開発物語
FM音源の開発史とヤマハシンセサイザ
1.M音源との出会い
FM音源誕生の歴史は1972年に遡る.FMとはFrequency Modulationの頭文字を取ったもので,日本語では周波数変調と呼ばれており,ラジオのFM放送に使われるFMと言葉としては同じものである.ラジオの場合には搬送波と呼ばれる基本波形の周波数を変化させることで,伝送したい波形を表現する伝送方式のことを指す.一方,1972年に当時スタンフォード大に所属していたジョン・チョウニング博士が,基本波形(変調される側)と変調波形の両方が可聴周波数域にある場合,二つの波形の周波数比率によって様々なスペクトルが発生することを発見した.更にその事象をロジカルな回路で再現できることを証明して特許を取得した.これを様々な電子楽器メーカに新たな音源方式として売り込んだことが,FM音源誕生のきっかけとなる.
1970年代前半の電子楽器と言えば電子オルガンが主流で,シンセサイザとして販売されていたものも,アナログシンセサイザと呼ばれる電子回路の発振器をベースにしたものしかない時代だった.そのため,FM音源という全く新しい技術を理解できる楽器メーカはほとんどなく,チョウニング氏のFM音源を採用して製品化するという電子楽器メーカはなかなか現れなかった.
そんな中,1973年にヤマハの音源開発技術者にもチョウニング氏のFM音源特許が紹介される機会が訪れる.FM音源技術の説明を受けた技術者たちは,日本に帰った後に早速特許公報に記載されている回路をトランジスタトランジスタ論理回路(TTL)の組合せで再現した.このときの試作で出した音が,それまでの音源では聞いたことがない,本物のトランペットそっくりの音が出たため,その場に居合わせた誰もがFM音源の可能性を感じたのである.
これを機にヤマハ社内では,電子オルガン「エレクトーン」用の音源を開発するセクションや,ポピュラーミュージックで使用する楽器類(ヤマハでは軽音楽を意味するLight Musicの頭文字を取り「LM楽器」と呼ぶ.)を開発するセクションなど,FM音源を使用した音源開発を行うプロジェクトが幾つか同時に進行していく.ヤマハがアナログシンセサイザ1号機の「SY-1」を発売したのが1974年のことなので,それ以前から既にFM音源の開発が行われていたことになる.その後,1975年には正式にスタンフォード大とヤマハとの間で,独占使用を含むFM音源特許の使用許諾契約が結ばれた.
2.アナログシンセサイザの基本構造
FM音源の原理を説明する前に,アナログシンセサイザの基本構造を説明する(図1).
シンセサイザには,音そのものを発生する発振器(オシレータ)がある.アナログシンセサイザの場合には電圧を変化させることで発振器の周波数が変化し,結果として音程(ピッチ)の変化を得られるVCO(Voltage Controlled Oscillator)を用いる.鍵盤に抵抗を配置して制御電圧を変化させれば音階が奏でられる仕組みが,電子キーボード(オルガン)や鍵盤付きシンセサイザの基本構造となる.(注,ほかの方式もある.)この構造だけだと鍵盤がスイッチになったブザーのようになってしまうので,音量を変化させるアンプを併用して,電圧によって音量を変化させるVCA(Voltage Cont rolled Amplifier)を用いる.更に,電圧制御で音色を変化させるフィルタ(例えば低減フィルタ)を併用するVCF(Voltage Controlled Filter)を用いれば,音を明るくしたり暗くしたりといったことが可能になる.この三つの要素がアナログシンセサイザの基本要素になる.
また,この要素に加えて時間的な電圧変化を作り