本賞はHCS研究会において発表された研究報告のうち、同研究会の対象分野の発展に寄与するものを、表彰し奨励するものです。ヒューマンコミュニケーション賞の授賞候補の選定過程において、優れていると選定された研究報告(ただしHC賞推薦研究報告を除く)の著者全員に授賞いたします。

HCS研究会賞選奨規程(2020年9月制定)

HCS研究会賞 受賞者一覧

2023年度

  1. 鈴木千晴(立命館大)・中山満子(奈良女子大)
    ネットを介して見知らぬ人と交流・対面する小学生の心理的特徴
    2023年8月,HCS2023-50
    • 選評:全国の公立小学校6年生974名を対象に,ネット上の見知らぬ他者と交流・対面した経験のある小学生の家族関係および注意制御の特徴を明らかにした.利用アプリ毎の他人との交流経験の有無とその内容,対面経験の有無,それらの経験と家族満足度,EC尺度との関連を分析している.調査の対象が大規模であること,また,研究のデザインが美しく,ち密な分析が行われていること,結果の解釈・考察も優れていること,研究内容の社会的意義が極めて大きいことから,HCS研究会賞に値する研究であると考える.
  2. 田辺弘子(名大)・山本耕太(学振)
    歩行観察時の視線挙動と魅力評価モデルにおける男女差
    2023年8月,HCS2023-56
    • 選評:歩行の魅力評価を行うために,顔や服装,筋肉などの要因を取り除いたモーションキャプチャを用いた歩容アニメーションの作成,アイトラッカーを用いた視線計測により,計測者の性別で注目する体の部位が異なることを示した.合成した歩容アニメーションを用いてそれを観察する人の視線を計測する”アプローチ”と,そこからの評価モデルによる分析という”研究の流れ”が優れていると考える.また,共分散構造分析により歩容アニメーションの魅力・女性らしさモデルを評価している.今後研究が発展することで,人同士の魅力評価の仕組みや,コミュニケーションの仕組みの解明に繋がる可能性がある.発表時に提示された動画のわかりやすさ,研究内容の斬新さは多いに評価でき,HCS研究会賞に値する研究であると考える.

2022年度

  1. 川島遼介(専修大)・奥岡耕平(慶大)・岩本拓也・馬場 惇・遠藤大介(サイバーエージェント)・大森隆司・大澤正彦(日大)
    身体のない音エージェントによる推薦効果の調査
    2022年1月,HCS2021-44
    • 選評:商品推薦を行うエージェントの実体をなくし,あえて声だけで推薦することで商品に対する注視度や興味を高める効果の可能性を検討した研究です.明確な効果は見られなかったものの,着眼点や今後の店頭での適応可能性など,実践的な研究として今後の成果が楽しみです.
  2. 高山千尋, 後藤充裕, 永徳真一郎, 石井 亮, 能登 肇, 小澤史朗, 中村高雄(NTT)
    身体動作と個人識別との関係の分析:個性を持ったエージェントの実現に向けて
    2022年3月,HCS2021-62
    • 選評:個性を持ったエージェントを作成することを目指して,動作に含まれる個人性を,人間がどのように知覚・認識するかを調べた研究です,実験条件が慎重に検討されていること,534名を対象とした実験であり評価の規模が大きいことから,今後の類似した研究の基盤となる情報を提供していると考えます.
  3. 市川雅也 竹内勇剛(静岡大)
    グラフ理論に基づく対話構造に立脚した遠隔対話システムデザインの提案
    2022年 3 月, HCS2021 71
    • 選評:提案された対話構造の表記手法は実用的と思われ、提案表記を利用して対話構造の分析が進む可能性が感じられます.また,しっかりとモデル構築がなされているため今後の実証実験が楽しみであり,非常に発展性・応用性が高い研究になっている印象を受けました.対話の逐次時間変化をグラフでどのように捉えられるか,今後どのように実装されてゆくのかを期待しています.

