就任挨拶:
通信ソサイエティ会長就任にあたって

村田 正幸 会長


Junji NAMIKI

 


 2016年度通信ソサイエティ会長に就任いたしました村田です。電子情報通信学会は来年2017年に創立100周年を迎えます。なかでも、情報通信の発展を支えてきた通信ソサエティの会長を拝命し、たいへん名誉なことと考えております。もちろん、その発展はこれまでの多くの優秀な研究者や技術者の貢献によるものであり、改めて敬意を表したいと思います。
 情報通信技術はすでに百数十年の歴史があり、本学会はまさにその発展を支えてきました。しかし、近年の社会への急速な浸透によって、その目的が人と人を繋げることから、日常生活やビジネス活動、さらには産業活動や経済活動など、私たちのあらゆる社会活動を支える基盤としてその役割が大きく変わりつつあります。その結果、通信ソサイエティをとりまく環境も大きく変化しつつあり、さまざまな問題が顕在化しつつあります。もちろん、これまでも個々の問題に対して対策がとられてきましたが、必ずしも成功しているわけではないことはご承知のとおりかと思います。ただ、ここでは、それらを個々に取り上げていくのは差し控え、それよりも、今後、研究者として、また、技術者として、みなさまと取り組んでいきたいことについて述べさせていただきます。
 学会の重要な使命として、研究活動や人材育成活動だけでなく、技術普及などの社会貢献活動などがありますが、ここでは特に研究活動に焦点を絞って申し上げます。学会は、技術に対して目利きのできる専門家集団であり、また、新しい価値を創造できる専門家集団であると言えると思います。また、そのような専門家を目指す若手研究者や学生を包摂する集団であると思います。集団活動の結果として見える形が、論文誌の発行や研究会活動であり、これらの活動を通じて最新の情報や知見を交換することを可能にしています。しかし、皮肉な結果ですが、情報通信技術の発展によって、表層的なものでよければシンクタンク系のネットニュースによって最新の動向を知ることができるようになりました。検索すれば、もっと質の良い情報を手に入れることもできます。また、最近、オープンアクセスを採用している学術誌が増えてきました。もちろん、従来会員でなければ手に入れることができなかった学術成果が広く普及することは、学術情報の流通増進という観点から決して否定されるものではありません。そのため、当ソサイエティにおいてもオープンアクセスを戦略的にどのように実装するかが肝要だと思いますが、問題は、これらの流れの中で学会不要論が繰り返し言われるようになっていることです。特に、企業人が学会に入る理由が最新の技術情報を得るためであるとすれば、学会員になる理由がなくなるのも当然ということになります。果たしてそうでしょうか。
 学会に所属することによって初めて入手可能な、価値ある情報は必ずあると思います。論文を読んでも、専門外であればほんとうのところはわかりません。嘘は決して書かないにしても、自分の提案が世の中でいちばんと主張したいのは研究者の習性です。特にアーキテクチャ提案では、主張が正しいかどうかは論文を読んでもすぐには判断できません。研究者のナマの声を聞く、それがだいじなことであり、異分野融合の大前提になります。例えば、有無線統合が言われて久しく現実にすでに起こっていることですが、学術分野としてはあまり進んでいません。有線技術の専門家が無線技術も関係する研究発表をすると、無線技術の専門家から、フェージングがどうの、マルチパスがどうのという指摘があったりします。しかし現実には、これだけ抑えておけばだいじょうぶという無線分野では「常識的な」パラメータ設定があったりします。これは実際に会話しないと決してでてきません。オープンアクセスによってインパクトファクターを高くしている論文誌もありますが、質がよいとは決して言えないものも多くあります。論文誌においても、ネットで手に入る情報が決して良質なものばかりではありません。一方、本学会の論文誌は、きっちりとした査読プロセスがある故に質が保証されていると言われます。しかし、論文の例えば体裁に関して最低保証はされていると思いますが、ほんとうに良い論文を掲載できているでしょうか。この点を今後、議論していくべきと考えています。
 一方、研究会活動は、所属組織を越えて価値ある情報を交換し、議論する場として重要なものです。新しい発想は、組織に閉じていては決して産まれません。我が国では人材の流動化は未だ十分に起きておらず、それゆえにこそ学会における組織を越えた交流はたいへん重要なものと思います。しかし、研究会活動が、例えば、研究会の名前に縛られて固定化されてきていないかという懸念があります。「私はどこそこの研究会で活動しています」という自己紹介がたまにありますが、特定の研究会に閉じこもっていては将来の飛躍はないと思います。異分野融合が新しい発想の芽を持つものとして重視されるようになっていますが、異なる学術分野や技術分野の融合が本質ではなく、そこに携わる研究者の融合があってこそ初めて成り立つものであると思います。産官学連携も、たまたま同じ技術の研究開発をしていたとしても成立するものではありません。たとえ始めることができたとしても長続きするものでは決してないと思います。研究者の研究力に対する信頼関係の醸成が結局のところだいじになります。そのための場を提供すること、それが通信ソサイエティに求められる役割であると思います。しかし、先にも述べたように、研究会活動の固定化は由々しき問題であると考えています。最近、IoTやサイバーセキュリティなど既存の個々の研究会が単独では取り扱えない、しかし産業界が活発に取り組んでいる技術分野は増えつつあります。これらはその本質を考えると、一過性のバズワードでは決してなく、情報通信技術が社会基盤として浸透していくために取り組むべき課題であると思います。それを研究会活動の中で、どう取り扱っていくかが今後の課題であると考えています。
 最後に、特に若い研究者のみなさまに申し上げたいことがあります。それは、決してひとつの研究会に閉じることなく、通信ソサイエティの多くの研究会、さらに他ソサイエティ、他学会にも参加し、発表し、議論し、ご自身の研究の糧にしていただきたいということです。仲良しグループに閉じることなく、企業や大学等組織を超えた連携を目指していただきたいと思います。それらを足場に世界で活躍する研究者になっていただくこと、それが通信ソサイエティの役割であるべきだと思います。障害となる問題があれば、お教えいただきたいと思います。問題を解決するために、微力ながら、またわずか1年の間になりますが、全力を尽くしていきたいと思います。