重要な社会基盤である電気エネルギーについて,我が国はもとより世界各国に於ける重点施策として,合理的なエネルギー受給体制のあり方に向けて非常に活発な議論が行われ,産学を挙げて研究開発が進められている。なかでも、パワーエレクトロニクスと情報通信技術が融合・連携し,エネルギーの受給を総合的に制御するスマートグリッド・マイクログリッドの実用化に大きな期待が寄せられている。また、防災に対するレジリエンス(柔軟性と復元性)の観点から、ICTを活用した情報運用システムの高度システム化に着目しているが、情報システムの運転に不可欠な電気エネルギーのセキュリティーについても検討は十分とは言えない。電気エネルギーと情報通信の二つの巨大な社会インフラの融合によって電力と通信の相互依存度が極めて高くなった場合には,一方のシステム破綻が他方の破綻を誘発し,大都市における社会インフラの致命的な破綻を招く危険性(リスク)を回避するための技術開発が極めて重要である。
さて、最近のパワーエレクトロニクス技術分野では、超高速低損失なスイッチングが可能な炭化ケイ素電力用パワーデバイス(SiC)等の出現により,電力制御性能の飛躍的な向上が期待される一方で,高速スイッチングに伴う電磁ノイズの増加などの問題が明らかになりつつある。また,情報通信システムでは通信伝送速度の飛躍的向上と広域ネットワーク化の一層進展に伴って、パワーエレクトロニクス機器からの外来電磁ノイズ障害に対する脆弱性が明らかになりつつある。これに対応するために、従来では想定されていなかった新たな電磁干渉障害の可能性について、関連分野の専門家の知見を集約した研究が望まれており、実際にIEC(国際電気標準会議)のTC22(電磁波障害に関する規格制定部門)では、ノイズ規格の抜本的な見直しの議論が始まろうとしている。
本講演では、始めに省エネルギー技術として有効なパワーエレクトロニクスに関する概要を説明した後に、上記の観点から、講演者らが首都大学東京の学内研究プロジェクトとして推進している、パワーエレクトロニクス装置と情報通信装置の融合に伴う障害要因とその解決策手段に関する最近の研究成果の一端を紹介する。 |