■4. 設計コンテストから実際の衛星作りへ

 設計コンテストから次のステップとして,実際の衛星作りへの橋渡しを果たしたのが「大学宇宙システムシンポジウム(USSS:University Space Systems Symposium)」という会議である.これは,日米の大学生が一堂に会して,日米共同の衛星プロジェクトを計画し,1年後にその成果を報告し合うというユニークな会議で,1998年より毎年11月にハワイで開かれてきた.この会議の中で,次に述べるCanSat,CubeSatなどの実プロジェクトが生まれた.

 CanSat計画はStanford大学Twiggs教授により1998年のUSSSで提案された.各大学が350 mlのジュース缶の大きさの衛星を作り,それを一挙に軌道上に打ち上げるのが当初の計画であったが,軌道上への打上げ手段の確保が難しいことから,アマチュアロケットグループの提供する固体ロケットを使って,高度12,000ftまで打ち上げる計画(ARLISS:A Rocket Launch for Inter-national Student Satellite)へと変更になり,1999年9月11日,アメリカ・ネバダ州のBlack Rock砂漠での打上げが行われた.日本からは東大,東工大,アメリカからはアリゾナ州立大等が参加し,各大学が1機のロケットに3個のCanSatを搭載して実験を行った.CanSat(図2)は12,000ftの高度でロケットから放出されると,パラシュートを開き,地面に到達するまでの約15〜20分の間に,衛星・地上局間の通信実験,小型衛星バスの実証実験などを行い,軌道上衛星に向けての大きな成果を得ることができた(3).その後,毎年行われ,2001年には日本より5大学が参加した(4)

 


図2 2000年に実験された東大CanSat  2機のCanSatがGPSの信号を受信し,自機の位置をリアルタイムで地上局に伝送するほか,GPSデータを衛星間で交換することによりDGPS(差分GPS)航法の実験を行った.

 

 

 我々の研究室では,2年間のCanSat計画で,超小型衛星バスシステムの設計・製作・試験技術を獲得してきた.特に,マイクロプロセッサを用いた搭載計算機,EEPROMによるオンボードストレージ,TNC(Termi-nal Node Controller)と超小型送信・受信機,ジャイロ,加速度計,温度計等のセンサ,モータ等のアクチュエータ,太陽電池とバッテリー等の要素技術については,ある程度の実証ができたと考えている.また,サブオービタルといえども打上げ時のランダム振動,静的荷重は実際のロケットに匹敵するものであり,その環境に耐えて動作したことは,大きな自信となった.また,そのための環境試験として行った振動試験では,幾つかの不具合が見つかって補修ができ,事前の試験の有効性と試験方法に関する多くの知見を得ることができた.

 CanSat計画は教育目的を第一に掲げた国際協力プロジェクトである.上記の技術面での習熟のみならず,学生に対する工学教育面での成果も予想以上に大きかったといえる.中でも,現実の環境下で動作するものを作る難しさ,特に,いいかげんな設計・製作・試験は必ず後になってしっぺ返しを食うことを経験した.小さなプロジェクトであっても,効果的なミーティング,チームワーク,ドキュメンテーションの取り方などを試行錯誤的に模索し,プロジェクトマネジメントの観点でも貴重な経験を得た.国際協力の点でも,インタフェース調整の難しさと重要性を実感できるなど,教育的効果は莫大であったといえる(3)



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