解説論文
大学英語教育における機械翻訳と生成AIの活用事例: 発信力向上に焦点を当てて
小特集
我々の生活を変えるAI/SNSの使い方
Summery 立命館大のプロジェクト発信型英語プログラム(PEP)では,機械翻訳や生成AIなどのテクノロジーを積極的に導入し,リサーチ,オーサリング,コラボレーション,アウトプットの「新しい4技能」を軸に,学生の英語発信力を育成している.PEPのようなプロジェクト型,あるいは探究型の大学英語教育モデルにおいては,より複合的にかつテクノロジーの活用を中心に据えた新しい学力観,スキル観,英語運用能力の考え方が求められている.PEPではICTの活用は発信力向上のために使用することが前提であり,学習者がAIを含むICTを駆使して作成した英語を自分のものにし,自信を持って発信するために実践を積み重ねてきた.薬学専門英語のように高い専門性が問われる分野では,AIによって自分がこれまでに習得した知識や,それを得るために行ってきた学習体験を深化させるような活用方法もある.本稿では,機械翻訳や生成AIの適切な活用が学生の英語力向上と発信力の強化にどのように寄与するかを具体的な事例を交えて論じる.
Key Words 機械翻訳,生成AI,Mirai Translator,ChatGPT,英語教育,プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)
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はじめに
英語非母語話者にとって,英語での情報収集や発信は多大な努力を要するものであるが,AI技術の進歩がこの課題の克服に新たな可能性を示している.2022年8月にNature誌に掲載された「英語が苦手? AIがあるから大丈夫!(Poor English skills? New AIs help researchers to write better)」(1)という記事では,機械翻訳ツールのGoogle翻訳やDeepL,英文校正ツールのGrammarly,発音改善ツールのELSA Speak等が取り上げられ,これらが英語を母語としない科学者の論文執筆やプレゼンテーションの準備に有効であることが示された.特に注目すべきは,これらのツールが無料または安価で利用できる点であり,学術翻訳サービスに多額の費用を支払うことが難しい若手の研究者にとっては大きな支援となることである.これらのツールは,大学生を含む学習者にもアクセス可能であり,英語学習の強力な味方となり得る.
筆者らは,2022年9月に立命館大のプロジェクト発信型英語プログラム(Project-based English Program.以下,PEP)に機械翻訳を全面的に導入し,約5,000人の全受講生に対して機械翻訳ツールMirai Translatorの使用を開始した(2).これは,正課の必修授業に制限なしに機械翻訳を導入するという,全国でも前例を見ない取組みであった.筆者らはこれまでの実践を通じ,学生が機械翻訳の支援を受けながら英文を編集し,自分のものにするという過程を経ることで,作成した英文を自信を持って発信できるようになるという重要な洞察を得ている(3),(4).また,PEPでは同時期に前述の発音改善ツールELSA Speakも試験的に導入し,ツールを導入するだけでなく授業での活動と関連付けが必要となることが示されている(5),(6).筆者らは,ディジタルツールの活用が「ずるい」ことや「学習の機会を妨げる」ものとみなすのではなく,これらのツールを適切に活用することで,学習を促進し,コミュニケーション能力,発想力,情報収集力などの発信活動に関わるスキルを向上させることを目指し,積極的に実践を行ってきた.
2022年11月に登場した生成AIのChatGPTは,英語教育の現場に更なる変革をもたらした.生成AIは翻訳や校正への活用だけでなく,適切なプロンプトを用いることで,個々の学習者に最適化した教育・学習を実現する可能性を持つ.
本稿では,PEPにおける機械翻訳と生成AIの具体的な活用事例を取り上げ,現在の大学教育におい
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立命館大学,草津市
Ritsumeikan University,Kusatsu-shi,525-8577 Japan