解説論文
ともに歩んでくれる君と:ゲームAIに見る人間とAIの幸せな関係
小特集
我々の生活を変えるAI/SNSの使い方
Summery チェスや囲碁,ポーカーなど,人間を超えた強さのゲームAIができたとのニュースが時折世間を騒がせる.しかし,あるゲームにおいてAIが人間の世界チャンピオンを破ったとしても,そのゲームが誰にもプレイされなくなるというわけではない.強くなったゲームAIがあることを前提にした,異なった楽しみ方,より深いゲームの理解など,人とAIとの新しい関係が構築され始めている.本稿は,主にボードゲームにおけるAI の進化に着目し,どのように人間を超える能力を持つに至ったかという技術的な歴史を概観するとともに,新たに生まれ始めているゲームAIの利用方法,問題構造の変化などについて紹介する.
Key Words ゲームAI,ボードゲーム,機械学習,強化学習
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はじめに
想像してほしい.
日曜日,普段より遅く起床して,朝食,洗濯などを済ませると,もう昼は間近の11時半.何気なくつけたテレビのNHK教育のチャネルには,盤を挟んで座る何とも厳しい顔の二人の棋士.「20秒,1,2,3…」と静かな声だけが響く….
恐らく,将棋が趣味でない方であっても,このときの映像は思い浮かぶだろう.何十年も変わらず毎週放映される,同じフォーマットの番組.ただ,もしあなたがここ数年の将棋中継を見ていないのなら,今週の将棋中継を少し眺めて頂きたい.あなたの知っている映像と,どこかが変わっていないだろうか?
画面の上の方,左右から伸びた白と黒の棒にお気付きになっただろうか?
2021年4月,NHKが中継する将棋と囲碁のNHK杯において,現在の盤面をAI(Artificial Intelligence)に評価させた,形勢を表す評価値がリアルタイムで画面上に表示されるようになった(図1).それまでの対局中継は,トッププロが解説を加えながら番組を進行していたが,この解説にコンピュータの形勢判断が加わったことになる.これは,ゲームAIが,将棋や囲碁の楽しみ方の一つの要素として役割を果たせるようになったという,大きな変化を象徴する出来事であった.
ゲームをプレイすることは,しばしば人間の知性の象徴と考えられてきた.人間以外の存在が知性を持つのか,という人々の興味は強いものがあり,1950年頃,コンピュータと呼ばれる存在が生まれるや否や,ゲームをプレイできるようなプログラムの開発が行われている(1).れい明期のコンピュータにとって,人間のように複雑なゲームをプレイすることは技術的に困難であり,哲学者のDreyfusが1972年に著した“What Computers Can’t Do”の中で,コンピュータは人間にはチェスで勝てないであろうと述べるほど,コンピュータと人間の能力はかけ離れていた.しかし,ゲームをプレイするプログラムは着実に進化を続け,現在では囲碁,将棋などのボードゲームや,リアルタイムの行動計画が

図1 NHK杯におけるゲームAIの評価値表示
画面上部の形勢表示はゲームの進行とともにリアルタイムに変化する.
(ABEMA Times,“ついにNHKも導入した将棋対局の「AI勝率表示」放送:担当者に聞く技術革新と未来像”から引用)
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明治大学,川崎市
Meiji University,Kawasaki-shi,214-8571 Japan