解説論文 
衛星搭載通信機器の技術動向

小特集
宇宙ICTの基盤となる宇宙通信技術のフロンティア

衛星搭載通信機器の技術動向

Technological Trends of Satellite Communication Equipments

石原秀樹 Hideki Ishihara† 

矢島雄三 Yuzo Yajima† 

谷 重紀 Shigenori Tani† 

安藤俊行 Toshiyuki Ando† 

Summery 地上網における通信技術やサービスの進展に伴い,人工衛星の役割は通信,観測,測位,探査と多岐にわたっている.近年は5G/6Gに代表されるように地上網と衛星網の連携が志向されるようになり,必然的に地上系の通信技術が衛星通信技術へ波及し始めている.一方で,衛星通信は宇宙空間に通信機器を搭載し地上網とは異なる環境で動作することが要求されることから,地上系の技術を衛星特有の技術に転化する必要がある.そこで,本稿では,人工衛星に搭載する通信機器に焦点を当て,各機器の通信技術について解説する.

Key Words TTC,ディジタルペイロード,光通信,オンボード処理

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はじめに

人工衛星を用いた通信は広域性と安定性の利点を生かし,図1に示すように安心・安全の分野で広く用いられており,主に通信,観測,測位サービスを提供している.また,科学技術の進展を目的とした地球外の探査にも供される.衛星はバス機器とミッション機器に大別され,バス機器は衛星自体の推進や姿勢制御などをつかさどるものであり,バス機器に搭載される通信機器はTTC(Tracking,Telemetry and Command)と称し,地上の衛星管制局(地球局)と通信して衛星自体を運用する.一方,ミッション機器は上述した通信,観測,測位サービスを提供するための機能群であり,衛星が提供するサービスによって搭載する通信機器が異なる.

バス機器のTTCは衛星自体の運用に供することから高信頼な通信が要求されるが,近年は衛星搭載機器の高機能化に伴う通信回線の高速化に加え,宇宙空間にも及ぶ干渉問題への対策技術が採用されてきている.また,従来はミッション機器の制御をkbit/s級のバスTTCで実現していたが,ミッション機器のディジタル化・大容量化が進展するのに伴い制御量が増大することから,ミッション機器専用のMbit/s級通信回線を提供し運用の柔軟性を向上する技術が開発されている.

ミッション機器のうち,通信衛星は航空機インターネットをはじめNTN(Non Terrestrial Net- work)の進展に伴い大容量化に資する技術が進展するのに加え,衛星の一般的な寿命である15年の運用期間中に社会情勢や市場の変化に伴い,衛星の機能を柔軟に変更可能なSDS(Software Defined Satellite)が注目されている(1).

観測衛星はこれまで災害時の状況把握等に供されていたが,近年はAI(Artificial Intelligence)を活用したビッグデータ解析・ソリューション提供が可能となり,船舶や農業分野で活用が進んでいる.これらサービスを実現するためには高精細・高頻度に観測データを衛星から地上へ伝送するための高速化に加え,光学センサや合成開口レーダで取得した観測データを高効率に伝送するためのオンボードデータ処理技術が注目されている(2).

本稿では,衛星が担うミッションやバスごとに,現状の通信システム設計・機器設計について説明し,想定される今後の動向について示す.

本稿の構成は以下のとおりである.2.では人工衛星が提供するサービスに応じた通信への要求事項を説明する.3.ではバスと各ミッションに用いられる通信技術について解説し,4.では各ミッション機器に共通した技術動向を説明する.最後に5.でまとめを述べる.

また本稿で用いる専門用語について表1に示す.

2

衛星の役割と要求事項

図2に示すように衛星軌道は主に静止軌道,中軌道,低軌道の3種類存在する.静止軌道は赤道上の高度約36,000 kmで地球の自転周期と同期した軌道であり,その衛星と同緯度にある地域は常にその衛星の可視範囲にあることから,定常的なサービスを提供する通信放送衛星,気象衛星に用いられ………

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三菱電機株式会社,鎌倉市

Mitsubishi Electric Corporation, Kamakura-shi, 247-8520 Japan