2008年11月 HCS研究会報告記

報告者: 藤村友美(同志社大学文学研究科)

報告

11月23日,24日の2日間,HCS研究会が金沢の兼六荘にて開催されました。小雨が降る中でしたが,落ち着いた金沢の街の雰囲気が一層引き立っているようでした。今回の研究会のテーマは「コミュニケーションをつむぐ身体」ということで,工学,人類学,心理学の多方面から参加者が募り,有意義な議論が繰り広げられました。研究会の雰囲気は,発表中にも,フロアから自由に意見が飛び交うといったものでした。このようなスタイルは,私が所属している研究室と非常に良く似ていましたので,初参加ながらも少し安心した気持ちでご発表を拝聴することができました。

一日目の木村大治先生の基調講演では,普段,コミュニケーション研究の中でもよく使用される「インタラクション(相互作用)」の概念について,再考する場を与えていただきました。先生のお話の中で印象深かったのは,「インタラクションという言葉は,面白く重要であるがゆえに,祭り上げられがちである」という内容でした。さらに木村先生のお話によれば,インタラクションとは「個体同士が互いの足場となっており,その外部に絶対的,固定的な足場が存在しないこと」であり,決して安易に現象を説明できる概念ではないにもかかわらず,言葉が独り歩きしているといったご指摘をされていました。私は,自身の研究の考察で「AとBが相互作用していると考えられる」と言ったりしますが,「なんだかAとBに関係がありそう」といったレベルの結果しか得られていない時でも「インタラクション」を都合よく利用していたのではないかと反省いたしました。「インタラクション」という言葉を使えば,研究自体が「しまる」気がして多用してしまいがちですが,その意味すること,自身が意図することを念頭に置かなければ,決して第3者には伝わらないということを改めて,痛感した次第です。

また今回は,1日目がポジション・ペーパー発表ということで,各人がコミュニケーションにおける身体の問題について,自身の研究の意義,展望などを語るというものでした。「コミュニケーション」というと,心理学の分野で研究をしている私にとっては,生身の人間同士の,まさにFace to Faceの対人場面をすぐに想像してしまうのですが,アバターを使ったご研究が数多く,大変興味をもって拝聴させていただきました。特に,静岡大学の中上先生によるご発表が印象に残っています。中上先生は,人が遠隔操作型ロボットをアバターとして捉えれば,ロボットの身体の認識にどのような変化が生じるかといったご研究を発表されていました。ロボット工学は日進月歩で研究が進んでおり,人間が踏み入ることができないような危険な場所でもロボットを遠隔操作して作業が可能になりつつあります。このような技術面の発展とともに,ロボットを操作する人間がロボットをどのように捉えるのか,といった心理面の検討も非常に重要な検討課題であると思われます。人間がロボットを単なる「道具」として捉えるのか,アバターのように自らの「身体」として同一視するほうが良いのかは,これから議論が必要な課題であると感じました。

2日目の一般講演では,私の研究発表にも,貴重なご意見をたくさんいただきました。これまで心理学の学会や研究会でしか発表したことがなかったのですが,他分野の方からまた違った視点でコメントやアドバイスを頂き,大変参考になりました。今後もさまざまな分野の方と研究についてディスカッションさせていただければと思っております。

またHCS研究会は,研究者同士が自由に意見を交換できる場と時間が十分とられていると思いました。1日目の懇親会での加賀会席も大変美味しく,お酒もすすみつつ,皆さんで和気藹々と宴を囲むことができました。2次会(?)は,私は,次の日の朝一番の発表だったので,今回はご遠慮させていただいたのですが,次回は多くの方々とお話しできればと思っています。

最後になりましたが,今回の幹事をしてくださった,渡邊さん,上杉さんをはじめ,研究会に参加された皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

Last-modified: 2020-12-04 (金) 06:04:03

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