会長声明
電子情報通信学会 会長声明第7期科学技術・イノベーション基本計画に向けての提言
2025年6月5日
一般社団法人電子情報通信学会
会長 植松友彦
- 1.はじめに
- 電子情報通信学会は、情報通信に関わる研究者、技術者、学生など2万人超が所属する日本を代表する学術団体である。創立以来100年以上にわたり、イノベーション創出の最前線を担い、大会や専門研究会を通じて、新たな知と技術の交流の場を提供してきた。近年では、高校生から大学3年生までのジュニア会員・学生会員の増加を背景に、次世代への知識継承にも注力している。我が国の持続的成長の実現には、イノベーション力の飛躍的強化、研究力の底上げ、多彩な人材育成が不可欠である。本会は、第7期科学技術・イノベーション基本計画(以下、第7期基本計画と呼ぶ)の策定に向けて、現状分析とこれまでの実績に基づき、以下の提言を行う。
- 2.現状分析
- 世界はかつてないスピードで変化しており、技術革新の急進展に加え、少子高齢化やそれに伴う労働力不足、人口の都市集中、経済格差の拡大、気候変動をはじめとする環境問題など、複雑な社会問題が同時多発的に進行している。また、サイバー攻撃やフェイクニュースといった、技術進展に伴う新たなリスクも健在化している。これらの課題に対応するには、制度面の整備に加え、社会全体に必要なスキルや知識を育む教育、研究力の強化、さらには従来の枠組みを超えた発想によるイノベーション力の抜本的な向上が急務である。
- 3.提言
- このような現状を踏まえ、以下の4つの柱に基づき、国に対して次の施策を強く要請する。
- (1)研究力の強化・人材育成
- 理工系分野における優秀な人材の確保には、中高生の段階から科学技術への関心を喚起し、科学教室や見学会など実体験に基づく学びの機会を拡充することが不可欠である。また、研究者や開発者に対する「再教育プログラム」や「資格制度」の推進を通じ、全世代をわたる研究力基盤の強化が求められる。
- (2)イノベーション力の向上
- 我が国が世界をリードするには、強みを持つ分野における産官学の戦略的な連携による研究開発と、分野横断的な知の融合によるイノベーションの創出が不可欠である。あわせて、知的財産戦略や国際標準化を見据えた技術の国際展開を積極的に促進すべきである。
- (3)サイエンスとビジネスの近接化
- サイエンスの初期段階にリスクを取ってビジネスが参入し、創出された成果を直ちに収益化して再投資するという「サイエンスとビジネスの近接化」*1に基づく新たな研究開発プロセスの構築が急務である。その実現には、産学連携のインフラ整備と、サイエンスを原動力としたグローバルビジネス競争への対応力強化が求められる。
- (4)新たなグローバリズムの推進
- 英語表現への統一による知の交流ではなく、多様性を尊重しつつも研究者が言語の壁によって隔てられることなく自由に思考を表現し、知が活発に交流する場を築くことが重要である。我が国は、アジア地域から各国語での知の交流を維持したグローバルな「知の共同体」の形成を積極的に推進すべきである。
- 4.提言を支える活動
- (1)本会のこれまでの実績
- 本会は、言語・専門・年齢の壁を超えた広範な知識の融合と深化を通じて、持続的なイノベーションの創出と、研究力の強化・人材育成を目的とした以下のような取り組みを展開している。
- ①ジュニア会員*2
- 未来のリーダー育成を目的に、小中高校生対象のジュニア会員制度を導入した。研究会・見学会・子供の科学教室などを通じて、若年層の探究心と学習意欲を支援している。
- ②リカレント教育*3
- 会員や広く社会の技術者が常に最先端の知識や技術を学べる教育プログラムとして、オンデマンド形式のIEICE先端セミナーと日本工学会ECEプログラム認定の電気・電子系高度技術者育成プログラムを提供している。
- ③デジタルアーカイブ*4
- 電子・情報・通信分野を広く学べる機会として、第一人者講演、最新技術チュートリアル、論文講座、ジュニア向けWebinarなど、多様なビデオアーカイブを提供している。
- ④多言語翻訳*5
- 英文論文誌の多言語化(16言語)のトライアルを通じ、学術情報の国際発信力強化と、言語の壁を超えた知識共有・学術交流を推進している。
- ⑤企業イニシアティブ活動*6
- 企業がサイエンスの初期段階に関与し、イノベーションの芽を見出しビジネスへとつなげる試みを、4つの分科会を通じて展開している。
- ⑥情報通信エンジニアリング*7
- 学会と企業が連携して社会課題の解決に取り組む新たなモデルとして、本年6月に「情報通信エンジニアリング部門」を設立し、社会生活を支える情報通信インフラの総合的な運営―すなわち設計、施工、運用、維持管理―の課題と解決策について議論を開始している。本部門での活動を通じ社会課題解決に向けた実効性のある取り組みを推進していく。
- (2)ベネフィットの計算に学会という視点
- 将来の破壊的なイノベーションの萌芽となる知識は、学会という場で発表・議論・発展し、人類の知として集積されていく。今後、我が国の科学技術政策においてエビデンスに基づく政策立案(EBPM : Evidence-based Policy Making)を推進するにあたり、学会が知の創出に果たす役割を適切に評価し、定量的に可視化する仕組みの構築が求められる。
- 5.おわりに
- 第7期科学技術・イノベーション基本計画は、日本の未来を切り拓く羅針盤である。本会は現場で培った知見とネットワークを活かし、我が国の科学技術の発展とイノベーション力の向上、さらには次世代の研究者・技術者の育成を通じて、科学技術による社会課題の解決と新たな価値創造に貢献していく。
*1産業構造審議会イノベーション小委員会「科学とビジネスの近接化」時代のイノベーション政策
*2電子情報通信学会 ジュニア会員
*3電子情報通信学会 リカレント教育
*4電子情報通信学会 デジタルアーカイブ
*5電子情報通信学会 多言語翻訳
*6電子情報通信学会 企業イニシアティブ活動
*7電子情報通信学会 情報通信エンジニアリング