「古くて新しいテーマ:接点・接触問題」

機構デバイス研究専門委員会 委員長          

長瀬 亮 (NTT)

テキスト ボックス:   機構デバイス研究会の前身である機構部品研究会は1962年に設立されました。通信分野を見ると、この年はちょうど600形電話機(黒電話の最終形)の実用が開始された年であり、クロスバ交換機の設置が進みつつありました。莫大な接点数を有するクロスバ交換機の開発では、電気接点の信頼性に関する問題が非常に重要であり、この接点・接触問題に多くの研究者が取り組んでいた時代です。

 時代は流れ、交換機の機械式スイッチは半導体へ、伝送路は同軸ケーブルから光ファイバへ置き換わりましたが、電子回路が高度化すればするほど、コネクタやスイッチなどの機構デバイスに対する要求条件はますます厳しくなり、接点・接触問題には今でも多くの課題が残されているとともに、信号の高周波化に伴い新たな課題も生まれています。

 機構デバイス研究会では、電子回路の基盤技術である接触理論、接続基礎、接触界面現象をはじめ、リレー、スイッチ、電気/光接続デバイス等の部品、センシング技術、実装や自動車への応用などのテーマを取り扱い、年10回(本年度までは11回)の研究会と年1回の講習会が活動の基本です。このうち1回の研究会を2001年より国際セッションIS-EMDとし、第1種研究会の仕組み(参加料無料)を守りながら海外からの発表者を受け入れていますが、毎年2日間の日程で30件を超える申し込み(内海外から10数件)があり、海外の研究者にもすっかり定着しました。さらにこのセッションと連携させる形で英文論文誌(C)に毎年IS-EMD特集を組み、毎回30件を超える投稿を集めるなど成果をあげています。

 機構デバイス講習会は接点・接触問題に関する第一人者が集う本研究会の知識を社会のために役立てようとの趣旨で、研究専門委員や顧問の先生方を講師として2003年より開催しているものです。当初は受講生を集めるのに苦労しましたが、年を追う毎に認知され、本年3月に工学院大学にて開催した際には90名ほどの受講生にご参加いただきました。参加費無料が特徴であるIS-EMDにかかる経費にはここで得た収益をあてており、補助金に頼らずに研究会の中で国際活動を発展させる基盤が整いつつあります。

近年例会や総合大会、ソサイエティ大会の機構デバイス関連セッションにおいて学生諸氏の発表件数が増えており、専門委員会を構成する先生方のご指導の賜物であるとともに、昨年から始まった学生奨励賞の効果の一端を示すものと考えておりますが、その一方で企業からの発表者が少ない点が気になっています。良い研究成果を上げられた学生さんも卒業後学会から離れる例が多く、これは本研究会に留まらずエレソ全体の問題でもあります。

機構デバイス講習会は企業の若手技術者に役立つようプログラムを組んでおりますが、受講された方々や受講生を送り出した企業幹部の方々には、自社の技術力向上=事業貢献のために学会活動への直接参加の意義を理解していただければと願っている次第です。

企業から就任した数少ない研究専門委員長として、研究専門委員会が学会活動を根本で支えているとの認識に立ち、今後も微力ながら研専活動の活性化を目指して邁進する所存です。

 

著者略歴:

1985年東北大院・工・精密工学専攻修士課程修了、同年NTT入社。光接続デバイスの研究開発に従事。1998年工学博士(東北大)。2000年よりNTTフォトニクス研究所主幹研究員。現在に至る。JIS光コネクタ標準化委員会委員長、IEC TC86/SC86B国内委員会幹事。2005IEC活動推進会議議長賞、同年関東地方発明表彰、2006年精密工学会技術賞