2021年度

  1. 高橋翠, 淀川裕美, 野澤祥子, 関智弘, 村上祐介, 遠藤利彦, 秋田喜代美 (東大)
    保育・幼児教育施設における保護者との情報共有と利用ツール③ ICTツールの利用と従来型ツールの使用状況および職務負担感との関連
    2020年10月、HCS2020-51
    • 選評:全国の保育・幼児教育施設とそれらを利用する保護者との情報共有手段としてのICTツールおよび従来ツールの利用を詳細に検討し、それらの利用実態と保育士等の職務負担感の関係を検証した研究です。調査時点では、ICTツールの導入が保育士等の職務負担感の減少にはつながっていないことや、負担感の軽減と研修時間に関連があることを示しており、社会的意義と、ICTツール導入過渡期の資料的価値の高い研究です。
  2. 市野順子 (東京都市大), 井出将弘 (東京都市大/TIS), 横山ひとみ (岡山理科大), 淺野裕俊 (工学院大), 宮地英生, 岡部大介 (東京都市大)
    VRは人々の心をオープンにするか? ―オンラインコミュニケーションメディアと自己開示への影響―
    2021年8月、HCS2021-31
    • 選評: 本研究は、人間関係を築く上で重要な、コミュニケーションにおける自己開示行動に焦点を当て、HMDでのアバタ提示と実映像の影響を緻密な実験を通じて丁寧に明らかにしており、信頼性が高いと評価できます。ユーザとの外見的類似性に関わらず、身体的アバタはビデオ映像よりも自己開示を促すという結果は、今後の対話システム設計に有益な指針となると評価できます。
  3. 佐々木俊文, 高橋英之, 鹿子木康弘 (阪大)
    人間のやり抜く力を高める”健気なエージェント”の提案
    2021年1月、HCS2020-61
    • 選評: 本研究では、ユーザのそばで課題に勤勉に取り組む様子を示すことにより、社会的促進の効果によりユーザに行動変容を促すことを目指す「健気なエージェント」を提案しています。予備的な検討の段階ではありますが、エージェントの外見がユーザのタスクに取り組む意欲に影響するという、興味深い結果が示唆されています。リモートワークの増加等により、人の社会性に働きかけを行うことができるエージェント等への期待が高まる中、今後の発展が期待されます。
  4. 大塚和弘 (横浜国立大)
    対話中の非言語行動の機能スペクトラム解析に向けて ―頭部運動を対象とした機能コーパスと深層学習モデルの構築事例―
    2021年8月、HCS2021-19
    • 選評: 人の対話において表出される非言語行動の曖昧性・多様性を定量的に解析するため、非言語表出が持ちうる意味や機能の分布強度を示す、非言語機能スペクトラムという、独創的で新規性の高い指標を提案しています。また、頭部運動の大規模データ作成、推定モデルの構築を行っており、研究の完成度も高く評価できます。

2020年度

  1. 飯塚重善・後藤篤志・韓 一栄・石濱慎司(神奈川大)
    大学生の健康教育へのコミュニケーションデザイン導入に向けた予備的検討
    2020年3月、HCS2019-85
    • 選評:本研究は、大学の必修科目ではない「健康科学」という科目を、様々な層の学生にいかにして履修させるかということを目的としています。トランスセオレティカルモデル(TTM)という著名な行動変容モデルを応用して、行動変容の各ステージに対応した働きかけをしよう、働きかけ方はコミュニケーションデザインを応用しようという試みです。多様な文献も参照されており、基礎理論に基づいた実践的な研究が期待されます。

  1. 飯塚重善(神奈川大)
    地域密着型スポーツクラブチームのスポンサー企業メリットに関する一考察 ―バスケットボールB3リーグ所属チームのスポンサー企業社員の意識調査より―
    2020年3月、HCS2019-90
    • 選評:地域密着型スポーツクラブのスポンサー企業に焦点を当て、アンケート調査をしています。ビジネスやマーケティングのような研究領域とは異なり、これまでのHCSではあまりない研究対象です。目的はスポーツクラブと企業の良好なスポンサー関係の構築ですが、コミュニケーションがキーであることが説得的に述べられており、HCSの視野を広げることに貢献するものです。

  1. 堀田拓海・竹内勇剛(静岡大)
    他者観察を通じた創造的問題解決のモデル化
    2020年5月、HCS2020-1
    • 選評:本研究では、協同による洞察問題解決において、相手である他者の行動がどの程度意図によるものと考えるかに応じて、固着の解消がスムーズになされ、それに従い洞察問題解決がなされるという実験仮説を、議論により構築しています。結果は今後であるが、問題への興味深いアプローチで、コンピュータやエージェントによる創造性支援のデザインに貢献しうる、将来性が認められます。