解説論文
深宇宙通信への招待
小特集
宇宙ICTの基盤となる宇宙通信技術のフロンティア
Summery HAYABUSA2(はやぶさ2)が2020年12月に地球帰還を果たして3年近くたつ.HAYABUSA2は,新しい目標天体である1998KY6を目指し再び旅立った.2031年到着予定だから,打上げから16年余り,過酷な宇宙環境に耐えようという試練でもある.そのようなHAYABUSA2に着眼した深宇宙通信を一度紹介した(1).このときは,HAYABUSA2に視点を固定してその技術を概観したのだが,今回はより広い読者へ向けて,深宇宙通信技術の成り立ちの方へ目を向けてみたい.深宇宙通信は,宇宙機の搭載技術と地球局の支援技術がかみ合って成り立っている.言わば宇宙機視点であった以前の記事に対しては相補的な内容となる.深宇宙通信とは何であるか,何ができるのか,どうやって使っていくべきか,今後どうなっていくのか,これらはネットの記事を拾い読みしてもなかなかつかみ所がないかもしれない.また,現代の深宇宙通信には,いわゆる定本という教科書がない.本稿がせめて導入になればと思う.
Key Words 深宇宙,通信,TT&C,探査機,地球局
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深宇宙通信技術とは
深宇宙通信と言っても,何か特殊な原理があって,それによりほかの通信技術と明確に区別されるわけではない.それは,共通の通信技術を基盤に置いて,深宇宙という舞台を志向した応用技術と言ってよい.大まかに宇宙機の技術と地球局の技術に大別できるが,通信能力は両者あいまって実現するものだから,どちらか一方の視点だけからは語れない.両者は置かれる環境の違いで枝分かれした技術である.宇宙機(宇宙機と呼んだり,探査機と呼んだりするが,宇宙機は探査機も含んで地球引力圏にとどまらずに活動する機体全般を指して用いることにする.)は限られたリソースで,宇宙という環境で決められた年限,定まった性能で正常に動作することが求められる.地球局の方は,限られた宇宙機側の能力を補完する立場であるから,小形軽量低消費電力の搭載通信システムと大形の地球局という役割分担になりやすい.今の深宇宙通信システムはそのように進化してきた.
便宜的には地表面から200万km以遠が深宇宙通信の領域である(1),(2).だから,深宇宙通信技術は200万km以遠のための通信技術と言ってしまってよいだろう.また,200万kmも離すのは,表1の深宇宙通信用の割当周波数帯域をほかから区別して特に保護する意図があり,この狭い周波数帯域で深宇宙通信技術は通用している.これを狭義の深宇宙通信技術と呼んでおく.表1が示すように,深宇宙通信はSバンドからXバンド,そしてKaバンドへ,より高い周波数へ適応してきた歴史がある.今では地上の移動通信に隣接するSバンドは,地上サービスの保護のためにほとんど使うことができない.そのため,専らXバンドとKaバンドが深宇宙通信のより所である.
図1は,2026年に打上げを目指す火星衛星サンプルリターンミッション,MMX(Martian Moons Exploration)の深宇宙通信ネットワーク概念図である.深宇宙通信の設計は,まずこのような概念図から始まる.地球局との間で,表1のXバンドとKaバンドを使用する.図中のコマンド回線が表1のアップリンクに,テレメトリー回線がダウンリンクに当たる.したがって,MMXはXバンドアップリンク/Xバンドダウンリンク/Kaバンドダウンリンクを使用するミッションである.ところが,図1には深宇宙では使用できなくなったはずのSバンドもある.このSバンドは,しかも近地球通信用のSバンドが使われる.このように,宇宙機と宇宙機を結ぶ通信(アップリンク,ダウンリンクと区別する意図で,フォワードリンク,リターンリンクと呼んだりする.)では,地上の通信サービスに影響がないことが明白であるなら,割当帯域外で使⽤可能な場合もある.本来は,このような宇宙機間の通信も深宇宙通信である.先ほど狭義と断った理由が,ここにある.深宇宙通信は,必ずしも宇宙機と地球局間に限らない.
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国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構,相模原市
Japan Aerospace Exploration Agency,Sagamihara-shi,252-5210 Japan