング等の不快な音声が出力されないようにします.
3.6 質疑応答時の注意 (参加者)
文字通訳があるときは,座長が質問を促す発言をした後,文字が表示されてから質問をするようにしてください.DHH
座長が「ご質問のある方は挙手をお願いします」と発話してすぐに挙手すると,字幕や手話通訳の表出を待たなければならない聴覚障害者は質問の機会を逃してしまう可能性があります.
ビデオ会議アプリなどによるオンライン開催で,チャット等の文字コミュニケーションツールの利用が許されている場合は,あらかじめ質問・コメントを書いておくのも良いでしょう.
3.7 発言時は毎回所属と名前を言う
質問,コメント等,フロアから発言する人は,まず必ず自分の所属,名前をはっきりと述べてください.BLVDHHG
誰が話しているのか,というのは手話通訳にも,また視覚障害のある方にとっても重要な情報となります.また,互いにやり取りする場合には,どちらの発言かがわからなくなることがあります.なかなか大変ですが,発言のたびに自分の名前を言っていただくと大きな助けになります.
以下は山田さんが発表,質問者が田中さん,座長が鈴木さん,とした例です.
- 「座長です.ではご質問をお願いいたします.」
- 「○○大学の田中です.・・・でしょうか.」
- 「山田です.それについては・・・です.」
- 「田中です.・・・ですか.」
- 「山田です.・・・です.」
- 「田中です.わかりました.ありがとうございました.」
- 「座長です(または,鈴木です).次の質問をどうぞ.」
3.8 オンライン発表の際の事前確認
ビデオ会議アプリなどによるオンライン発表の際は,音声や映像が参加者に届いていることを確認してください.G
自分の音声や,発表資料の映像,自分のカメラ映像が参加者に届いているか確認をしてください.セッションの間の休み時間など,事前に座長や担当者に確認してもらうと良いです.またビデオ会議アプリで画面共有する際は,動画やアニメーションがスムーズに表示されないことがあります.発表に動画再生や,アプリ等のデモンストレーションが含まれている場合には,特に確認をしてください.
3.9 情報保障用の発表資料の提出
発表時に情報保障がある場合には,プレゼンテーション資料の事前提出を求められることがあります.DHH重要
通訳者は専門用語の確認など事前準備をしています.事前に発表者に問い合わせをする場合もありますのでご協力ください.また,もしその資料の内容と話す内容が異なる場合には,事前に通訳者に変更内容を伝えてください.なお,手話通訳や文字通訳をしている人に,作業中には直接話しかけないようにしてください.
3.10 式次第を作成する時の配慮
スケジュールはなるべく早く伝え,予定通り進めましょう.ASD
スケジュール管理が苦手な人に向けて,余裕を持って予定を組み,急な変更がないようにしましょう.
3.11 会場セッティングの配慮
会場をセッティングする際には,障害物等の排除や休憩室等の準備をし,出席者への事前の連絡をするようにしてください.BLVDHHLDASDHS
座席の優先指定や人と人との合う間に十分なスペースを取る等,出席者へ事前に連絡を行い,確認をしてから座席を決めましょう.
論文作成・発表アクセシビリティガイドライン
Ver.1.1 2005年3月24日
Ver.1.2 2005年7月8日
Ver.2.0 2006年3月1日
Ver.3.0 2008年3月1日
Ver.4.0 2022年9月27日
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