巻末言

巻末言

私の「無駄な時間」

和文マガジン編集委員長 辻 宏之Hiroyuki Tsuji

コロナ禍で在宅勤務,オンライン会議などがかなり定着し,働き方や会議・授業のやり方も変わってきたと感じています.一方,情報通信技術もそれに合わせて変化していると思います.在宅勤務やオンライン会議・授業の増加で,通信インフラや通信システム・ソフトウェア技術が向上したことは皆さんも実感されていると思います.特にオンライン会議システム技術は,日々進化しています.更には,メタバース技術が登場するなど,ますます情報通信の技術が,このパンデミックの社会に関与していることは間違いありません.一方,コロナ禍で社会全体が大きく変わったことは言うまでもありませんが,特に移動する機会が減ったことは自分にとっても大きな変化でした.

どのくらい人の移動が減ったのか?

では,どれだけ人の移動が減ったのかと思い,具体的な数値を調べてみました.

まず,世界的な航空機の利用では,IATA(Oct.〜Dec.2021)によれば,2021 年の世界の航空輸送は2019 年比で旅客輸送量(RPK)が58.4%減と見積もられていました(1).簡単に言えば,世界では約6 割飛行機による移動が減ったことになります.鉄道を見てみると,JR東日本(東日本旅客鉄道)がコロナ禍における山手線駅利用状況の変化について,Suicaのデータを用いた分析・調査を行いました(2).ここには東京中心部における年齢別や駅の利用状況など様々な結果が示されています.これによると,東京中心部でJR 東日本の利用客はコロナ前と比較して約3 割から5割の減少であることが示されています.現在のICTを活用した方法で,このような数値が得られることは技術的に興味あるところです.また,コロナ禍における生活行動に関する情報は,国土交通省による新型コロナ感染症の影響下における生活行動調査にまとめられています(3).これらの結果が示すように,コロナ禍では人の移動はかなり減っていることが数字を見ても分かります.

オンライン会議と「どこでもドア」

2022年末では,出張や旅行も徐々に回復しつつあり,ようやく社会が動き始めている感じを受けます.一方,オンライン会議やウェビナーのようなイベントは健在です.開催者は会場費が削減でき,参加者は会場に向かうまでに発生していた交通費も発生しないため,参加者側にとっても大きなメリットとなります.また,参加者はインターネット環境さえあれば,パソコンやスマホを使ってどこからでもアクセスすることが可能です.更に移動時間が必要ないため,瞬時に別の会議やイベントに参加できます.このようなシステムは,いわゆる会議の「どこでもドア」だったのであり,ある意味実現できていると思います.このため,すっかり私も出不精になっていました.

無駄な時間

これまでは会議に参加するため,お金と長い時間を掛け,時には時差ぼけと闘いながら,現地に到着し会議に参加していました.オンライン会議を活用すると,移動に必要な時間「無駄な時間」を使う必要がなく,効率良く会議をこなすことができてしまいます.しかし,この「無駄な時間」は自分には本当に無駄な時間だったのかと,最近考えるようになりました.

よく考えると,移動中に頭を切り替え,考えを整理したり,車窓からの景色に季節の移り変わりを感じ,時には今はこんなものがはやっているのかと気づくこともありました.また,現地でしか食べることができない料理を頂いたときの喜びはひとしおです.このように移動することにより,実は多くの情報を得ていたのです.私の場合,どうやら無駄と思われた時間は無駄ではなかったようです.

将来は,X Reality 技術により,このような課題も解決されるかもしれませんが,現地での食事(特にお酒)の課題はまだまだ解決しそうにはありません.それから,運動不足も私の課題です.

今後どのように変化し対応するかは課題ですが,移動が少なくなった状況では,これまでの方法では情報が得られなくなる一方,新しい技術が生まれ,それを活用しないといけないと思う今日この頃です.

(1)民間航空機に関する市場予測 2022-2041,令和4年3 月,一般財団法人日本航空機開発協会

(2)JR 東日本ニュース,2021 年11 月4 日発行,https://www.jreast.co.jp/press/2021/20211104_ho04.pdf

(3)https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/toshi_tosiko_tk_000056.html

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