会長就任挨拶

■3.創造に対する一考察

 本学会の会員の多くは、学会が対象としている分野と関連のある企業か大学かに籍を置いている人かまたはその方面に関心のある方であろう。学会に会費を払って会員になっているということは、この分野の世界、日本の進展すなわち“どのような新しい分野が進歩しているのであろうか。何が今から生まれそうなのか?" に深い関心をお持ちの方であろう。自分が学会誌に論文を投稿する、しないに関係なく、それに加えて、いろいろな分野の進歩の解説も当然であるが。

 さてそこで、第一義的な研究発表の場として、広い意味での電子、情報、通信関連の分野で年間どの程度の件数の研究発表がなされているであろうか? その質はどうであろうか? 研究発表というからには、いうまでもなく、そのどこかに何か新しいものがあるはずであろう。すなわち、それが研究発表できる必要条件であるから、すなわち発表者の発表の中には大なり小なり“創造”があるはずである。

 研究者はいつも、大学であろうが企業であろうが創造、創造と、または独創しろ独創しろと、ほかからまたは自分で、陰に陽に鼓舞されまたは鼓舞しているであろう。しかしこれだけでは言葉のやり取りだけである。創造、独創について、もう少しイメージがわく説明はないであろうか?

 いったい創造とか独創とかをどのように考えればよいのであろうか?

 私の恩師、元本学会の会長の故川上正光東工大学長、名誉教授はしばしば、講義中も日本の大学教授には創造性がない、皆ブラックホールであって、自分からは何も発信しないで吸収するだけであると言われ、学生の我々に創造的であれと叱咤激励をされていた。後藤尚久拓殖大学教授(東工大名誉教授)の著書に“アイデアはいかに生まれるか”(講談社・ブルーバックス)があるが、その本の中に“「日本人は創造・独創的でない」と言う人が多いが、この発言は問題であると指摘している。この発言はすなわち、「私は日本人である」、したがって「私は創造・独創的でなくても良い」と弁護しているのだと言っている。

 この場合は「私は創造・独創的でない」と言うべきである”と記している(ここで。断っておくが後藤氏が使っている独創的をここでは、創造・独創的と私が書き換えています)。

 しかし、ここで終ると、日本人の創造性についての議論は終りになる。日本の工業製品がこれだけ世界のマーケットを占めているということは、何らかの意味でほかが真似をできない。すなわち、特許を取って製品化しているということは、我々日本人にある種の創造性があることを意味していると考えられる。ここで、これまでも多くの方が創造、独創についていろいろな考え方を述べられているがそこから少し掲げてみる。


(1)岩波国語辞典

 創造…最初に作り出すこと。人まねでなく、新しいものを自分から作り出すこと。
 独創…独自の新しい考え・思いつきで、ものごとを作り出すこと。


(2)江崎玲於奈博士

 プライマリーな発明・発見・・・国境、企業を越えて世界に貢献
 セカンダリー・・・企業を越えて日本の技術向上
 サーダリー・・・企業に貢献


(3)城阪俊吉氏


 第一種・・・インベンション的創造
 第二種・・・改良・改質(個人的、集合的)創造性
 第三種・・・日本的な新製品開発段階で創出される集団的な創造性
 第四種・・・提案制度による集積的な創造性


(4)菊地 誠博士

 「独立型の創造性」・・・まず天才的なひらめきがあり、それを受けて全く、
               新しい着想を得る場合

 「触発型の創造性」・・・「開発段階」・・・「工業化段階」
                商品化 国内市場
                      国際市場


(5)朝日新聞の社説で紹介されたもの

 (ア)馬車と籠の時代に蒸気機関車や飛行機を提案する。
 (イ)ガソリンエンジンを改造してガスタービンやロータリーエンジンにする。
 (ウ)トランジスタから集積回路へ

 これまでの実績からして、(ア)は日本人には難しいだろうが、(イ)、(ウ)は日本人向きと述べ、国民性による違いを強調している。


(6)朝日新聞の論壇に掲載されたもの


 (ア)月世界旅行を可能にする
 (イ)平面テレビの実現

 この二つは、1960年初頭にアメリカでスタートしたプロジェクト。当初難しいと思われた(ア)は成功したが、反対に成功しやすいと思われた(イ)はその時点では試作の域を出なかった。

 前者はシステム技術で、後者は部品技術である。日本はシステム技術には弱いが、(イ)のような部品技術には強いと述べている。例えばオプトエレクトロニクスデバイス、フラットパネルデバイス、マイクロマシン等。これらはその発想は外来のモノであるが、日本は独自の方法で技術を精密化して生産化する努力をして実用に供せるようにまで仕上げた。


2/4






| TOP | MENU |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.