第6章 インターネットの仕組みと使い方



6.1 インターネットの仕組み

 ちょっと公式的な言い方をしましょう。インターネットとは、一言でいうと、

  1. 通信キャリアの提供するほとんどすべての通信メディアの上に、
  2. 単一のネットワークプロトコル(IPプロトコル)を用いて、
  3. 全世界のLANを接続し、
  4. 多数のアプリケーションサービスの提供を試みる、
  5. 複数事業体により分散管理された、
  6. 米国ARPANETに起源をもつ、
  7. (データ)通信網
 のことです。ここで「(データ)」としたのは、WWWのようにデータだけでなく音声、画像といった情報を転送するようになったため、そろそろ「データ」を省いたほうがよさそうだからです。

 図6-1に示したインターネットには、パソコン通信のようなファイルサーバや掲示板を提供するホストとそれにアクセスする端末といった区別はありません。これは、インターネットが当初UNIXワークステーションをベースに構成されたことにも起因する性格であり、すべて同一の通信機能をもったコンピュータが相互接続されていることが前提とされています。このため、インターネットに接続されたすべてのコンピュータ機器は、ホストにも端末にもなれるのです。等しい機能の端末が接続されているという意味では、電話交換網ともよく似ています。このため、インターネット上では、ネットワーク・プロバイダが提供しているWWWサーバやFTPサーバの機能をあなたがあなたのコンピュータを使って提供することができます。

図6-1 インターネットの構造は金太郎飴

(1)端末固有のIPアドレス

 インターネットで使われているTCP(Transmission Control Protocol)/IP(Internet Protocol)プロトコルでは、IPアドレスという電話網における電話番号に対応するアドレスを使って端末間で相互通信します。このため、各端末には、IPアドレスが割りあてられています。

 IPアドレスとは、おおまかにいうと、0〜255の範囲の4個の数字からなる番号です。例えば、KCOMインターネットサービスのネームサーバのIPアドレスは203.141.160.82、KDD研究所のFTPサーバは192.26.91.3といった具合です。電話番号との違いは、端末の地理上の位置に無関係に「クラス」という単位で、NIC(Network Information Center)という団体からユーザに渡されている点です。クラスAのアドレスはAAA.XXX.XXX.XXX、クラスBのアドレスはBBB.BBB.XXX.XXX、クラスCのアドレスはCCC.CCC.CCC.XXXのようになり、ユーザはXXXの部分を勝手に使用できるわけです。AAA、BBB、CCCは、NICが付与するものです。

 電話網の場合、例えば、KCOMインターネットサービスの東京アクセスポイントの電話番号03-5201-3361は、正式には、国番号(81)、市外局番(3)、市内局番(5201)、加入者番号(3361)で、+81 3 5201 3361と表されます。市外局番や市内局番は、電話局のある市や町の位置に対応するため、電話番号を見るだけで、どこの国のどの町の電話かわかるようになっています。

 ところが、IPアドレスは地理上の位置には無関係にユーザの規模(クラス)だけで付与されています。このため、どのユーザがどのアドレスに対応するのか判断するのは、IPアドレスからは不可能です。

図6-2 電話番号、IPアドレスとドメイン名

 これは、インターネットのように管理が分散されているネットワークの場合、非常に困ります。そこで、電話番号に類似のアドレスと管理方法が考案されました。これが、ドメイン名で、KCOMインターネットサービスのネームサーバmars.kcom.or.jpの例を、図6-2に示します。すべて英数字からなること、電話と逆に左の名前ほど端末を細かに規定している点が異なります。

 なお、企業ネットワーク内のように閉じたネットワーク内では世界にユニークなIPアドレスではなく、企業ネットワーク内のみのアドレスを割り振ることが可能です。これをプライベートアドレスと呼び、以下の空間内で使用可能です。

  10.0.0.0から10.255.255.255.255
  172.16.0.0から172.31.255.255
  192.168.0.0から192.168.255.255
プライベートアドレスとグローバルなIPアドレスとの変換は、ゲートウェイ(6.5節および11.2節を参照)で行います。

(2)ドメイン名

 属性には、ac(学術研究期間)、co(企業)、go(政府機関)、or(その他の組織)、ad(ネットワーク・プロジェクト)を入れるのが、日本(jp)の伝統になっています。このように、jpの左はjp内の管理者が勝手に決めることができます。同様に、or.jpの左の名前(サブドメイン、あるいは下位のドメインといいます)はor.jp内の管理者が、jpの管理者等の意向にかかわりなく、勝手に決めることができます。このため、kcom.or.jpの左のホスト名を何にするかは、kcom.or.jp内の管理者の独断で決められます。

 各々のjp、or.jp、kcom.or.jpといったドメインごとに管理者を決めるのはあまり柔軟でありません。そこで、図6-3のように、jp内のac.jp、co.jp、go.jp、or.jp、ad.jpと各組織名までを、JPNICという団体で登録を管理しています。その下位のネットワークについては、当のネットワークに任されます。例えば、kcom.or.jp内の管理を、KCOMインターネットサービスが行うようになっています。この管理範囲をゾーンと呼びます。

図6-3 ネームサーバとドメインの管理

 各ゾーンにはネーム・サーバと呼ばれるプログラムがあって、ドメイン名をIPアドレスに対応付けています。KCOMインターネットサービスのネーム・サーバは、以下のようになっています。

 なお、JPNIC関連のゾーンのネーム・サーバは、jp-gate.wide.ad.jp(IPアドレスは133.4.11.1)です。それでは、jpのような国名識別記号で表される部分の管理は誰が行っているのでしょうか? これは、インターネット全体のNICが行っています。

 それでは、どうやってドメイン名からIPアドレスがわかるのでしょうか。例えば、図6-4のように、KCOMインターネットサービスの端末tokyo32.kcom.or.jp(IPアドレス203.141.162.32)が、ftp.lab.kdd.co.jp(IPアドレス192.26.91.3)にアクセスしようとしたと仮定します。

 まず、自分のドメインのネーム・サーバであるmars.kcom.or.jpに、IPアドレスの問合せをします。このネーム・サーバは、過去の履歴(キャッシュ情報等)から、ftp.lab.kdd.co.jpを一番よく知っていそうなネーム・サーバに問い合わせます。例えば、それが、JPNICが管理しているjp-gate.wide.ad.jpだったとします。すると、jp-gate.wide.ad.jpは、ftp.lab.kdd.co.jpのkdd.co.jp以下の管理をしているネーム・サーバkddfuji.lab.kdd.co.jp(IPアドレス192.26.91.15)に問い合わせろと、mars.kcom.or.jpに教えるでしょう。

 このため、mars.kcom.or.jpは、再度kddfuji.lab.kdd.co.jpに問い合わせます。この場合kdd.co.jpもlab.kdd.co.jpも同一ゾーンとして管理されているため、kddfuji.lab.kdd.co.jpはftp.lab.kdd.co.jpのIPアドレスを知っていて、答えを返してくれます。mars.kcom.or.jpは、このIPアドレス情報をtokyo32.kcom.or.jpに伝えます。このようにして、tokyo32.kcom.or.jpは、全世界の端末のドメイン名からIPアドレスを得ることができます。

図6-4 ネームサーバの動作原理


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