学会・研究会等における情報保障マニュアル
(Ver.1.1)

学会・研究会における情報保障マニュアルについて

近年の電子情報技術の進展は目覚しく,今日の我々の生活にとって必要不可欠であるだけでなく,障害のある人にとっても大きな福音となり,ADL(Activities of Daily Living:日常生活活動),QOL(Quality OF Life:生活の質)の向上に大いに役立っています.それに伴い,福祉情報機器関連の研究開発が盛んになり,電子情報通信学会,ヒューマンインタフェース学会ほか多くの学会,研究会はその研究開発,発表,普及の場として活発な活動を続けております.ここで,真に役に立つ機器,システムの研究開発には,当事者ユーザーである障害のある人の研究開発への参加が不可欠です.しかし障害のある人の学会や研究会への参加は非常に少ないのが現状です.その要因のひとつに,学会や研究会での情報保障が充分でないことがあると思われます.参加したくても,手話通訳がない,資料が点字化されていない,などのバリアがあります.

電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)は上記の課題を認識し,2004年4月,各種の情報保障の試行を行なうために,HCG所属の4研究会からのメンバーによる「情報保障WG(英文名称Academic Meeting Accessibility Initiative: AMAI)」を設立いたしました.

情報保障WGでは,HCGに所属する福祉情報工学研究会(Welfare Information Technology:WIT)を中心として,WITの研究会,WITが参加するHCGシンポジウム,情報科学技術フォーラム(FIT)等で,「従来の情報保障方式の洗い出し,それらを導入した場合の経費の試算,および期待される効果の検証」および「新しい情報補償システム開発の可能性の調査」を行ないました.本マニュアルは,その成果をまとめ,主催者側が活用できるものとして作成したもので,聴覚障害関連および視覚障害関連の情報保障の手配について具体的方法等を示すものです.さらに新しい技術による情報保障を利用する場合についても補足的に述べています.現時点ではまだ充分な情報が網羅されてはおりませんが,今後,多くの研究会でお使いいただき,得られたノウハウ,ご意見,改善案などをお寄せいただき,さらに改良を重ねていくこととしたいと考えております.

なお,情報保障WGは2005年3月をもって終了しましたが,本マニュアルの改良・維持については,WITで担当してまいります.本マニュアルについてのお問い合わせ,ご意見等は下記へお願いいたします.

2006年3月1日
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループ
情報保障WGリーダー(福祉情報工学研究会顧問)
岡本 明(筑波技術大学)

バージョン1.1について

2006年の公開以降,社会も技術も大きく変化してきています.この変化に対応するため,マニュアルに追加と若干の修正を行いました.「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)では,学会や研究会といった事業者に対して障害のある人に「合理的配慮」を提供するように求めています.この合理的配慮を学会や研究会で提供するために利用していただきたいと思います.まだまだ不足の部分があると思いますので,学会・研究会の運営で得られたノウハウ,ご意見や改善案などをお寄せいただけないでしょうか.それに基づき,改良を続けて行きたいと思います.

2022年7月27日
電子情報通信学会福祉情報工学研究会(WIT)
論文作成・発表アクセシビリティガイドライン改訂WG

1.聴覚障害関連の情報保障

聴覚障害のある方への情報保障の方法には,手話通訳と文字通訳(手書きあるいはPC文字通訳)がある.

1.1 手配手順

1)研究会開催日程と場所が決まった時点

  1. 開催地に近い場所で情報保障を依頼できる団体等を探す(手話通訳派遣団体,PC文字通訳ができる団体については添付資料1「手話通訳・文字通訳依頼先」参照).
    • 見つからない場合には,開催地の市役所,県庁,福祉協議会,聴覚障害者関連団体などに当たる.
    • 情報保障を依頼できる団体が開催地近くにない場合には,他県や遠方からの派遣を検討する.状況によっては遠隔手話通訳や音声認識字幕を検討する.
  2. 開催日から逆算して何日前までに申込めばよいのか期限を聞く.
  3. 可能ならば,開催会場にて文字通訳者と手話通訳者の立ち位置をシミュレーションしておく.

