*HCS研究会 2009年8月参加報告記 [#t3bd8f5c]
*HCS研究会 2009年3月参加報告記 [#t3bd8f5c]
報告者: 湯浅将英・徳永弘子(東京電機大学)

**報告 [#p12e3d3f]
3月HCS研究会の報告として,2009年3月23日から25日に島根大学で開催された2008年度HCGシンポジウムの参加報告をする.HCGの特別企画として,まつもとゆきひろ氏による「オブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」の開発」,慶應義塾大学の稲見昌彦先生,東京大学の苗村健先生による「エンタテイメント工学:心を豊かにする科学技術の創生」の招待講演があった.さらに,佐藤誠先生(HCG運営委員長)による講演「私のHC研究:過去・現在・未来」に続き,「HC研究分野の今後を探る」と題し,研究会委員長らによるパネル討論が開催された.

本報告ではHCS研究会と他研究会の口頭発表のいくつかについて報告する.大阪工業大学の佐野先生らによる「初対面紹介エージェントにおけるコミュニケーションモデルと身体的引き込み制御」((佐野睦夫・宮脇健三郎・寺本佳生・速水達也・向井謙太郎・川野雅雄・笹間亮平・伊藤宏比古・山口智治・山田敬嗣 (2009). 初対面紹介エージェントにおけるコミュニケーションモデルと身体的引き込み制御. 電子情報通信学会技術研究報告, 108(484), 49-54.))では,人の行動観察から仕草のルールを抽出し,視線,頷き,相槌などを擬人化エージェント,さらに対話ロボットを用いて,初対面同士の会話の促進を支援するシステムが紹介された.初対面同士の実際の会話からルールを抽出している点が興味深く,状態遷移モデルを用い実際に動作しているシステムの動画を紹介され今後の有用性が感じられた.NTTの松田氏による「集団作業の構造による成員の顔が見えることの効果の違い」((松田昌史 (2009). 集団作業の構造による成員の顔が見えることの効果の違い. 電子情報通信学会技術研究報告, 108(484), 61-66.))では,知的な課題を実施する際,顔が見える場合と顔をカーテンで遮った場合での実験研究が述べられた.他者の顔が見えることによって,課題が促進されるかを検証しており将来のCSCWシステム設計に繋がることが期待される.京都大学の平山先生らによる「Gaze Mirroring: ユーザの興味を顕在化させるための注視模倣」((平山高嗣・朴惠宣・松山隆司 (2009). Gaze Mirroring: ユーザの興味を顕在化させるための注意模倣.  電子情報通信学会技術研究報告, 108(484), 79-84.))では,ユーザ自身の興味を気づかせるため,目のアニメーションを用いてユーザの注視行動を表示するシステムが述べられた.ユーザの共同注意に働きかけるアイディアが面白いものであり,目の表示を改良するアイディアについて議論があった.HCS研究会では他にも魅力ある研究発表があり,質問,議論が非常に活発で発表者と聴講者に意義のある発表会であったと感じた.MVE研究会において筑波大学の中西氏,井上先生らによる「複合現実感による作業学習システムにおける教示像の位置」((中西基文・井上智雄 (2009). 複合現実感による作業学習システムにおける教示像の位置. 電子情報通信学会技術研究報告, 108(490), MVE2008-116, 31-36.))では,仮想空間に表示されたキャラクタの適切な位置についての実験が述べられた.今後の追加実験により,効果的にユーザに動作を教示するシステムが実現できることが期待される.

***湯浅のコメント [#a865ea7b]
講演とパネル討論では「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」というSF作家のアーサー・C・クラーク氏が述べた言葉を用い「過去の人から見れば“魔法”に相当する“SFの未来世界“が近年,現実化されてきた(=すごいことだ)」という主張があった.しかし,SFの未来世界が実現されていくことがうれしいとは僕には思えない.「魔法」を述べたクラーク氏は2008年に亡くなり,未来を見せてくれる人が次に現れるのかがむしろ不安である.しかしながら,それを作り出す場が研究会発表であると考えれば,今回の研究会での非常に活発な議論は,もはや「魔法」を超えた新しいものを作り出す可能性があったのかもしれないと思う.

また,今年度のHCS研究会の発表についてヒューマンコミュニケーション賞を頂いた((武川直樹・峰添実千代・徳永弘子・湯浅将英・瀬下卓弥・立山和美・笠松千夏 (2008). 3人のテーブルトークにおける視線,食事動作,発話交替の分析 -会話と食事動作はどう制御されるか?-. 電子情報通信学会技術研究報告, 108(187), 31-36)).対象となった研究は,人同士の食事の場である「テーブルトーク」の分析である.本研究は,人の食事を観察し,人の食行動をモデル化するものである.今後の目標は,人の食事モデルをシステムに実装して,さらに「評価」することであり,これらの過程が人を中心としたシステム設計には重要である.本研究はまだ初段階であり,これでおごることなく研究を進めていく.

(追伸:飲み会や懇親会では酔った勢いで大声で笑ったり,会話を引き伸ばしたり変に話を広げたりしたかもしれません,迷惑かけた方,スミマセン.しかし,それらもテーブルトーク研究のためです(?).前の学会のときのようにワインをこぼさなくてよかったです(笑))

***徳永のコメント [#xfe031e6]
VNV研究会のオーガナイズドセッションを聴講させて頂きました.各セッションの共通テーマは「コミュニケーションの『場』を捉える」でした.日ごろの研究素材は実験的に収集され,そこで得られたリソースを分析対象とするのが殆どですが,人が集えばそこには『場』が形成され,多種多様な影響と要因の中でコミュニケーションが生まれます.今回はそうした『場』を意識した研究発表と活発なディスカッションがなされ,会話場面におけるインタラクションの仕組みを探りたい私にとっては非常に有益で,新しい視点を得る研究会でした.

HCS研究会において,私は最終日に発表の場を頂きました.緊張の中,PCを発表用のプロジェクターに接続した途端に画面が真っ暗になり,再起動する事態に陥り,座長の静岡大学竹内勇剛先生には大変なご迷惑をおかけ致しました.持ち時間超過にも関わらず,ご参加の方々にあたたかく見守られ,無事に発表を終えました.著名な方々より,貴重なコメント,ご質問を頂き,多くの収穫を得て帰ってまいりました.ありがとうございました.

またこの度,2008年度ヒューマンコミュニケーション賞を頂きました((同上)).人と人が食事をしながら会話を楽しむ『共食の場』を研究テーマに,人の「食べる」「話す」行動を分析し,コミュニケーションの構造を明らかにすることを目的とした研究です.日常生活の営みに即したこの研究テーマが,社会における人と人のコミュニケーションの重要性を喚起し,孤食化などの社会問題解決の一助になればと考えています.この度の受賞を励みに,今後も日々の研究に精進したいと思います.重ねて御礼申し上げます.



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