第1章 インターネットを始めましょう



 最近では、インターネットのアクセスにISDNを使う方が多くなっていますが、モデムよりも若干複雑なこともあって、「インターネットに接続できない」というトラブルをよく聞きます。ここでは、ISDNのやさしい原理、TAの買い方、接続方法を解説します。


1.4 ISDNのメリットとTAの選び方つなぎ方

1.4.1 10分で理解するISDNの原理

(1)ISDNは電話線をそのまま使う

 電話からISDNに変更するときに、NTTからの電話線を敷設しなおすことはしません。アナログの電話がつながっている電話線(2本の線です)をそのまま使います。ただし、ディジタルの信号を伝送するための装置を新たに設置します。この装置をDSU(Digital Service Unit)といいます(図1-14)。

 電話からISDNへ変更しても、あなたの電話番号は変わりません。DSUの設置工事は自分で行ってもいいですが、NTTに依頼する方が無難です。工事の担当者はDSUを設置し、電話線をISDNで使えるようにちょっと細工し(電話線についているコンデンサを外したりします)、NTTとの間でディジタルの信号がきちんと通っているか試験をし、アナログ電話機とTAで電話が使えるか確認します。工事は1時間位で終了します。

 ところでDSUには100Vの電源が必要ありません。これはDSUの電力がNTTから供給されるためで、停電や災害時にも電話が使えるようになっています。

図1-14 ISDNにするにはDSUとTAという装置が必要

(2)電話機を使うにはTAが必要

 DSUに直接つなげることができる電話機(ディジタル電話機といいます)も売られていますが、かなり高価です。それに機種も少ないですし、留守番電話とか短縮ダイアルとかの機能は、アナログの電話機が便利です。今までのアナログ電話機をISDNで使うには、DSUにTA(Terminal Adapter)というものを接続し、TAに電話機を接続します(図1-14)。

 実はパソコンで64kbpsの通信を行うにもTAが必要です。つまり、ISDNではモデムの替わりにTAを使ってインターネットプロバイダにアクセスします。TAはパソコン用の端子とアナログ電話機用の端子(コンセント)をもっています。ISDNでは同時に2つの通信が可能です。つまり、パソコンでインターネットにアクセス中に、電話を受けられる、電話をかけられるわけです。

 さて、DSUはNTTから電力が供給されましたがTAはどうでしょうか。TAの機種によっては、電池を内蔵していて停電時でもアナログ電話機に電力を供給するものがあります。そのようなTAを購入すれば、災害時でも電話は使えます。そして、電池で動くパソコンがあれば、災害時でもインターネットが使えます。

(3)2階の部屋にパソコンがある

 パソコンがDSUのある部屋とは別の部屋(例えば2階)にある場合、DSUの先にTAを2個以上接続することができます(図1-15)。このとき、DSUとTAの間のケーブルは電話線(2線)ではなく、「ISDN宅内バスあるいはSバス」といって4本の線になります。そして、2階にはTAを接続するISDNコンセントがつきますが、このコンセントは電話用(2本の線を使う)とは違ってISDN専用のコンセント(4本の線を使う)となります。

 現在1階と2階のアナログ電話に使っているケーブルが2線ではなく4線ならば、ISDN宅内バスにも使えます。詳しくはその電話線を敷設した業者(建築業者など)に聞けばよいでしょう。NTTでは、宅内バスに使えるケーブルがある場合は、2階へのISDNコンセントの設置とDSUとコンセント間の試験を行ってくれます。

図1-15 1階で電話、2階でインターネット

(4)ISDNを申し込む

 ISDNへの申し込みは、NTT(116番など)へ電話します。NTTから申し込み用紙が送られてきます。必要事項を記入し、申し込みを行い工事の日を決めます。申し込み用紙には、DSUやTAをNTTから買うか自分で用意するか、自分で用意する場合はメーカと機種名、などを記入します。自分で用意する場合、工事の日までに、DSUとTAを購入しておきます。

 表1-2に電話からISDNへ切り替える場合の費用をまとめてみました。電話を2回線にするよりも、ISDNにする方が月額料金は安いのです。また、64kbpsの通信料金は、電話とほとんど同じです。

表1-2 電話からISDNへの切り替え費用の例


1.4.2 どんなTAを買ったらいいか

(1)単独形TAとDSU内蔵形TAがある

 従来はDSUはNTTから購入し、TAはパソコンショップで購入するのが普通でした。最近ではDSU内蔵形のTAも市販されています。DSU内蔵TAは、場所をとらないなどのメリットがありますが、将来新しくて高機能のTAが出てきたときに、TAだけ取り替えることができません。また、DSU内蔵TAの一部機種では、DSUから宅内バスを出して他のTAを接続する(図1-15参照)ことができないものがありますので、注意しましょう。

(2)通信速度に注意

 ISDNの基本は64kbpsが2本ですが、実際にインターネットで使われる速度は、この64kbpsを使ったいくつかの速度になります(図1-16)。

 TAによって実現できる速度が違います。また、プロバイダによってサポートする通信速度が違います。プロバイダの提供する速度のメニューを見て、そのメニューを実現しているTAを購入する必要があります。なお、KCOMでは、64kbps同期通信と38.4kbps非同期通信、さらに128kbpsマルチリンクPPP通信を提供しています。どの速度で通信するかによって、第2章あるいは第3章で説明するパソコンソフトの設定が少し違いますので、あなたが使う通信速度を確認しておいてください。