2)研究会の募集あるいは会告アナウンスの時点

  1. 募集に手話通訳あるいは文字通訳の要不要を伺う文面を入れる.
  2. 前述の情報保障団体の申込み期限日までに,手話通訳あるいは文字通訳の要不要を確認するためのアナウンスを行なう.
    • 情報保障を行なう時間帯が決まったらその情報も流す.

3)研究会開催当日まで

  1. 講演者に対する確認・発表者に手話で発表する人がいるか確認する(専門的内容の手話による発表の読み取り通訳がある場合には,予め手話通訳者派遣団体に申し入れておくことが望ましい).
    • パネルディスカッションの場面など複数の方向への情報保障が必要かどうか確認する(パネリストと参加者の顔の向きが違う場合など難しい場面がないか確認する).
  2. 通訳者や筆記者に資料や予稿集原稿などを送付する.
    • 現状では研究会資料は1週間以上前には公開できないが,一日も早く送付できるよう,学会事務局へ依頼する.可能ならば著者から早めにもらい,早めに送付する.
  3. 講演者に,通訳者や筆記者との事前打ち合わせ時間があることを伝える.
    • 当日使用するスライド等の資料も印刷して持ってくるように講演者に伝える.
    • 発表時の心得(通訳者や筆記者への配慮)を伝える(電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループの情報保障WGで作成した「学会論文作成・発表アクセシビリティガイドライン」の「Ⅲ.発表時アクセシビリティガイドライン」参照).

4)研究会当日

1.2 手話通訳,文字通訳費用(2021年10月現在の資料に基づく概算)

手話通訳,文字通訳の料金体系は地域や団体によってまちまちである.とくに文字通訳に関してはボランティアベースのものから高額なものまでがあるので,それぞれの団体に規定額を確認しておく必要がある.おおよそのメド目安は次のようになる.

(1) 手話通訳の料金

約12万円/日(8時間)+プラス交通費

(2) 文字通訳の料金

約14万円/日(8時間)+プラス交通費

(3) 指点字通訳の料金

約5万円/日+プラス交通費

1.3 その他の留意事項

  1. 手話通訳者は最低2名、学会発表や講演など長時間におよぶ通訳で3名以上必要である.
    • 添付資料1「手話通訳費用の例」にもあるように,通訳者は“20分交代”が全国的な基準となっている.
  2. 文字通訳者は最低4名、学会発表は長時間におよぶので多くの場合は5,6名が必要となる.
    • とくに文字通訳者は集めるのが難しい場合がある.人数が集まらず依頼先からキャンセルなどの可能性もあるので依頼する側も注意が必要である.
  3. 機材の用意が必要な場合があるので,依頼先の団体によく確認する.
    • たとえば,PC文字通訳の場合は表示用PC,プロジェクタ,スクリーンなど.

2.視覚障害関連の情報保障

学会,研究会等の資料は従来,印刷物で提供されていたため,視覚障害のある人が論文集,技報から情報を得るのは大変困難であった.現在では,多くの学会においてPDFファイルで資料が提供されるようになり,アクセシブルなPDFであれば,視覚障害のある人も支援機器を用いて音声化,点字化してテキスト部分を読むことができる.テキスト部分を読めるようにするには,PDFファイルは保護をかけないで作成する必要がある.また,「1. 論文作成・発表アクセシビリティガイドライン」にあげた音声化,点字化するときの配慮事項に留意する必要がある.

一方,PDFファイル以外の方法で,先進的な取り組みとして,文書構造にアクセスしやすいHTML,Wordなどの形式や,DAISY,MP3などの音声を活用した形式も海外の一部の学会でみられる.

3.その他

学会発表での聴覚障害関連および視覚障害関連の情報保障の実施例を中心にまとめましたが,情報保障のあり方は障害当事者によって様々であるため,ここに書かれた方法だけに限らず必要な調整や工夫をして,より良い形を模索していく必要があります.障害者差別解消法に関する詳細な情報や,合理的配慮の考え方・具体的な事例は内閣府のサイトも参考にしてください.

内閣府(障害を理由とする差別の解消の推進)
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html

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