会長就任挨拶

■5.日本の理学と工学
 
 
本学会の会員の多くは、理学または工学(その他に経営等)を学ばれた方であろうと思います。そこで我が国の理工学と欧米の理工学の違いを少し数字で示しておきます。

 エジプトの歴史の中に出てくる、ナイル河氾濫の予測のための観察技術は正に理学の天文学であり、前25世紀前後のピラミッド建設は土木工学です。ギリシャのユークリッドの幾何学は紀元前3世紀であり理学であります。

 日本にも、江戸時代から理学の兆しは見られますが、本格的な高等教育制度がスタートするのは明治政府の樹立後、ヨーロッパから種々のことを学んだ、19世紀の終りごろからです。理学部としては1877年、1897年にそれぞれ東京大学、京都大学に、工学部としては1886年、1897年にそれぞれ東京大学、京都大学に設けられたのが我が国の理学、工学の教育、研究の始まりでしょう。

 ここで我が国のこの分野と諸外国との違いを挙げてみます。


(1)ノーベル賞の数(物理、化学に限る)
   
 1901年以来  自然科学系  469人
 アメリカ・・・200人、イギリス・・・68人 ドイツ・・・63人、フランス・・・26人、
 日本・・・5人(湯川秀樹博士、朝永振一郎博士、江崎玲於奈博士、福井謙一博士、白川英樹博士)


(2)フィールズ賞(数学)
 
 1936年以来1998年まで   計 43人
 日本…3人(小平邦彦博士、広中平祐博士、森 重文博士)


(3)理学博士、工学博士の1年間の数

  (日本は1990年度、他の3か国は1989年度の値)

国 名
1990年
1997年
日 本(120)
3,700
6,000
アメリカ(263)
20,000
27,000
イギリス(58)
6,200
7,000
ド イ ツ(80)
11,000
12,000

( )内は人口で100万の単位

 この数は博士取得者を社会がどのように処遇するかに大きく関係するが、他の国と比べると日本はその処遇がよくないのが現状である。社会の方は、日本の博士取得者に対して自分らの要求する性質を有していないとするところがある。

 どのようにしたらよいのか、産業界と大学が議論をし、この点を解決し、博士取得者を増やす必要がある。

 日本の理、工学の分野における博士の数は、ここに例示したように他国と比べて絶対値において、かなり少ないが、人口比にすると格段に少なくなる。我々はこの点について大いに検討する必要があるのではないだろうか。

 博士に対する扱いのあり方と修士の取り扱いのあり方が明白でなく、区別が残念ながらついていないのではないかと思われる。博士は現在の問題解決というより、次かその次の時期のために考えさせるための人材であるべきであり、そのために給料を修士に比べて格段に良くすべきであると思う。

 しかし、待遇を良くしても期待はずれの人間には、それ相応に待遇を落していくというような日本的にいうとドライな方法の採用を考える時期ではないだろうか。

 しかし将来に対して期待の持てることをした場合は、それ相応の待遇をすべきではないであろうか。余りにもメリハリがない現状ではないかと思える。

(4)理学士、工学士の1年間の数
  (日本は1991年度、他の3か国は1989年度の数)

 以下の表を見て頂きたい。他の国に比べて理学が少なすぎるのは一目瞭然である。

-
理学
工学
E/S
日 本
14,176
87,404
6.2
アメリカ
67,898
120,025
1.8
イギリス
23,800
16,900
0.7
ド イ ツ
14,338
12,068
0.8
(ここで国によって理学と工学の区別をどこでつけるかがやや異なるかもしれないが、大きくは異ならないと仮定している)

 以下に日本製が優れているものの例を示してみよう。

 自動車、テレビ、ノートパソコン、オプティカルファイバ、レーザダイオード、水晶時計、ディジタル時計、トランジスタラジオ、Tモード携帯電話、写真機器の多く、トランジスタ応用製品、ゲーム機、NC工作機械、ロボット類、電卓、電子手帳、自動券売機、自動改札機、自動清算機、カーナビゲータ GPS応用機器等々。

 このようなことができるのは、工学部学生の数の多さと日本人の器用さが関係しているのではないだろうか。

 前に掲げた、創造の階層からいうと上からB、C、D番目が多いのではないであろうか。

 階層の@、A番は理学部的発想が必要とされると考えられる。ここに優れた質と多くの数の人材をそろえることが、今後の日本の将来を決めるのではないかと考えている。


■6.学力低下問題と学会


 ここ数年、我が国の学校の生徒の学力低下が新聞、マスコミ等で大きく取り上げられている。例としては、これまではトップレベルにあった数学オリンピック等における成績の低下。

 授業内容レベルの低下のみならず、πの数値の扱い方、けた数の多い計算を、以前は教えていたのに、教えなくする等々問題になるようなことが報道されている。また教師の資格を取るのに必要な学習時間が短縮されていることも指摘されている。

 これらに関して識者からの警告の本も出ている。一例としては、大野晋、上野健爾著“学力があぶない”(岩波新書)がある。

 本学会は数学、物理、化学等の基礎学力を最も必要とする学会である。その他関連学会も同様であろう。良い工業製品を生産しそれを販売することで日本は成り立っているわけであるが、基礎学力の低下は、そのことを根底から揺さぶることになる。

 この方面に関係する学会においては、この深刻な問題を共に検討し、しかるべきところに提言することも重要でないかと考えている。


算数・数学科の学習時間

  70年代の小学校6年間の算数総時間数 1,047時間
  来年度の小学校6年間の算数総時間数 869時間(178時間減少)
  70年代の中学校3年間の数学総時間数 420時間
  来年度の中学校3年間の数学総時間数 315時間(105時間減少)



■7.終 わ り に

 まとまりのないことではありますが、日ごろ考えていることを会長就任の言葉とさせて頂きます。我が学会の存在感が世界で一層高まるように努力するように致しましょう。


4/4






| TOP | MENU |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.