図1-16 ISDNは64kbpsだけではない

 64kbps同期通信の場合、TAには「同期・非同期変換」という機能が必要です。同期あるいは非同期というのはデータ伝送のモードのことです。パソコンのモデム/TA側の入出力は「非同期通信」モードであるのに対して、ISDNの64kbpsは「同期通信」モードです。「同期・非同期変換」とは、パソコンとTA間の「非同期通信」と、TAとプロバイダ(側のTA)間の「同期通信」との間の変換を行うものです。初期のTAにはこの「同期・非同期変換」がないものもありますので、購入に際しては注意しましょう。

 38.4kbpsや57.6kbpsは、ISDNの64kbps同期通信モードの範囲内で非同期通信を行うモードで、「同期・非同期変換」は不要です。また、128kbpsマルチリンクPPP通信は、64kbpsを2回線使って通信を行うモードで、今後はこのモードを提供するプロバイダが増えることが予想されます。なお、128kbpsマルチリンクPPP通信を使うと、とうぜん通信料金は2倍になりますし、インターネット接続中はアナログ電話機は使えません。

(3)Windows用とMacintosh用

 TAでもモデムと同じく、Windows用あるいはMacintosh用と表示されているものがあります。TA自体はまったく同じですが、添付されているケーブル(RS-232Cケーブルといいます)とソフトが異なります。Windows95の場合は、メーカが提供するモデム設定用ソフトが必要な場合があります。自分のパソコン用のTAを購入しましょう。

(4)ノートパソコンにはカードTAがお勧め

 ノートパソコンにカードスロット(PCMCIA規格といいます)がついている場合は、外付けのTAよりもカードTAをお勧めします。場所をとらない、軽くてもち運べる、というメリットの他に、実はインターネット接続のトラブルが少ないのです。外付けのTAでは、TAとパソコンの間をケーブルで接続しデータの送受を行いますが、そこでのインタフェースの設定でトラブルが起こることがあります。カードTAはパソコンに内蔵しますのでインタフェースがよくなり、トラブルの発生確率が少なくなります。

(5)プロバイダに聞く

 プロバイダを選んだら、「接続の確認がとれているTA、あるいは推奨TAは」と聞いてみるのもいいです。プロバイダは接続確認したTA、あるいは推奨TAのリストをもっています。「そのような情報はありません」というプロバイダは止めましょう。モデムに比べて、TAは接続のトラブルもよく聞きます。プロバイダに推奨TAを確認することをお勧めします。


1.4.3 TAとパソコンの接続

 TAとDSUの接続(8つのミゾがあって4線あるいは8線のISDN宅内ケーブルを使います)、それとTAへのアナログ電話機の接続(6つあるいは4つのミゾがあって2線あるいは4線のアナログ電話ケーブルを使います)は、NTTの工事のときに終わっていると思います。ISDNケーブルのモジュラーは、アナログ電話ケーブルのモジュラーよりも少し大きめです。

 TAとパソコンの接続は、モデムの場合と基本的に同じです。TAの添付ケーブル(規格の名前をとってRS-232Cケーブルと呼ばれます)の片方をTAに、もう一方をパソコンにつなぎます。パソコン側のTAをつなぐ端子は、モデムをつなぐ端子と同じです(1.3.2項を参考にしてください)。つまり、パソコンからは、モデムがつながっているかTAがつながっているかは区別がつきません。

 以上でパソコン・モデム・電話線の接続は終了で、これでほとんどの場合は問題ありません。以下では、さまざまな状況・トラブルでの対応を述べます。

  1. 電話とISDNの両方でインターネットにアクセス : ほとんどのTAがアナログ電話機用の端子を2個もっています。そのようなTAでは、電話機を2台、パソコンを一台接続できます。とうぜん電話機2台ではなく、電話機1台とモデムを1台接続することも可能です。こうすると、パソコンからは、TAのディジタル端子と、TAのアナログに接続されたモデムと、2つの接続が可能になります(図1-18)。こうすると、インターネットプロバイダのアクセスポイントのアナログとディジタルの両方にアクセスできますので、片方が話し中のときにもう片方へアクセスするようなことができます。既にモデムをもっていて、これからISDNにする場合も、モデムが無駄にならずにすみます。モデムとTAを切り替えるのに、ケーブルをつなぎ替えるのがめんどうな方は、スイッチャーを購入すればよいでしょう。

  2. ISDNの料金は通信料金という : ISDNに変更した後、NTTから請求書が届くと、「通話料金」と「通信料金」の2つがあることに気づきます。「通話料金」は電話(モデムも含みます)で使った分の料金、「通信料金」が64kbps(38.4, 57.6, 128も含みます)で使った分の料金です。

  3. キャッチホンは使えない : アナログの電話機はTAに接続されますので、受話器のフックをちょんとたたくことができません。したがって、キャッチホンは使えなくなります。ISDNではキャッチホンの代わりに「コールウェイティング」というサービスが提供されますが、これはディジタル電話機でのみ利用可能です。一番かんたんな解決法は、電話機が2台つなげるのですから、安くて小さい電話機をもう一台つけるか、あるいは「コールウェイティング」のできるTAを購入しましょう。

  4. ISDNはつながるのが速い : ISDNはデータだけではなく、ダイアル信号(接続先電話番号など)もディジタルで処理しますので、接続時間が速くなります。TAに接続されたアナログ電話機から発信しても、従来よりも速くなりますが、さらに、電話番号を押したあとで#マークを押してみてください。TAによっては、#マークが来ると電話番号が終了したものとみなす機能が入っているものがあります。その場合は、接続時間がさらに速くなります。そのような機能が入っていない場合は、プッシュホンのボタンが数秒間押されないのを検出して、番号が終了したものとみなしているので、その数秒間分だけ接続が遅いのです。

図1-18 TAとモデムの両方を使う


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