第6章 インターネットの仕組みと使い方



6.5 パソコン通信とインターネットの違い

 図6-8を見てください。「インターネット」というのは一つのネットワークではなく、たくさんのネットワークが接続されているのです。一つ一つのネットワークは、従来は、大学や研究所、さらにそれらの相互間の接続を目的とした非営利機関(WIDEなど)の、アカデミックな組織がすべてでした。ここ数年の間に、インターネットの通信を提供する商用のプロバイダ(KCOMインターネットサービスなど)が登場してきました。

図6-8 インターネットはたくさんの個別ネットワークがつながったネットワーク

 さらに、過去1年間の特徴的な動向として、各プロバイダが勝手な場所で相互接続すると管理面等でややこしくなるので、国内のプロバイダを地域的に定めた特定の場所で集中的に相互接続する試みも始められています。これが、KDDとNTTの大手町ビル内に設置されているNSPIXP(Network Service Provider Internet eXchange Point)であり、現在は、WIDEインターネットの1プロジェクトとして商用インターネットをいくつか相互接続して検討されています。

 さて、インターネットは、パソコン通信とどう違うのでしょうか? パソコン通信でも、図6-9のように、たくさんのパソコン通信のネットワークがつながっています。でも、パソコン通信では、そのアクセスの方法やサービスは、プロバイダに依存します。例えば、パソコン通信Aのユーザが、パソコン通信Bへ乗り換えた場合、電子メール、BBSやアクセス用のソフトの設定をパソコン通信Bのものに変えなければならない場合があります。パソコン通信Bに移ったら、今まで慣れ親しんだソフト(例えばNIFTY-Serveの場合は専用の通信ソフトNIFTY Manager)の知識を全部捨てて、パソコン通信Bで新たにゼロから勉強し直すこともあるのです。これは大変ですね。もっとも、パソコン通信Aからインターネットに移った場合も、同様です。今まで慣れ親しんだソフトの知識は忘れてください。使うソフトの設定、アクセス電話番号とも、まったく異なります。

図6-9 パソコン通信では共通の技術とサービスが使えない

 でも、インターネットにはパソコン通信にはない一大特徴があります。インターネットの場合は、アクセスソフトもメール、ニュース(インターネット版BBSです)、WWW等のソフトも皆、全世界で共通なのです。ですから、プロバイダAのユーザがプロバイダBへ乗り換えた場合、アクセス用のIDや電話番号を変更するだけで今までと同じように使用できます。このため、事業者間ローミングといって、あるプロバイダに加入したら、そのプロバイダとローミング提携をしている他のプロバイダにもアクセスできるようなサービスがあります。これは、ソフトを変えずに済むのでできるサービスです。例えば、日本のプロバイダに加入すれば、ニューヨークに出張したとき、いつも使っているパソコンをもっていけば、現地のプロバイダをそのまま利用できるのです。便利でしょう?

 もう少し、インターネットとパソコン通信の違いを技術的な面からみてみましょう。原則は以下のように整理できるでしょう。

 パソコン通信では、

  1. ネット内のホストが電子掲示板や電子メールの全てを実現
  2. クライアント(端末)ではデータ処理機能はないのが前提
  3. ホストとクライアント(端末)間の通信手順は無手順
 インターネットでは、

  1. ネット内のホストは共通のフォーマットで収容したデータをもつ「サーバ」
  2. それをどう料理するか、特にユーザインタフェースは全てクライアント(端末)の処理
  3. ホストとクライアント(端末)間の通信はTCP/IPで標準化している
 パソコン通信AからBへ移動した場合を考えましょう、例えば電子掲示板サービスにアクセス(使用)した場合、見え方や使い方、キーボードの操作など、つまりユーザインタフェースは全く異なります。つまり、「電子掲示板」というリソースにアクセスする方法が、パソコン通信AとBでは全く異なってしまうのです。

 インターネットの場合はどうでしょうか、電子掲示板のように標準的なサービスでは、(1)データ格納形式は全て統一されています。(3)データへのアクセス手順も共通化しています。(2)クライアントソフトは種々ありどれでも好きなものを使ってかまいません。このため、プロバイダを変更しても、今までと同じクライアントソフトが使えて、使い勝手は全く従来どおりでいいわけです。インターネットは、このようなクライアント・サーバモデルでサービスが実現された最初のネットワークでした。

 もちろん、パソコン通信でもユーザ端末に機能をもたせて種々のサービスを実現した「一見インターネット風」のものもあります。しかし、そのようなことを試みると、ホストとクライアント間で行なわれるデータのフォーマットを規定することになり、そのような独自のフォーマットでは他のパソコン通信では通用しなくなってしまいます。

 電子メールでも、パソコン通信のアドレスは、一般にそのプロバイダに固有のアドレスです。インターネットのアドレスは、電話番号のように世界共通です。名刺にインターネットのアドレスを書けば、もらった相手は世界のどこからでも、あなたにメールを出せるのです。あなたが、どのネットワークに接続されているか、どのインターネットプロバイダに接続されているか、をまったく気にしないでいいのです。

 もっとも、昨今のパソコン通信は、インターネットとの間にゲートウェイを作って電子メールのための相互通信ができるようにしています。例えば、NIFTY-Serveの場合も、インターネットから見たときの電子メールアドレスをユーザはもっています。インターネット上の膨大なユーザの存在が、パソコン通信会社にこのようなゲートウェイを作らせたのです。また、今までのように、パソコン通信会社が、接続相手のパソコン通信会社ごとに相互接続用のゲートウェイを作るのでは手間とコストがかさみますが、すべてのパソコン通信会社がインターネットとのゲートウェイを作りさえすれば、相互通信できることも見逃せません。インターネットにより、パソコン通信間の電子メールの相互接続が完成したのです。

図6-10 パソコン通信はインターネット経由で電子メールの相互接続が完成


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