解説論文 
電波の不思議探検 ~静電磁界におけるエネルギー流動の一描像~

解説論文

電波の不思議探検~静電磁界におけるエネルギー流動の一描像~

Adventure in Electromagnetic World: An Image of Energy Flow in Static Electromagnetic Field

唐沢好男 Yoshio Karasawa††

Summery ワイヤレス通信の物理層技術はアンテナや電波伝搬といった電波工学に支えられている.更に,その電波工学は電磁気学,すなわち,マクスウェルの方程式が屋台骨をしっかりと固めている.そんな電磁気学にも,電波が我々の目に見えないゆえに,いろいろな不思議に満ちている.本稿ではその一つ,ポインティングベクトルの謎を取り上げてみたい.電磁界のエネルギーの流れを示すものとして,電界Eと磁界Hの外積E×Hで表されるポインティングベクトルがある.電磁界解析の多くの場面に適用できて重宝なものであるが,その適用性に関してはまだ議論が多い.特に,静電磁界におけるポインティングベクトルが示すエネルギーの流れについては,感覚的に受け入れがたい描像が得られるので,教科書レベルでも様々な見解がある.本稿では,静電磁界におけるポインティングベクトルの振舞いについて,筆者が抱く一つの描像を述べたいと思う.あくまで,仮定した条件の下での推論であるので正しさを実証するものではないが,既知の電磁現象に対してつじつまが合う説明ができる.読者の皆さんには,ここで述べる推論を一つの考え方と受け止め,更なる深い議論への入り口として頂ければ幸いである.

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電磁気学のパラドックス

図1を見てほしい.帯電した平板コンデンサの中に棒磁石が置かれ,極板間にはそれぞれによって静電界Eと静磁界Hが作られている.マクスウェルの方程式が教えてくれるように,電磁波では,電界Eと磁界Hが作るポインティングベクトルE×Hの方向に,光速で進むエネルギーの流れができ伝搬する.同軸管による直流電力伝送でも,管内にできる静電磁界空間をE×Hがエネルギーを運んでいる.では,図1に示すように,独立に作られた静電界Eと静磁界Hが存在する空間において,ベクトルE×Hにより,図の赤い矢印の向きにエネルギーの流れができているのだろうか? これがその疑問である.静電磁界は時間的に変化するものが何もないから“静”と呼ばれている.「そんなところにエネルギーの風が吹くわけない」と思うだろう.だが,この稿を読み終える頃には,「そうかも」に変わっているかもしれない.

筆者が研究者としてまだ駆け出しの頃の1984年,本会の会誌6月号に「電磁波工学におけるパラドックス-その思い違いを探る-」と題する解説記事が安達三郎先生によりまとめられている (1).その中では,六つの項目が質問の形で提起され,それぞれについて解答が述べられているが,その一つに「静電界の中の磁石はポインティング電力を発生するか」がある.これはまさに,図1と同じ範ちゅうの問いである.

問いは以下である.「図2に示すように正電荷を帯びた磁石があるとすると,電荷による電界と磁石による磁界によって作られるポインティングベクトルが図に示すようになり,磁石の周りをエネルギーが循環することになる.本当か?」.この問題を最初に提起したのはヘルツ(1890)と言われている.文献(1)でのこれに対する解答は,「この問題に解答を与えるのは簡単ではないように思う」で始まり,三つの考え方(発生する・しない両面からの)がまとめられている.(問題提起は後藤尚久先生,解答担当は徳丸 仁先生.)

図1を含む静電磁界全体についての答えは,組………

図1 静電磁界中のポインティングベクトルE×Hはエネルギーの流れを表しているか?

図1 静電磁界中のポインティングベクトルE×Hはエネルギーの流れを表しているか?

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電気通信大学,調布市

Univ. Electro-Communications, Chofu-Shi, 182-8585 Japan