解説論文
宇宙天気の無線通信への影響
小特集
宇宙ICTの基盤となる宇宙通信技術のフロンティア
Summery 近年,宇宙天気が社会にもたらすリスクに対する認識が国内外で広まりつつある.宇宙天気が通信・放送,衛星測位,衛星運用,航空運用,電力等の社会インフラに影響する事例も起きている.2022年に開催された総務省の「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」では,リスクのある社会経済分野として,通信・放送など5分野が特定され,予報・警報の基準などが議論された.本稿ではそのうちの通信・放送分野に関連し,無線通信に影響する宇宙天気現象について解説する.その現象の多くは地球電離圏のじょう乱を通じて,電波に影響を与えるものである.そのほかに太陽から届く電波が雑音(ノイズ)として影響するものや,通信衛星自体の運用に影響するものがある.本稿では,これらの各現象を基礎的な背景を含め,どのような無線通信に影響するか解説する.また,同検討会で議論された予報・警報の基準に関連し,各現象の規模と無線通信への影響度を対応させた分かりやすい指標について議論する.
Key Words 宇宙天気,無線通信,太陽フレア,電離圏,電波伝搬
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はじめに
近年,宇宙天気が社会にもたらすリスクに対する認識が国内外で広まりつつある.宇宙天気とは,太陽活動の影響が地球近傍の宇宙空間や上層大気に到来して発生する一連の現象や,地球上層大気内で発生する現象の状況を指す.宇宙天気が社会インフラに影響した最近の例として,2022年2月には衛星コンステレーションを構成するために低軌道に打ち上げられた数十機の通信衛星が,大気圏に再突入して失われる事象も起きている.これは太陽フレアの影響が地球に到来し,それによって発生した大気のじょう乱によるものである (1).また,2019年11月から国際民間航空機関(ICAO)の規定により,宇宙天気が航空運航に必要な情報として取り入れられている (2).これは,宇宙天気によって特に極域上空で放射線量が増加することや(直ちに人体に影響するほどではないが乗務員の被ばく量の管理に必要.),短波通信や衛星測位の利用に支障が生じ得るためである.
こうした宇宙天気が社会にもたらすリスクについて,2022年に開催された総務省の「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」では,関係する社会経済分野として通信・放送,衛星測位,衛星運用,航空運用,電力分野が特定され,予報・警報の基準などが議論された.
本稿ではそのうちの通信・放送分野に関連し,無線通信に影響する宇宙天気現象について解説する.その現象の多くは地球電離圏のじょう乱を通じて,電波に影響を与えるものである.そのほかに太陽から届く電波が雑音(ノイズ)として影響するものや,本稿では扱わないが,前述のような通信衛星自体の運用に影響するものがある.2.では背景事項として電波の伝搬と関わる電離圏の基本的な性質を説明する.3.では無線通信に影響する様々な宇宙天気現象を紹介する.4.ではこれらの宇宙天気現象について現象の規模と無線通信への影響度との対応について解説する.
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電離圏の基本的な性質
本章では前提として必要な電離圏の基本的性質について述べる.
2.1 電離圏と太陽活動
まず,電離圏は地球上層大気が太陽から降り注ぐ紫外光のエネルギーを吸収し,電離した領域である.したがって,太陽紫外光の変動に強く依存する.図1は太陽活動の指標として太陽表面の黒点数の推移を示したものである.太陽大気から放射される太陽紫外光の強度もこれと似たような推移をたどる.太陽活動は約11年のサイクルを持ち,その極小期と極大期の違いは,図1の紫外光で見た太陽大気の様相に表れている.図2は地上約60 km
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国立研究開発法人情報通信研究機構,小金井市
National Institute of Information and Communications Technology,Koganei-shi, 184-8795 Japan