IEICE ICT PIONEERS WEBINARシリーズ~第38弾~
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主催:(一社)電子情報通信学会サービス委員会
ラウドネス(音の大きさ)の周波数特性と国際標準
鈴木 陽一(東北大学名誉教授)
【開催日時】2023年6月23日(金)15:00~16:00
講演内容
主観的な音の大きさをラウドネスという。ラウドネスは音の物理的な強さ(音の強さ)が同じでも周波数スペクトルが変われば変化する。純音(正弦波音)の場合、そのラウドネスは周波数によって変化する。逆に、純音の周波数を変えながら同じラウドネスに聞こえるレベルをつないでいくと等高線が描ける。これを等ラウドネスレベル曲線と呼び、ISO 226として国際規格になっている。これは聴覚の基本的な感度特性といえ、番号の若さからも聴覚の重要な基礎特性であることが分かる。1985年、それまでのISO 226が大きな誤差を持つとの指摘を受けて全面改訂が決定された。講演者は当初から改訂作業に参画、最終盤にはプロジェクトリーダとして2003年版の発行までを主導し、このISO 226:2003は今でも使われている。さらに、地上ディジタルテレビジョンにおいて音声信号のラウドネス測定に用いられているRec.ITU-R BS.1770に定める測定アルゴリズムとISO 226は意外な関係を持っている。この講演ではこれらについて分かりやすく話していきたい。
梶川嘉延 基礎・境界ソサイエティ会長からの紹介文
鈴木陽一先生は、東北大学大学院工学研究科の博士課程後期課程で学位を取得された後、東北大学電気通信研究所に所属され、それ以来、音空間情報の知覚、高臨場感3次元聴覚ディスプレイの開発、音を含むマルチモーダル情報の知覚および感性評価、屋外拡声システムの高度化など、主に音響分野を中心に日本を代表する研究者として、日本だけでなく世界をリードされてきました。先生のご業績は多岐にわたるため、すべてを紹介することはできませんが、今回のICTパイオニアシリーズでは、「ラウドネス(音の大きさ)の周波数特性と国際標準」という演題で、鈴木先生が2003年に世界を主導して標準化を達成された等ラウドネスレベル曲線に関する研究の詳細や、国際規格(ISO226:2003)への採用まで幅広くご講演いただけることと思います。ご存知の通り、等ラウドネスレベル曲線は、周波数の異なる音が同じ音の大きさ(ラウドネス)に聞こえる音圧レベルを結んだ等高線のことであり、ヒトの聴覚機能を考える際に基礎となる重要な特性です。これまでの規格としては、1965年にイギリス国立物理学研究所のロビンソンとダドソンによる特性が国際推奨規格(その後1987年に国際規格)となり、長年にわたって使用されてきましたが、その後のさまざまな研究成果から新たな規格の必要性が唱えられました。そこで、鈴木先生を中心とした大規模な研究結果に基づき、現在のISO226:2003として広く用いられるようになりました。これらの顕著な功績により、日本音響学会の名誉員をはじめ、電子情報通信学会、米国音響学会、日本バーチャルリアリティ学会からフェロー称号を授与されています。また、2021年にはISO226標準化に関する成果も理由としてNHK放送文化賞を受賞されており、その他にも文部科学大臣表彰科学技術賞をはじめ、数多くの賞を受賞されています。本講演では、研究活動の成果だけでなく、日本が強化を求められている標準化作業の実情も含めて有益な講演になると確信しておりますので、ぜひ様々な分野の方にご聴講いただければと思います。
講師略歴

鈴木 陽一
1976年東北大学・工・電気卒、81年同大博士修了、工学博士。1999年同大電気通信研究所教授、2019年名誉教授。2017年NICT耐災害ICT研究センター長、2021年東北文化学園大学工学部教授。平成26年度志田林三郎賞、平成28年度文部科学大臣表彰、2020年第72回NHK放送文化賞。電子情報通信学会、日本VR学会、米国音響学会フェロー。日本音響学会名誉会員。