5. ウェアラブルコンピュータがもたらすもの 今や性能だけで時計やコンピュータを買う人々は少数派となった.お仕着せに満足しない人々は,スーパーの生活雑貨と同じ感覚でWPCやアクセサリを買い,オリジナルのWPCを持つかもしれない.とはいえ,当面WPCの応用は実世界とインタラクションする製造,物流,医療,救急及び保守へとなるだろう(図6参照)(24). この分野では仕事の効率向上がすべてである.しかし一般の人々にもWPCはそれほど遠いものではない.その利便性が明白になったら加速度的な普及もあり得る.将来のWPCは常に生きた状態で,センサであらゆる情報を取り込み,状況に合わせてデータベースにもアクセスし,必要な情報を提示してくれる.数十年ぶりに訪れた故郷の街を歩いても,昔の情景と現実世界を比較すれば迷うことはない.必要な情報はすべて現実世界上にポインタとして出現する.しかもその情報は別な場所で別な行動をしている仲間とリアルタイムで共有される.旅行に限らず,日々の職場や学校,買い物やスポーツで,我々は無意識のコンピューティングの恩恵を享受できるようになる.このようなアイデアは古くからあったが,“ウェアラブルコンピュータ”というリアルなコンセプトは,そこへ至るパスをより確かにしたといえる. 最近Feiner(25)は,眼鏡型ディスプレイに関して次のようなコメントをしている.“〜前略〜,10年か20年後には広く普及して,これからは何らかのシースルー型HMDをつけていないのが普通ではなくて,〜中略〜,ちょうど時計をはめておらず,半時間も遅れて現れた上に「くそ,太陽を見上げたら,ちょうど時間どおりの太陽に見えたんだ」というようなものだ.今はそうでもないが将来はシステムがもっと小さく軽く,上質になり,利用できる情報をすべて手に入れないのはとても奇妙なことで,それを活用できないのは教養がないという時代になるだろう”.これはまさに一つの極論でもあろうが,こうした研究者の意見もあることを最後に付記しておく. 末筆ながら,本稿を執筆するに当たり,御協力頂いたNTTウェアラブル連絡会各位,同フィールドマルチメディアグループ各位,NTTドコモマルチメディア研究所の福本氏,ほか多くの皆様に感謝します. |
図6 WPCによる映像機器動作チェック 電子美術館等では多くの音響映像機器,電子オブジェなどが各室に点在し,そのための通信設備も含めた保守作業は複雑かつ面倒である.そこで電子マニュアル,音声・映像通信,センタからの遠隔支援などにWPCが活用される(インターコミュニケーションセンタ内田氏提供). |
文 献 |
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