基調講演


下記のご講演者による基調講演を予定しております(敬称略、五十音順)。


池田 思朗(統計数理研究所)

演題 Event Horizon Telescope Collaboration によるブラックホールシャドウ撮像とデータ科学
要旨 Event Horizon Telescope (EHT) Collaboration は300名ほどの研究者からなる天文学の国際プロジェクトである.2017 年4 月に世界8箇所の電波望遠鏡を用いた同時観測を行い,解析に2年をかけ,2019年4月10日,楕円銀河M87の中心にある超巨大質量ブラックホールの影, ブラックホールシャドウの画像を発表した.リング状の画像の黒い穴の直径はおよそ1000億km,ブラックホールの質量は太陽の約65 億倍と巨大だ が,地球から5500万光年ほど離れているため,地球からの見え方はとても小さく,画像を得るためには新たな画像化の方法が必要であった.EHT Collaborationではスパースモデリングなどのデータ科学の方法を導入して画像化を実現した.一方,こうして得た画像が天文学,物理学の検証に耐えられるかは画像化とは別に議論する必要がある.ここでも興味深いデータ科学的な議論が生かされた. 本講演では,EHTの成果に画像を作るためにデータ科学がどのように貢献したのかを示す.



草川 恵太(日本電信電話株式会社)

演題 耐量子計算機暗号の解説 ~符号暗号を中心として~
要旨 将来、大規模な量子計算機が実現する可能性が大きくなっている。大規模量子計 算機上でShorのアルゴリズムを用いると、素因数分解問題や離散対数問題が(多 項式時間で)解けてしまうことが知られている。そのため、大規模量子計算機が 実現すると、現在広く使われている公開鍵暗号技術が破られてしまうことになる。 本講演では耐量子計算機暗号と呼ばれる、量子計算機を用いても難しいと予想さ れている問題に基づく公開鍵暗号技術について解説を行う。特に符号問題に基づ く耐量子計算機暗号について解説したい。2016年から、米国で耐量子計算機暗号 技術の標準化が行われているため、その状況についても解説する。



藤原 融(大阪大学)

演題 線形ブロック符号の自己同型群と重み分布計算
要旨 線形符号の自己同型群とは,符号をそれ自身に写す記号位置置換の集合(群)である. MacWilliamsとSloaneの符号理論の教科書では,第8章5節がこれに充てられている. 近年,2021 IEEE IT Paper Award 受賞のKudekarらの論文における自己同型群の2重推移性を利用した研究などにみられるように,自己同型群は符号理論において重要な役割を果たしている. 一方,線形符号の重み分布は,各符号語のハミング重みの分布である.重み分布は符号の構造や性能を知る上で重要であり,長年研究されているが,依然として挑戦的な問題である. 自己同型群の推移性は拡大符号の重み分布と元の符号の重み分布の関係式を求めるのに利用されている. 本講演では,線形符号を対象として自己同型群やその性質について紹介し,BCH符号やReed-Muller符号などネスト構造をもつ符号の重み分布の計算などについて述べる.また, 自己同型群の視点からのReed-Muller符号のトレリス構造についても言及したい.



森井 昌克(神戸大学)

演題 情報理論から広がるサイバー社会を支える各種応用技術
要旨 最初の信学会研究会での発表タイトルは「平面ハフマ ン符号の定義とその性質」(1982年)であり、SITAでの最初の 発表は第7回、1984年鬼怒川でのシンポジウム、内容は有限体( finite fields)の基礎理論であったであろうか。その後、学生 時代は、信号処理と符号理論の関係、さらには暗号理論および その実装と、情報理論の周辺を眺めながら、学位取得後、IoT機 器、アプリ開発、および暗号やマルウェア解析を中心としたサイ バーセキュリティの研究をおこなっている。素数探索を目的と した計算機構成と寄り道も行いながらも、意識として、研究の 中心は符号理論であり、1990年初頭から最良符号構成に取り組み、 最近もMarkus Grassl(Univ. of Gdansk, Poland)が管理している 最良符号表(Code Tables: Bounds on the parameters of various types of codes)での2元誤り訂正符号のパラメータを多数更新 している。このような古典的な符号理論の知識がサイバー社会 での基盤技術に貢献している事例を中心に解説する。