私の研究者歴 My Frontier Journey
半世紀のワイヤレスシステムの研究開発を振り返って

私の研究者

My Frontier Journey

半世紀ワイヤレスシステムの研究開発って

梅比良正弘(名誉員:フェロー)

昭53京大・工・電子卒.昭55同大学院修士課程了.同年日本電信電話公社(現NTT)入社.平18茨城大・工・教授.令3茨城大・名誉教授.同年から南山大・教授.現在に至る.主として衛星通信システム,広帯域ワイヤレスアクセスシステム,ワイヤレスユビキタスサービスシステム,コグニティブ無線,車載レーダ等の研究開発に従事.また情報通信審議会にて無線システムの技術的条件のとりまとめ,総務省国立研究開発法人審議会にて国立研究開発法人の業務実績評価に従事.

昭61〜62カナダ・CRC/DOC(通信省通信研究所)客員研究員.博士(工学,京大).

昭62本会学術奨励賞,平11同業績賞,令3同功績賞,同教育功労賞を各受賞.平13文部科学大臣賞研究功績賞,平15・平22電気通信普及財団テレコムシステム技術賞,令4「電波の日」総務大臣表彰等を各受賞.平27本会通信ソサイエティ会長.総務省国立研究開発法人審議会会長代理,情報通信審議会専門委員.IEEE会員.

南山大学教授 茨城大学名誉教授 梅比良正弘 Masahiro Umehira

南山大学教授茨城大学名誉教授梅比良正弘Masahiro Umehira

1. 電波との出会い

振り返ってみると,電波を利用するシステムの研究開発に携わって半世紀近くになる.電波との出会いは小学5 年生のときに興味半分で作ったゲルマラジオに遡るが,そのイヤホンから音が出たときの感動が,私のワイヤレスシステムの原体験である.ゲルマラジオは無線装置の基本を備えており,LC同調回路が登場するが,同調周波数の計算に出てくるルート(√)は,小学生には何のことか分かるはずもない.中学の数学でルートを学んだとき,「これだったのか!」と感激したことを覚えている.また,何とか遠くの放送局のラジオ放送を聞こうと,家の周りに針金を張り巡らせ(今から思えばアンテナである),故郷の広島で東京のラジオ放送局からの番組が聞こえたとき,「電波は面白い」と思ったことが今につながっていると思うと,人生,面白いものである.

2. 研究との出会い

小遣いの多くを費やしてラジオ,オーディオアンプやスピーカなどを作ったりする電子工作好き,電波好きだった私は,大学進学では迷わず電子工学の道を選択した.進学先の京大工学部で4回生になって研究室を選ぶことになり,無線通信の研究を手掛けられていた故池上文夫京大名誉教授の研究室にて,1980 年に大学院を修了するまでの3 年間お世話になった.当時の池上研究室の研究テーマは移動通信に関するもので,「移動通信は『いつでもどこでもだれとでも』の究極の通信」という言葉に夢を感じ,いたく感銘を受けたことを覚えている.折しも修士論文が佳境に入っていた1979 年12 月に東京23 区で自動車電話サービスが開始され,これからは移動通信の時代と思ったものである.

当時の研究室のテーマの一つが,移動通信における電波伝搬の解明で,それまでの伝搬実験データに基づく統計的手法が中心であった電波伝搬を,幾何光学モデルで理論的に説明し,これを市街地の電界強度推定に応用しようという試みであった.現在の「レイトレース」であるが,今では市販のレイトレースシミュレータや地図データがあるが,当時はそんなものはなく,レイトレースプログラムをFortranで自作し,京都市内の地図データも自作して,計算結果と実験結果を比較したりしていた.

その後,この修士論文の内容を基に池上先生がIEEE の論文を執筆され,私も共著者に入れて頂き,私の初の原著論文となった(1).私の論文の中で引用………